いなくなりし者
「わえぇぇぇん! しゅうじのバカァー!!」
ギルドで用事をすませた後、街で旅の準備を整えてから、宿に戻りまったりしていたのだが、その日の夕食時に食堂で飯を食っていると、なぜかティティティが癇癪を起した。
まるで意味がわからん。
「うせぇな。いったい何だってんだ」
泣きながら駆けていく姿を迷惑そうに見送りながら、食事をつづける。
「そりゃあ、お前が子猫を探しにいかないからだろ」
「なんだそりゃ」
ギルドに行く前は確かに部屋にはいた子猫は、ギルドから戻ってくる頃にはいなくなっていた。
扉は開いておらず、かわりに窓が開いていたのでそこから出て行ったのだろう。
己の意志で出て行った時点で探すつもりなどなく放置していたのだが、ティティティはそれがお気に召さないらしい。
探してきてという願いも、すげなく断ったら物凄く泣きだした。
「元々野良だろ。人様に飼われるのは窮屈だったんだろうさ」
「そうか? わりとお前に懐いていたと思うが?」
「そりゃあオヤジの目が腐ってるだけだ。野良猫が人様に懐く訳ねぇだろ」
猫は俺達冒険者以上に気まぐれで自由だ。
飯を食わせてくれるならば、懐いた仕草を見せるが、それはただのフリ。
本当に懐くわけもない。
いくら頭が良くなったとしても、本質は早々変わらない。
「つか、オヤジ達にとっちゃ猫なんざいなくなった方がいいだろ? 一応連れ込んじまった手前、生活魔法で綺麗にしているが、それは俺の部屋だけの話だ。他の所は全くの手付かずだし、猫の毛が所々落ちて掃除とかメンドウだったんじゃねぇか?」
本来獣を宿屋に入れるべきではない。
どれだけ生活魔法で汚れやダニを落として綺麗にしていても、毛は落ちるし、そこら辺で勝手に小便をしてしまう。
まあ、あの子猫は知能があるおかげで、そこかしこに小便を撒き散らかすことは無く、ちゃんと人と同じトイレで済ませていたので、手間はかからなかったがな。
普通に人様のトイレで用を足している姿を見た時は流石に驚いたぞ。
あれでアイツは、己がただの猫だと偽っていたとか、今考えると笑えてくるな。
「それはそうだが、あの子猫がいると客の入りがいいんだよな。宿泊客にも結構評判良かったしよぉ」
「アイツが?」
修二は知らないが、修二が魔道具や手紙の作成をしている間、子猫は宿屋で多くの客と戯れていた。
子猫自身率先して他の客と接していた訳ではなく、ただ悪意無く近寄ってきては飯をくれるので、背中や頭を撫でられるのを許していただけに過ぎない。
そして、幼い子供が少し乱暴に触れてきても怒ることは無く、軽くいなすだけだった。
死んでしまった弟妹達を思い出し、年上のお姉さんとして寛容な心で見逃しているだけであったのだが、人から見たらその行動は危険な獣としてではなく、面倒見の良く温厚な人懐っこい子猫と認知されることとなった。
更に言えば、部屋が汚れるという理由から修二が定期的に魔法で身綺麗にしていたおかげで見た目も野良とは思えないほど清潔であったため、好意的に取られていたのだろう。
「結構評判よかったぞ。粗相しないし、大人しいし、仕草がいちいち可愛いから、女性陣の評判がすこぶるいい」
「オヤジの口から可愛いなんて言葉が出るとは・・・・なんか、気持ち悪いな」
見た目を考えろと思いながら修二はオヤジの言葉をくだらないと吐き捨て、席を立つ。
「ああ、そういやオヤジ。俺一週間後にはここを出て行くからな。宿代は以前渡した金で足りてるよな?」
その言葉にオヤジは驚く。
「出ていくとは随分な言い草だな。仕事か?」
「そんな訳ねぇだろ。旅だ旅。この街の酒にも飽きたからな」
「そうか・・・・・・金は問題ねぇ。というか貰いすぎてる。後で差額分を渡そう」
「面倒だ。それくらいくれてやる」
「軽く計算しただけで銀棒六本分だ。流石に貰えねぇよ」
「いらねぇっての。まぁ、気になるってんなら今度来た時にでも差額分泊まらせてくれ」
「流石にいつ来るかわからん客との約束はしたくねぇ。忘れちまうかも知んねぇからな」
「別に忘れても責めやしねぇよ・・・だったらあのバカ猫が顔出したときでも、飯食わしてやってくれ」
そう言うとこれ以上面倒な話はごめんだと言いたげに食堂を出て行った。
銀棒一本で大人が飯付きの宿にひと月泊まれるほどだ。
たかだか猫の飯代に置いて行っていい金額ではない。
まさか猫の餌代として置いていくとは思わなかったオヤジは、やはりなんだかんだ言っても心配しているのだろう思い、どこか呆れていた。




