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ロストしたら俺のモノ-酒飲み自由人のダメ男生活-  作者: タヌキ汁
第一章 日常生活と非日常編
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馴染みの爺さんは木の上に


「の~んだくれ、のんだくれ~。お越しにつけた高級酒~、いったい誰と飲むのかよ~」


 歌の通り修二は腰に最上級の高級酒をぶら下げ森を歩く。

 他にも最高級の店で購入した最上級の希少肉のツマミもぶら下げている。

 はっきり言って危険な魔物や動植物が生息する森の中で歌を歌いながら歩くのは自殺行為に他ならないが、数日前の子供を助けるために色々めちゃくちゃにしたおかげで浅い階層の魔物達は怯えて巣穴に引っ込んでいるので問題ない。

 それに、修二の能力で危険な生物と鉢合わせにならないように道を選び、移動しているので安全であった。


『目的地に到着しました』


 感情が無く人形のような声が脳内に響くと同時に視界に映っていた矢印が消える。

 これは修二の能力の一部であり、極まれに無機質な女の声が知らせてくれる。

 声を発する条件はよくわからないが、そういうモノなので気にするだけ無駄だ。

 初見で聞けば不気味だと思うだろうが、もはや慣れ親しんだ修二にとっては、この声は親しみやすく、頼りがいのある声になっていた。

 そもそも相棒の声だと思うと、不気味などという感情は抱かなくなった。


「ご苦労さん。引き続き三キロ以内に危険な魔物だか動物だかこねぇか警戒してくれ。ヤベェと思ったら教えてくれよ」


 返事はないが、修二の右目に映る地図が青色に点滅したので了承したのだろう。

 声で返事したり、矢印や地図で返事したりとボキャブラリー溢れるのはいいが、声を出せるのならば話せばいいのにと思ってしまうのは俺の我がままだったりするのだろうか?

 そんな事を考えながら、修二は目の前の大樹を見上げる。


 この前救助した子供が登っていた木よりも背は低いが、太い枝が何本も生えており、伸びた枝が隣の木を支えにするかのように寄りかかっている。

 植物には詳しくないが、確かコイツは伐採対象になる植物のはずだ。

 名前はしらんが、コイツはデカくなりすぎると周りの木々をなぎ倒し、己の養分とし、さらに大きくなっては、限度なく大きくなっていくとか。

 まぁ、専門家じゃないからそれくらいしかわからん。


「よし、いっちょいきますか」


 そんな無駄に横に枝を伸ばす大樹を見上げながら、修二は気合を入れ、登り始めた。


「よっ! はっ! ほいさっ!」


 枝が太いうえに、枝と枝との間隔が広い、斥候であり元軽業師ではあってもかなり苦戦するような生え方をしている。

 だがそんな場所でも修二は危なげなく登っていった。

 そして、天辺付近に生えている太い枝まで登ると、その場に腰を下ろした。


「さて・・やっこさんは起きてくるかねぇ」


 そう一人呟くと、腰に下げていた最上級のツマミを並べ、向かい側に杯に酒を注ぐ。

 そして残った酒は己の腰にぶら下げた。

 飲みたいが、今後の予定を考えると酒の香りを残すことはできない。

 二日後には犯罪者ギルドのバカ共を排除する日だ。

 なので、修二は巨木の上からただツマミだけを齧りながら空を眺める。

 今日は風がやさしく頬を撫でる陽気な日だ。

 ここが危険な森の中でなければ、昼寝に興じていたいほど良い風だ。


「良き酒であるな。童よ」

「起きたか。ふうじぃ、大体半年ぶりだな」


 不意に声をかけられそちらに視線を向けてみれば、酒の杯よりも小さな小人がそこにいた。

 その小さな小人は向かいに置いておいた酒の入った杯に触れている。

 酒が徐々に減っており、葉の仮面が赤く色づいているので、酔っているのだろう。


「おや、まだそれほどしか時がたっとらんか。なればもうちっと寝とってもよかたのぉ」

「流石の俺でも半年は寝すぎだと思うぜ? 全く相も変わらずのんびりしてんなぁ」


 人族ナンバーワンののんびり屋兼ダメ男が何言っているんだと思うが、そこは突っ込まないでおこう。


「ふぇふぇふぇっ、生き急いでおる童の価値観とは相いれぬよ」

「俺が生き急いでるなんてズレたこと言うのは、ふうじぃくらいだぜ。まあ、寿命のねぇ精霊からしたらこんな俺でも生き急いでいるように見えるのかもしれねぇな」


 ふうじぃと呼ばれている小人の正体は精霊。

 それもただの精霊ではなく上位の風精霊である。

 上位精霊ともなれば、高名な精霊術師達がこぞって契約を結びたかるものであり、精霊術師でなくとも、一目見るだけでも幸運と言われている存在であった。


 そんな風精霊が何故うだつの上がらないおっさんと知り合いなのかと言うと、出会いはただの偶然に過ぎない。

 今回のように木の上に登り景色を肴にしながら酒盛りをしていると、酒の香りに誘われふらふら~と現れたのがふうじぃだった。

 そしてそのまま、なんだかんだと二人で杯を交わし、意気投合したおかげで他人から知人となり、また森で飲んでいる時に出会い、また同じように酒盛りをと何度か繰り返していたら知人から友となり、友から酒友となっただけだ。


「そういや、ふうじぃ。俺、六日後にこの街離れるぞ」

「ほぅ、今度はどこの街に行くのじゃ?」

「どことは決めてねぇな。まあ、方角は東に向かうつもりだ。あっちの国は水がうめぇからな。いい酒が手に入りそうだ」

「ほぅほぅほぅ、それは楽しみじゃて。なれば、良き酒が手に入ったならばまた森で飲んでおくれよ。気が向いたならば顔を見せよう」

「おう、いつも通り気が向いたらだな。了解」


 精霊であるふうじぃは基本物を食べる必要は無いが、酒などの嗜好品を楽しめるだけの感性は持ち合わせている。

 長く生きた上位の精霊は感性が気薄になっていくので、ふうじぃのような精霊はとても珍しい部類に入る。

 類は友を呼ぶというか、なんというか。


「それで、今回はそれを伝えに来ただけかのぉ?」


 そして、感性を持つ精霊にとって、気に入っている人間の行動を知ることは普通のことであった。

 まあ、風のある所、空気のある所であれば、どんなことでも知ることが出来る風精霊。

 寝ていると、ふうじぃは言っていたが、別にその間意識がないわけではない。

 あえて質問したが、何故修二がこの場に現れたのか知っていた。


 修二は精霊術師ではないので、精霊と契約することはできない。

 故に精霊に対価を払い、願いを口に出すことは許されない。

 だが、それは人が勝手に決めた理。

 精霊が力を貸すのに対価など必要ない。

 ただ、気に入った者に力を貸すだけ。

 それも四六時中傍にいる訳ではなく、気分次第で助けるか助けないかを精霊が決める。

 そして、今のふうじぃはただの口約束にも関わらず、律儀に酒を用意する修二に対して、少しくらい力を貸してもいいと思っていた。

 修二が一言犯罪ギルドの奴らを皆殺しにしてくれと願うだけで、多くの犯罪者どもが屍となるだろう。

 ただ、多くの犯罪者ギルドの奴等が死ぬだけで、全滅しないのは、ふうじぃが途中で飽きてしまうからだ。

 飽きると言う感情が無ければ、確実に犯罪者ギルドの者達はこの世界から駆逐されているだろう。


「バレたか。いや、今回ふうじぃに頼みたいことがあってな」


 そして、そんな願いを精霊に願う時点でその人物に興味を持ち続ける訳もない。

 いくら酒を用意され、共に飲み合う間柄になったとしても、今後修二の元に姿を現すことは無いだろう。


「ふむ、なんじゃ? 何でも言うてみよ」


 それを知ってか知らずか、修二は頭を掻きながら軽く頭を下げた。


「今度そのクソ野郎共を片付けに行くんだけどよ」


 あぁ、やはりその話かとふうじぃは少し悲しくなりながらも、ニコニコと笑みを浮かべながら話を聞く。

 友になろうとも精霊の強大な力を知る者がそれを頼らぬわけも無し。

 人の価値観からすれば友であるのだから、助けてもらえると思うのだろう。

 それに対価を払えばよいとも考える。

 断られると知っていても、そして断られることを許したとしても、それを根に持つのが人である。

 いつまでたっても人は私利私欲に走る愚かなままであったか・・。


「そのクソ共片付けた後にさ、魔導船に乗って旅すんだけどさ。だからよ・・・その・・・そん時の天候がどうなのか教えてくれねぇ?」

「ふむ、話はわかった。その願い聞き届け・・・・・む?」


 予想外の願いに首を傾げる。


「童よ。願いは天候を聞きたいであっておるかの?」

「ああ、魔導船ってのは空飛ぶスンゲェモンなんだがよ。稀に墜落したりする・・なんて話も聞くからな。嵐とかだとマジでヤベェらしいぜ。つっても墜落するなんて稀な話だから、そこまで心配しちゃいねぇんだけど。念の為な」


 修二の能力は、修二が望んだ情報を検索し知ることができる。

 生物であれば居場所も、対象にした者の情報も、そして過去も今考えていることも全て知ることができる。

 無機物の場合は少し条件が異なるが、それでも居場所を調べることはできる。


 ただ、修二の能力でも完璧に調べられない存在がある。

 それが本能で動く魔物と自然だ。

 魔物の思考を読みとることが出来ても、アイツ等基本獲物・獲物。殺せ・殺せ。犯せ・犯せ。死か考えていないので読みとってもなんの得にもならない。

 そして自然は数万キロ先の土地で雨が降っている事を知ることはできても、己が今立ってる場所にいつ雨が降るのかなどはわからない。

 いつ晴天が嵐にかわるのか予測はできても、それが当たるかどうかは、正直な所五分五分と言った所だろう。

 時間をかけて調べていけば、天気予想の精度は上がるだろうが、それでも完璧な予測には程遠い。

 故に風精霊であり、自然そのものと言っていいふうじぃに天気を聞きにきたのだ。


「ん~~~~?? 童よ。もっとないのかの? ほれ、例えば童が片付かると言っとる奴等の片付けを手伝えとかないのかのぉ?」

「?? なんでふうじぃがでしゃばってくるんだ? 奴等は俺の獲物だぞ」

「その獲物を狩るのに儂の力はいらぬのか?」

「いらね。ふうじぃ強すぎんだよ。蠅退治にドラゴンがでて来られちゃ、興ざめもいいところだ」

「じゃが下手したら死ぬぞ? 狩りとは名ばかりの殺し合いじゃろ? なれば儂の力を欲するべきではないか?」

「死ぬ事よりのテメェのケツ拭けねぇ方が我慢ならねぇよ。つか、ふうじぃ達精霊は人のいざこざに関わるのが嫌いだろ? なのに何で関わろうとすんだよ?」


 別に自ら関わろうなどとは思っていない。

 ただ、今まで人が精霊に願いを口にするときは決まって力を欲する時だった。

 故に今修二が口にしている願いは偽りであると考えていた。


「ちと気になっただけで、そんなつもりは無いのぉ」

「なら気にするなよ。下手な好奇心は身を亡ぼすぜ。つか天気教えてくれよ。事を済ませていざ旅立ち! ってときに嵐で墜落。そのまま死亡とかだったら流石に死んでも死にきれねぇよ」


 死ぬならやっぱ酒に溺れてくたばりてぇよ。それが酒好きとしての本懐だと思わねぇか? とクツクツと笑いながら問いかける。


「・・・わからぬなぁ。己の死にざまを決めているにもかかわらず、儂の力に頼らず危ない橋を渡る。その意味がのぉ」

「クカカッ、そりゃあわからねぇよ。ふうじぃはなんたって精霊様だからな」


 ふうじぃのぼやきに修二は更に笑みを深める。


「『精霊の力を人の欲に使うべからず、精霊とは世界の均衡を保つための存在。私利私欲に使う事、それは星の命を奪うことと同義と知れ』だろ」

「博識じゃのぉ。それは数千年前に精霊王様と契約を交わした初代様のお言葉じゃぞ」

「まあな! って自慢したいところだが、ふうじぃはどうせ知ってんだろ。俺の能力がなんであるかをよ。俺の能力がバレテっと素直に自慢も出来ねぇし、褒められてもうれしくねぇな」


 偉い学者の様に古い文献を調べたり、研究してりと言った努力を一切していない。

 ただ能力で、一番精霊に詳しい偉人の名前を探し、名前が知れたらそいつについての情報を全て調べ脳に叩き込んだだけだ。

 それだけで、嫌と言うほど精霊について知ることができた。

 ほんと苦労も努力もしてないから、褒められるようなことではないな。


「まっ、その初代の言葉を知ってるから、ふうじぃの力に頼る気がしねぇんだよ。それにふうじぃと俺はただの飲み友ってだけだろ?」

「飲み友のぉ。ほほっ、嬉しい事を言うてくれるわい」

「おう、マジで喜んでいいぜ。俺が飲み友と呼ぶ奴はそう多くねぇ。だから、俺がくたばるまで、酒飲みに付き会ってくれよ。俺と飲み明かせる酒豪は、ドワーフ共とふうじぃ達精霊くらいしかいねぇんだからよ」


 そう言うと、修二はまたツマミに手を伸ばした。

 先程の言葉に偽りはなく、心からの言葉に聞こえたふうじぃはポリポリと頭を掻きながら、酒を飲んだ。

 英雄であろうとも、賢王であろうとも、奴等は我等の力を求めた。

 強くなければならぬものほど、守る者がある者達ほど力を求めずにはいられなかった。


 それは仕方がない事であるが、それでもただ利用する彼等を儂等は好まない。

 いつも割を食うのは使われる儂等であり、美談にされようとも光を浴びるのは儂等ではなく、儂等を使った人であり、儂等は結局道具として認識されていた。


 時がたてば、人の心も変わる。

 心清らかな幼き友は、時がたつにつれ大人へと変わり、清らかさが無くなる代わりに、この世を生きる知恵と欲を授かる。

 いつまでも清い友を求め続けることは叶わない。

 儂等がふらりとどこかに行っている間に友は友でなくなってしまうのだ。


「童よ。童はいつまで童でいられるのかのぉ」

「俺はとっくにいい年の大人だっての。たく、長寿の奴等はいつまでたっても俺をガキ扱いしやがって、イヤになるぜ」


 ふうじぃが何を思っての問いかけか理解していない修二であるが、そんな修二が変わらぬことをふうじぃは願い、静かに酒を飲んだ。





「つか、結局天気はどうなんだよ? 教えてくれねぇの?」

「ふ~む・・・・・・うむ、教えてやらぬ。旅とは先が見えぬから面白いのじゃ。全てを知ってしまえるお主にはそれくらいの楽しみがあっても良かろう?」

「いや、俺は別に旅を楽しみたいわけではなく、酒を楽しみたいだけなのだが・・」

「それはダメじゃぞ。童と酒を飲みかわすとき、たまに旅の話をしてくれるじゃろ。あれは結構楽しみにしておるのじゃぞ。何が起こったか知っとるが、お主が何を感じたのか、何が面白しろかったのか話してくれるのが楽しいのじゃ。じゃから旅の手伝いなど絶対せぬ!」

「う~わ、これだよ。んだよ。使えねぇな」

「使えなくて結構じゃ。なんていったて儂はただの飲み友であろう?」

「飲み友ならこれくらい手を貸せよ。天気教えるくらいいいじゃねぇか」

「お断りじゃな。ほれ、杯が空になってしもうた。おかわりじゃ! おかわり!」

「やだね。コイツは馬鹿共片付けたら飲むんだ。この街じゃあなかなか手に入らねぇ希少なヤベェ酒なんだぜ。二口目から度数が倍になり、三口目から更に倍だ。飲めば飲むほどクソヤベェ酒になるって酒豪殺しだ。くぅ~! 俺も早く飲んでみてぇなっ!」

「ほぉほぉほぉ、ならばもうちっと飲ませて貰おうかのぉ」

「あっ! 何すんだよふうじぃ! ずりぃぞ! こんな時ばっか力使うとか! マジありえねぇ! つか動けねぇぇぇっ!?」

「ふぇふぇふぇっ。こりゃあキツイ。こりゃあキツイのぉ~」

「おい! おいおいおいおいっ!! っちょ待てよ! 全部飲んでる! それ全部のんでるぅぅぅぅぅっ!? やめろーっ!! やめてくれぇぇぇぇぇっ!! おあぁぁあー!・・・・・・こ、この野郎。冗談抜きでマジで飲み干しやがった」

「ふぃ~、ごちそうさまじゃ~。量は少ないが、良き酒であった・・・さて、帰るかの」

「おい! 飲み逃げとかマジでふざけ「ばぁい!」ツマミまで持ってくなこのクソジジィィィィイデッ!?」

「皿は返すのじゃ」

「頭に落とすなボケェェェェェッ!!」




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