結構前の騒がしいひと時
決行日。
修二は朝早くから能力を使い敵の位置と味方の位置を全て把握し、更にはそれぞれどんな武器を持ってきているのか、敵はどんな武器を所持しているのか調べ上げていた。
味方にどんな奴等が来たのかなど知らないし、報告もされていない。
というより、報告は受け付けていない。
報告されなくとも誰が来ているのか調べることができるし、そもそも誰が来るのか調べるまでもなく予想できるからだ。
そして、敵の情報はあらかじめ各ギルド長達にリークしてあり、それぞれどの敵をどこで迎え撃てばいいのかの予測も伝えてある。
まあ、それでも現段階で立てた予測であるため、少しの変化で外れる可能性がある。
なので随時連絡する必要があり、その為には協力者達と接触する必要があるのだが、それも問題はない。
いつもの面子が訪れているのだから。
「こんこんこん、こんこんこん。ノック音がする。ぴよぴよぴよぴよ。入っています。入っていますよ。可愛らしい小鳥の声が扉を叩かないでと・・・」
「朝っぱらからウルセェな。お前はいつも何かしら喋ってねぇといられねぇのかよ。つか、いきなり絵本の朗読とかやめろ、気持ちわりぃ」
耳元からいきなりおっさんの声が聞こえてきた。
それも渋いおっさんの声が小さな子供にお話を聞かせるように、可愛らしさを意識した感じでだ。
猫なで声と言うのか知らんが、物凄く気持ち悪い声だ。
「気持ち悪くはねぇぞ。子供達には好評なイケボイスだ。皆俺のイケボイスでおねんねよ。スゲェだろ? なっ? スゲェだろ!」
「イケボイスだろうが何だろうが、耳元からおっさんの裏声が聞こえるのはキモイっての。鳴き声の部分なんかマジで鳥肌もんだぞ」
「鳥肌たつくらいのイケボイスとか褒めるなよぉう! 男に褒められてもちょっとしか嬉しくねぇぜ! つか、褒めるなよ。マジで褒めるなよ! フリじゃねぇからな!」
「・・・耳が腐ってやがる」
「なに!? 耳が腐るほどのイケボだと!? 俺ヤベェな。マジでヤベェな。くっそう、やめろって褒めるのやめろって俺を殺す気かよ!! ほめ殺しかよぉ~!あ~もぉ~、まだ死にたくねぇぜぇ!!」
「・・・・・・はぁぁぁぁぁ」
相も変わらず全てをプラス思考で受け取り騒ぐコイツは嫌いだ。
修二の数少ない心から苦手とする知り合いで、人の話は聞いているのか聞いていないのかよくわからぬ奴だ。
更に自分に対する暴言は九割がた褒められたと勘違いする変な奴である。
能力は対象者の五感と繋がること。
遠話のような能力だが、全く異なる。
今もこいつの声以外にも配置についている協力者達の話し声や雑音が俺の耳にも聞こえていくる。
あちら側も俺が聞いている音が聞こえていることだろう。
あれだ。要するに無線だ。
周波数さえあえば誰にでも聞こえるオープンチャンネルみたいなもんだ。
使い方によっては一気に情報を伝えることが出来る便利で厄介な能力だ。
まあ、こんな騒がしい奴が使っている時点で、誰も使わないだろうし、使ってもストレス死しそうだがな。
「決行時刻場所変わらず。配置も獲物もかわらず。今のところ全てにおいて予定通り。変更があり次第、随時伝える。俺と統括以外話すな。念話終わり」
「念話終わり、じゃねぇよ! 久しぶりだってのに事務的すぎじゃね? もうちっと駄弁ろうぜ? 皆で喋ろうぜ? そして俺のイケボに酔いしれてくれちゃおうぜ?」
「煩わしい。さっさと失せろ」
「引っ込めバカ野郎」
「耳が腐るって言ってんだろうがボケナス!」
「てめぇはただの伝達係だろうが! おしゃべりインコみてぇに騒いでんじゃねぇ!」
「引っ込めこの勘違い野郎!」
「おい統括以外話すなっていってたが・・・まぁいいか」
「な、なぁ、そんなことより今度遊びいっていいか? こ、子供達のオモチャとかお菓子とかいっぱい持ってくからさ、え、えへへへへっ」
「あっ! わりゃもいきてぇ! 生まれたんだろ? かわゆい女の子がよぉ~」
「おいなんか! 変態がいるぞ! 変態が!」
「大丈夫です彼等は紳士です」
「我等が保証しましょう」
「彼等は我等と同じ変態で変人に変貌したただの紳士です」
「「「だから安全!!」」」
「ヤベェぞ。一部隊変態が混ざってる。どこのギルドだ!!」
「騒がしい! 変態など各ギルドに在籍しておるわい!」
「釜戸出来たぞい!」
「芋焼けー!」
「釜戸設置よーし! 飯入れろー!」
「見ろ! 毛虫つかまえたー!」
「バッタ捕まえたー!」
「蜘蛛捕まえたー!!」
「新薬あるぞ?」
「それ新薬じゃなくて失敗作じゃあ・・・」
「よーし全部入れろ!」
「「「「おおーーー」」」」
「・・・・おれしらない」
「おおう!? いつもながらにひでぇ奴だな。久しぶりの会話だってのによぉ。照れてんのか? そうか、そういやお前はそいう奴だったな。全く困ったもんだぜ。照れ屋は嫌いじゃないが、可愛くねぇっての。やっぱ初心なのは女に限るぜ。初心なのが許されるのは女だけだぞ。そうだそうだ。初心と言えばこの前店にそりゃあ可愛い女がいてな、どうにも新人らしくてよ。酌するのもおぼつかねぇほどでよ。見てるこっちがはらはらしちまったぜ。いや~、ああいうのも偶にはいいもんだ「一旦全ての念話を切る」ぐふっ!?」
「・・・・・・・・・」
ストレス死にしそうではなく、確実にストレスで死ぬ。
こんなに騒がしいのは久しぶりだぞ。
やることやって貰えれば文句は言わねぇけど。
「いつも通りと言えばいつも通りか・・・はぁ疲れるな。色々と」
一度ため息を吐いた後、修二はおぼつかない足取りでゆっくりと立ち上がると、壁に手を添えて歩き出した。
今修二の視界はこの街の地図や犯罪ギルドたちの動き回る光景で埋め尽くされていた。
更に随時流れてくる対象者の思考。
脳内に絶え間なく人の声が響き渡っているそんな状況である。
普通そんな状況ではまともな受け答えができる訳もないのだが、そこは長年使い続けている能力のおかげもあって、慣れたようだ。
まあ、慣れていても五月蠅い事には変わりなく、平衡感覚が少々狂ってしまうので歩くのが面倒であるが。
「・・・・・・・・・」
「あん?・・・・・・」
部屋を出てすぐに、掃除をしていたティティティと出会う。
いつも騒がしくしているティティティなのだが、最近とんと静かになった。
というか、へそを曲げているのか、俺と話そうとはしないし、今もあからさまに頬を膨らませてそっぽを向いている。
未だに子猫を探しに行かないことに腹を立てているようだ。
「・・・・・・・・・」
数秒ほど、ティティティを見ていた修二だが、声を掛けることは無く、そのまま食堂へと向かった。
「しゅうじなんて・・・・だいっきらいらぁ」
その呟きは確かに修二の耳に届いていたが、修二は何の反応も見せることは無い。
素直に構って欲しいと言えない幼い子供の声であるのだが、その言葉の意味に修二が気付くわけもなかった。




