見知らぬ家で
月明かりが暗い夜道を照らす。
その明かりさえも嫌うように、人の目を避けながら修二は目的の家へと向かっていた。
そして、目的の家にたどり着くと息を殺しながら扉を開き中に入る。
中は人が住んでいた名残が残っており、どの家庭にもある日用雑貨が乱雑していた。
ホコリを被っていない所を見るに、数日前はこの家に人が住んでいたのだろう。
何処にでもある普通の家。
荒れていなければそう思うところだが、流石に倒れた椅子や、旅支度用に必要な道具、そして争った形跡が残っていれば、ここの家主が何らかのトラブルを抱えていたことが容易に想像がつく。
借金。
十中八九金を返せなかった客からこの家を借金のカタに抑えたのだろう。
まあ、それでも支払いが足りない為、恐らく捕まった人達は商人ギルドの借金奴隷として働かされているのだろうな。
ムハナ並みにこの街の狸ジジイ共は金に五月蠅い。
約束を反故にしようとした時点で確実に死ぬまで使い潰されているだろう。
潔く家を明け渡し、誠心誠意頭を下げていれば狸ジジイ共も法を守り借金返済後は自由にしていただろうが、一度裏切った者を奴等が許すとは思えない。
腹黒で金に癒着する狸ジジイ共だが、仁義を通せばそれなりの人情は見せてくれる。
ここの家主はバカなことをしたなと思いつつ、倒れた椅子を起こし腰かけた。
そして作戦の時間が来るのを待つ。
「夜も更けたこの時間、皆酒も飲めねぇことに気分が沈んでいる事だろう。わかるぜ。俺も同じ気持ちだ。だが心配するな。お前等には俺がいる! このイケボ王子がお前等の沈んだ気持ちを晴れやかにしてやろうじゃねぇか! さあ聞け! 俺が語る最新物語! イケボ大戦! 俺はいつまでもお前達の鼓膜の中にいるぅぅ!」
「いつまでやってんだ。つか、そのテンション続いてたのか? おいおい、全員無事か? 生きてっか?」
「お~う、何度かうっせぇときもあったが、問題ねぇ~ぞ~」
「度が過ぎると相方が止めてたからなぁ」
このテンションに半日付き合うだけでも士気が衰えかねない。
というより、コイツは今潜伏しているのではないのか?
良くこれだけ騒いで潜めるな。
「むか~し、むか~し、とってもイケメンな俺! 神も敬うイケてるボイスの俺! がおりまむごぉぉ!?」
「丸太を噛ませた。雑音が混じるが勘弁してくれ」
本当は気絶させるなり、首を絞めて落とすなりしたいのだろう。
それをしないのは全員との連絡手段が失われるためだ。
それ以外にコイツの有用性はない。
と言うか、丸太を噛ませるってどうやるんだ?
「シュウジ。そろそろ予定の時刻が迫っている。戦闘が始まる前に状況に変化が無いかの報告してくれ。それだけでここにいる全員が安心できる」
そんな疑問を考えていると、不意にハスキーな声が聞こえてきた。
修二にはなじみ深い声で、このアクの強い者達を纏められる人物だ。
「久しぶりだな統括。こうやって話すのは何年ぶりか」
「懐かしむ暇もなければ、無駄話をする気もない。お前はお前の仕事をこなせばいい。そうすれば荒事は俺達が片を付けてやる」
「統括バナナです」
「ウホッ!・・・うっほん、そこに置いておけ」
「クカカッ、誤魔化しきれてねぇぞ。相も変わらずゴリラゴリラしてんな」
そしてそんなアクの強い者達を纏められる者が普通であるがはずがない。
皆に統括と呼ばれている人物の性格は少し自信家な所があるが真面目で仲間想いのあるいい奴だ。
ただ、人族から突然変異として産まれた猿人、いやゴリラ人? であるため、見た目が凄く野性的。
人がゴリラの着ぐるみ着て歩いているような、風貌だ。
まあ、皆一度は見た目に驚きはするが、そういうの気にしない奴等がここには集まっているけどな。
「おうバナナだってよ! 統括またバナナ食ってるってよ!」
「副統括のバナナか? アイツ女だったのにいつの間に雄になったんだ?」
「おいまて! 雄になったってことは、あの爆乳もお亡くなりになったということか!?」
「せ、世界の宝が失われただと!?」
「神は・・いや、乳は死んだ。うううぅ」
というか、中身が腐っているか、バカ野郎か、変態くらいしかいないので、見た目などというのは些細な事なのだろう。
今考えると何で俺の周りにはこういう変なのしかいないのだろう。
「はぁ・・・あん?・・・お前等、動いたぞ」
己の人脈に頭を痛めていると、不意に目的の獲物が動き出したことに気が付き、警告する。
そして、そう警告を発した瞬間、今までふざけていた変態共の空気が変わり誰も口を開かなくなった。
「情報に差異はあるか?」
「安心しろ渡した情報に差異はない。ただ奴等随分と警戒してやがる。問題ねぇとは思うが、ヤバくなったらすぐに逃げてくれ。取り逃がしても、どうとでもなる」
「わかった。その配慮に感謝する。シュウジはその場で変化があり次第報告しろ。いつも通りにな」
「了解」
返事をしてすぐに、皆の声が聞こえなくなった。
そしてすぐに統括と他数人の声だけが聞こえるようになる。
これから統括などの指示する者や修二のように情報を提供する者、念話の特殊能力持ち以外は戦闘になる。
最新情報が手に入ったとしても、終始雑言が聞こえるのは戦闘する者にとって枷にしかならないからな。
(さて、ここからは監視というなの傍観だな。はぁぁぁぁ、あともうちょい頑張れば脳みそ休ませられそうだ。あ~~~、キッツ~~~イ)
そんな事を思いながら、今も修二の目に映るいくつもの光景や、脳に直接聞こえてくる人々の思考に眉を潜めながら、真っ暗な部屋を見つめ続けた。




