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ロストしたら俺のモノ-酒飲み自由人のダメ男生活-  作者: タヌキ汁
第一章 日常生活と非日常編
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旅の準備とご挨拶


 各ギルド長達の呼び出しを終えた修二は、汗もかいてないのに一度宿屋に戻り、庭で風呂釜を作り、一風呂浴びてから冒険者ギルドへと向かった。

 風呂に入りたかった理由は、あの無数の虫達に囲まれて時々服の中に入ったり上中に入って来たからだ。

 虫は嫌いじゃないが、流石に千を超える虫に囲まれたりすれば嫌でも身体が痒くなるというモノ。

 モーセとは仲はいいが、流石にあの虫の数に群がられるのを受け入れられるかは別である。


「金庫番A17091RK」


 修二はギルドの金庫に預けていた私物を受け取る為にギルドカードを提示する。


「・・お引き出しでしょうか?」

「そうだ。別に見られて困る物は入ってねぇから個室を用意する必要はねぇぞ」


 いつもと違い酒臭く無く、身ぎれいな修二の姿に受付嬢は珍しいモノを見たと言わんばかりに僅かに目を見開きながらも、すぐに作り笑いを浮かべ対応する。


「少々お待ちくださいませ」


 酒の匂いもなく石鹸の香りがしているので、一瞬別人かと疑った受付嬢だが、金庫番の番号もギルドカードも不備はない為、一礼してから席を立つ。


「最近お酒を飲んでいないようですが、真面目に働く気になったのですか?」

「開口一番に随分トンチキな事言うじゃねぇか」


 席を外した受付嬢の変わりに裏からシエルが現れた。

 呼んでもいないのに現れるんじゃねぇよ。


「宜しければ前回の依頼を押し付けてしまったお詫びとして割の良い依頼をご紹介しますが?」

「預けたもん取りに来ただけだ。仕事なんざするかよ」


 先日仕事したばかりだってのに、また依頼を受けさせようとするシエル。

 詫びと言うなら百年くらい依頼を受けなくてもいいようにして欲しいものだ。

 俺が冒険者ギルドに籍を置く理由は、あまり働かなくても身分証が手に入るから在籍しているだけなのだから。


「それは残念です。やっと勤労精神が身についたのかと思いましたのに」


 たった5日酒を飲まずにいるだけで、なぜ俺が働き者になったと勘違いするのか意味がわからない。

 こういう仕事人間のシエルがいるからギルドにはあまり来たくないんだよなぁ。


「しねぇっての。ああ、そうだ。ついでにこれも処理してくれ」


 そいうと、修二は懐から一枚の紙をとりだした。


「他国に行くのですか?」


 渡したのは他国に行くための入国手続き書。

 普通は国境沿いにある砦で提出する物だが、国境沿いで手続きをすると何かと時間がかかる為、ギルドで処理をするために訪れたのだ。


「おう、そろそろ違う国の酒が飲みてぇからな」


 というより犯罪ギルドを大規模に排除するとこの街でゆっくり酒が飲めなくなり、下手したら冒険者ギルドのハゲがいらぬちょっかい掛けてくるかもしれない。

 あのハゲは俺のことをなぜか毛嫌いしているからな。

 俺がフサフサなのがそんなにも羨ましいのだろうか?


「しかも・・・・魔導船を使用するのですね。乗るだけでも金貨数枚、下手したら大金貨かかりますけど、大丈夫なのですか?」

「「「ガタッ!」」」


 シエルは小声で問いかけてきたが、聞き耳をたてていた数人の受付嬢達は聞き逃さず、修二達に視線を向けた


 魔導船。

 この街で二カ月に1度運航している大型運搬船。

 魔法師ギルド、魔導ギルド、魔術ギルド、鍛冶ギルド、錬金ギルドなどなど多くのギルドが共同で開発し、作り上げた空を飛ぶ奇跡の船。

 一度で大量の物資を運ぶためと開発されたのだが、大貴族や王族などは金に物を言わせ、魔導船を貸し切り、旅行の足として使用していたりする。

 庶民も金貨数枚払えば狭い個室を借りることはできるが、それでも普通は利用しない。

 というか、庶民が金貨を見ることなどまずないので利用するなどといった考えには至らない。

 なので、普通の庶民より稼げるとはいえ、ただの冒険者である修二が魔導船を利用できるほどの蓄えを持っているなど受付嬢達は思っていなかった。


「白金貨までいっちまうと流石にキツイが、大金貨までなら問題にもならねぇよ。つか、陸路で半年近くかかる所を空なら数日で着くんだぜ? そう考えると大金貨数枚でも激安だろ」


 大金貨と言う大金を何でもないと言う修二の姿に聞き耳を立てていた受付嬢達は目を見開く。

 ただの飲んだくれのダメなおっさんと認識していただけに、大金を持っているようには見えなかったのだ。

 というより、口ぶりから白金貨を貯蓄するほどの財力を持っているように聞こえる。


「大金貨を安いと言える人はなかなかいないですよ」

「そうか? お前だって全盛期の頃はそれくらい稼いでいただろ?」

「そのかわり命懸けの依頼ばかりで、割に合いませんでしたけどね。装備の維持費にもかなりかかりましたし、貴方が思っているほど残りませんよ。けれど貴方は違います。効率的に且確実に稼げる手法を身に着けています。宜しければ置き土産としてご教授願いませんか?」

「探るな。探るな。どんだけ探られても、答えてやるほどお人好しじゃねぇし、口も軽くねぇ」


 真面目に働いていないにも関わらず羽振りが良すぎれば、犯罪に手を出しているのではないかと疑うのは至って普通のことだ。

 だが、シエルは修二が犯罪に手を染めていないのを知っている。

 そして、修二が何かの能力持ちで、能力を用いて稼いでいることは勘づいていた。


 まあ、どれほど探りを入れられても話すことはない無いだろうし、能力持ちと敵対するつもりはないシエルは、無理に聞き出すことはしなかった。


「シエルさんこちらを」


 そして、修二とシエルが他愛無い話をしていると、先程の受付嬢が金庫の中身をトレイに乗せ戻ってきた。

 それをシエルは受け取ると、そのまま修二の対応を変わる。

 そこはその受付嬢と変われよと思う修二だが、受付嬢も修二の対応をする気はないようで、そのまま違う作業に移ってしまった。


(嫌われたもんだねぇ)


 修二は己が職員達から好意的に受け止められていないことを理解しつつも、職員のわかりやすすぎる対応に呆れる。

 人と接する仕事についているのにまるで子供。

 頭のできはいいが、精神がガキのまま。

 役に立たない人材を切り捨てるという考えを否定はしないし、異を申し立てることもしない。

 だが流石にあからさますぎるのは減点だ。


 好意的な行動をせずとも、反感を買うような行動を見せてはならない。

 冒険者からしたらギルド職員は戦闘能力を有さない非戦闘員。

 粗野で短絡的で日々殺伐とした世界で生きている冒険者がそんな奴等に舐められた態度を取られて黙っている訳もない。

 ギルドとしての権威が高く、元エリートと呼ばれる冒険者を数人囲い込んでいようとも、現役の冒険者は止まらない。

 警戒はしても、恐れはしない。

 自由であることを望みながらも、自由であるために起こる弊害を理解せず受け入れない。

 己の事を第一に考え、己の行いを顧みず、舐められることを心底嫌う不良集団。

 そんなバカでどうしようもない奴等の集まりだ。


 故に気に入らないことに対しては、どんな奴にでも、どんな国にでも喧嘩を売る。

 己の意にそわないことを許さない。まるで力を持った大きな子供。

 なので、そんな馬鹿共から反感を買うような態度をとってはいけない。

 たとえうだつの上がらないダメな男であると認識していても、一度ベテランにまで上り詰めたことのある冒険者を甘く見てはいけない。

 ベテランのランクに登れた理由が、ダメな男に成り下がっても、そのランクを維持できる理由があるのだから、最低限の警戒を怠ってはいけない。

 でなければ、ギルドが壊滅する。

 ほかならぬギルドの対応の悪さで、冒険者達が破壊に走る可能性も十分にあるのだから。


「・・・大丈夫なのかねぇ」

「ギルド長が戻り次第対応します。それに貴方のおかげで選別できました」


 修二の呟きから、何を言いたいのか汲み取ったシエルは静かに微笑みながら答える。


(・・目が笑ってねぇ)


 やはりシエルも今の状況に危機感を覚えていたようだ。

 というか、シエルの野郎、ギルド長が留守の間に、職員達を選別してやがったな。

 どうせギルド長の許可を得ず勝手にやったのだろうな。

 つか、勝手にするのは結構だが、俺を巻き込むなよ。


「ふふふっ、久しぶりに皆さんとお勉強できるのはとても楽しみです。一週間寝ずにお勉強会なんて現役時代を思い出します」

「・・・それが狙いか」


 お勉強と言う名のしつけ。

 そして、シエルの言うお勉強の内容は十中八九、シエルが考案した、シエルによる、シエルが楽しむための危険極まりない強化合宿だろう。

 確か冒険者時代に新人冒険者達を集めて最も危険なダンジョンに繰り出し、そこで数日徹夜で訓練に明け暮れたとか。

 気絶しても無理やり意識を覚醒させる薬を使い訓練を続けたとか、生意気な者を人格否定したのちに、シエルが望む人格になるまで更生させたとか・・・まあ、色々とヤバイ話を聞いたことがある。

 多分そんなお勉強をするつもりだろう。

 シエルのストレス発散にもつながっているとも聞いたことあるし・・・


「・・・つか、俺が怒らねぇの知ってて、止めなかっただろ?」

「えぇ、シュウジさんは口が悪いですが、態度とは裏腹に懐がとても広いですからね。安心して利用できました」

「う~わ。少しは誤魔化せよな。はぁ、やな女だぜ」

「怒らせてしまったのなら謝ります。やり返して頂いても結構ですよ?」


 これだから元高ランク冒険者であっても、化け物と判断した冒険者の相手は嫌なんだ。

 人の事良く調べて利用してきやがるし、バカじゃねぇから面倒このうえねぇ。

 更に言えば、逆らっても返り討ちにできると思っており、返り討ちにあってもそれはそれでいいとさえ思っている。

 まだ、シエルは大人しい方だが、やっぱり関わり合いにはなりたくなかった。

 文句の一つも言ってやりたいところだが、それが開戦の狼煙になるかもしれないので、修二は特に何も言わず、目の前に置かれた私物に目を向けた。


 腕輪が二つと、小さな小瓶が三つ。

 修二がギルドに預けていたのはそれだけだった。


「結界の魔道具と、これは・・ポーションですか?」

「さてな・・」


 質問に答えず、修二は二つの結界の腕輪を重ねるように左手に装着すると、三つある瓶のうちの一瓶をその場で飲み干し、他は懐にしまった。


「まだ確認をしてないのですけど・・」

「間違いなく俺のだ。だから問題ねぇ。それより早くそっちも処理してくれ」

「えぇ・・・・どうぞ」

「相変わらず、仕事がクソハエェ」


 一瞬手元がぶれると、先程渡した出国手続き書や受取書類が処理されていた。

 高い身体能力を駆使して、軽々と処理してしまった。

 こんな裏方じゃなくて最前線で魔物と戦った方がいいと思わなくもないが、まあ人の人生に口出ししても碌なことが無いので、何も言うまい。


「縁があるか、ないのか知らねぇけど、ひとまずお互い悔いが残らないように生きようや」

「そうですね。悔いの残らぬ人生を、そして貴方には良き冒険の旅路を」

「おう、あんがとさん」


 軽く別れの挨拶を済ませた修二はギルドを後にした。

 なんとも、さっぱりとした別れ方だが、いつどこで死ぬかもわからぬ世界だ。

 もう会うこともないだろうが、それでも家族でもないのだからアツイ抱擁を交わすことは無い。

 そういう別れなどいちいちしていられないからな。

 




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