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ロストしたら俺のモノ-酒飲み自由人のダメ男生活-  作者: タヌキ汁
第一章 日常生活と非日常編
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遠縁の友


 子猫を部屋に残したまま、部屋を出た修二は、そのままある酒場へと赴いた。

 昼時であるため店はまだ開いていないが、修二は気にせず酒場に入り、カウンターでパイプをふかしているマスターに金を支払い店の奥へと向かった。


「待たせたか?」


 店の奥へと進み、扉を開くとそこはありふれた部屋が広がっている訳ではなく、巨大な蜘蛛の、背中のうえだった。

 真っ白な雲の上ではなく、紫色の巨大な蜘蛛の背中。

 走り回っているのか、足の裏から僅かな振動を感じる。

 ここはどこなのかと周りを見回したところで、周囲に無数の虫達が渦を巻くように飛び回っているので、どこにいるのか把握できない。

 虫嫌いの奴なら、発狂もんだろうな。


「「「「「「遅いであるな。0.23秒も遅れているであるな。ジャストを心掛けるであるな」」」」」」

「「「「「「そう怒らずともいいじゃないですか。誤差の範囲であるのですから」」」」」」


 飛び回る虫達から人の声が響き渡る。

 四方八方から聞こえる声に、修二は眉を潜めながら、その場に腰を降ろした。


「モーセ。頼むから虫達を落ち着かせてくれ。声が全方位から聞こえて流石にうるせぇ。頭が割れそうだ」

「「「「「「おうけ~い」」」」」」


 修二は飛び回る虫達に問いかけるように言葉を発すると、周りの虫達から陽気な男の声が響き渡る。

 そして、飛び回る虫達はピタリと動きを止めると、虫達は3人の人の姿へと模った。

 真っ黒な虫達が蠢きながら人の姿となるのが、なんとも不気味である。


 虫達が模したのはこの場にはおらず、どこかにいる声の主達。

 声の主達と顔見知りの修二にとって、シルエットだけで誰がここに集まったのか理解できた。


 シルエットの一人、タヌキのように太鼓腹の男は片手には懐中時計を持ち、パカパカと何度も開け閉めを繰り返しながら話しかけてくる。


「忙しい我に声をかけたというのに、遅れるとは何事であるな。時は宝なりと言うであるな」

「流石に行き成り呼ばれて、ジャストを狙えってのは無理だろ。それに俺はアンタほどの正確な時読みはできねぇよ」


 肩をすくめる修二に、太った男は一度強く懐中時計の蓋を閉めると、少し不機嫌そうに鼻を鳴らした。


「それは問題であるな。正確な時を知らねば良き商売はできぬのであるな。お主はもう少し時間を大事にせねばならぬのであるな」


 この太った男はこの街ではない遠くの街、と言うより他国の商業ギルドの長、ムハナ・ヌイと言う男。

 狸人族と人族の間に生まれたハーフであるが、ほぼ人族よりで、尻尾や狸耳などは生えていない。

 その為ハーフだとは思われておらず、ただの太ったおっさんとしか思われていない。


 ただ、己が狸人族とのハーフだと言う言葉と、その目立つ太鼓腹のわりに機敏に動く姿を見て、誰もが自堕落で自己管理ができていないおっさんでは無いと認識を改めるそうだ。

 ちなみに、成りは太ったおっさんだが、半狸人族であるので、普通の人族より身体能力は高い。

 まあ、純粋な獣人種には劣るが。


「そう言っている間にも、その大事な時が進んでしまうと思うがいいのですかな? 時は宝であるのでしょう?」

「おお! それもそうであるな。早く話をするであるな」


 ムハナに注意を促したのは、料理ギルドの長のアディソン。

 長いコック帽のような帽子をせわしなく左右に揺らしながら、それと同時に三つ目も同じように左右を行き来する。

 目人族。

 父母共に人族であるが、稀に特殊個体として産まれる種族の一つ。

 昔は迫害の対象であったが、現在はその迫害も無くなっている。

 それでも、昔の名残で気味悪がられたりするので、未だに受け入れられない地域も存在している。


「話というが、この前お前達に送った手紙にこちらの意図は伝えただろう。それ以外に俺から話すことはないぞ」

「それは~、りか~いしてる~。だけど~、俺達きっきた~~~いのは~、それじゃな~い」


 ゆらゆらと身体を揺らすのはこの虫達を操る力を持つ者。

 探索ギルドの長 モーセ・バールタ。

 小人族、通称ホビットとも呼ばれる彼の背丈は低い。

 もしも虫が模る人型が、容姿まで事細かく再現できればそれなりにダンディな顔立ちで、背丈と言動と合わないあべこべな姿を見ることになっただろう。

 ちなみに年齢は修二よりも一回り以上も年上である。


「ほうしゅ~のお話を~ちょこっ~~と、先に~きっきた~い。力は貸すけど~。ちょこっ~~~~ときっきた~い」

「おいおい、それは流石に通らねぇだろ」


 修二は今回、この街に入り込んだ犯罪ギルドを一掃のするために顔見知りのギルド長達に助力を要請した。

 戦力ならばこの街の各ギルドに声を掛けることも出来たのだが、この街では飲んだくれのダメ男と認知されている修二。

 修二の願いに二つ返事で答えてくれるわけもなく、また、こちらも信頼できる者でなければ任せられない為、今回は付き合いが長く信用のおける顔見知りを頼ったのだ。


「別に報酬を先渡ししたからと言って裏切りはせぬのであるな! 一流の商売人として信用して欲しいのであるな!!」

「商売人が品を渡さず金寄越せって言ってるもんだぞ。そこんとこ商売人としてどうよ?」

「それはそれ、これはこれであるな! 我等の仲であろう?」

「親しき中にも礼儀ありって言葉知ってるか? あんまり図々しいと関係が壊れちまうぞ?」

「シュウジさんの言いたいこともわかりますが、その言葉は己に返っているような気がしますね」

「きこえな~い」

「シュ~はいつもそれ~。つんぼのシュ~こうり~ん」

「ちゃんと聞こえてるっつぅの。聞きたくないことだけ、聞こえなくなるだけだ」

「調子のいい耳ですねぇ」


 それは仕方がない。

 誰しも聞きたくないことはあるもんだ。


「ええい! ふざけている時が勿体ないであるな! ふざけておらぬで情報を教えて欲しいであるな!」

「いや、だから無理だろ。どんなに考えても報酬の先渡しはねぇだろ」

「確かにムハナさんの要求は少々厳しいと思いますよ。まあ、それを知りつつ私もムハナさんの意見に同意させて頂いておりますがね」

「おいおい、アディソンまで何言ってんだよ」

「いえいえ、流石にあれを報酬で用意されては気になって夜も眠れませぬよ。おかげで仕事も上の空になってしまいますし」


 仕事が手付かずではなく、上の空の時点で仕事はちゃんとこなしているのだろう。

 更に言えば夜も眠れぬと言うが、アディソンは基本夜型で昼間寝ていることが多いので、いつも通りであることが伺える。


「別にムハナ以外の情報は急ぐ必要なくね? すぐに奪われるなんてことにはならねぇんだからよ」


 流石に商人ギルドのムハナに渡す情報は、ある顧客に関する情報だ。

 なのでムハナがヤキモキするのは理解できる。

 まあ、だからと言って仕事が終わっていないのに報酬を支払う気はないが。


「それがわかっていながら何故渡さぬのであるな! そんな意地悪するであるなら、シュウジが酒を買うたびに一口分減らすように通達するであるな!」

「地味だなおい! そこは酒を売らねぇとか、倍以上の値段で売りつけるとかじゃねぇのかよ!」

「売らねば金が回らぬであるな! 高値で売りつけても他の客からの信用が失われるであるな! 一口程度ならば、酔っ払いの妄言ですませられるであるな! ふふ~ん、よき判断であると思わぬであるな?」

「良き判断だと思わぬであるませんな。つか、それってめんどくさくねぇ?」

「・・・む?」

「普通に考えて、各お店に通達するのにお金も時間もかかりますし、お食事の時などに注文されたお酒も対象とする場合、料理人達には勿論、小さな小料理屋にも通達しなければなりません。あまり現実的ではありませんね」

「む・・・むむ」

「そもそも~、シュ~は他国にいるから~。か~んけ~な~い~?」

「そうだな。モーセの言う通り全く関係ないな。痛くもかゆくもねぇわ」

「むむむむむ・・・・・・」


 三人の言葉にムハナは唸り声をあげる。

 己でもこれはほど良いアイディアはないと思っていたのかもしれない。

 一応これでも商人ギルドの長なのだがな・・。


「むん、さて、戯れはここまでとして、次の議題であるな。シュウジよ我等に情報を渡すであるな」

「次もクソもねぇ。話が戻っただけじゃねぇか」

「何でもいいであるな。それより時が勿体ないであるな。キリキリ吐くであるな。吐くのはお主の専売であろう?」

「人が日常的にゲロ吐いているとでも言いたげだなこの野郎。つか言わねぇぞ。仕事が終わってからだって言ってんだろ」


 全く持ってしつこいぞ。

 商人がしつこいのは理解しているが、あまりにしつこすぎると嫌われるぞ。


「シュ~、ぜ~んぶ言わなくてい~から~、ちょこ~とだけおしえて~」

「あん?? モーセがそんなこと言うなんざ。珍しいな」


 いつも文句ひとつ言わず、こちらの要求通りに仕事をこなして報酬を受け取っていた。

 緩い感じに見えて仕事での契約やらは人一倍気を遣い、我儘などいったことがない。


「えへへ~、流石に~、ゆ~め~に近づく~一歩だも~ん。高ま~りが~、抑え~~きれない~~。えへ、虫達がね落ち着いてくれないんだ」


 モーセの言葉に同調するように、周囲を飛び回る虫達はざわめき出し、背に乗っている巨大蜘蛛の振動も大きくなった。


「だからお願い。少し教えれば落ち着くと思うから」

「・・・・・・・・」


 モーセからの威嚇はないが、周囲の虫達からは昆虫特有の威嚇音が発せられた。

 力で屈服させる・・・などとモーセは思っていないだろう。

 ただ本当に、虫達を抑えきれなくなっているのだろう。

 まあ、モーセに渡す情報は虫達を興奮させる内容であったからな。


「・・・しょうがねぇな。モーセには勿論、モーセの虫達にも世話になってるしな。無下にはできねぇや」

「ごめんな~」

「俺等の仲で謝罪は無しだ」

「ん~、あんがと~」

「つうことは、勿論我等にもくれると言うことであるな?」

「これはこれは、なんとも申し訳ありませんが、いただきましょうかね」


 モーセの願いを聞くと言えば、他の二人も同調してくることは予想できた。

 そして、ここで拒否をしたところで絶対逃がしてはくれないだろうことも予想できた。

 修二は致し方ないと思い、ため息を吐くと懐から手紙を取り出す。


「アディソン、まずモーセに扉。その後ムハナで、最後にアディソンな」

「えぇ、準備はできてますよ」


 その言葉を待っていたと言わんばかりに、修二の目の前に数匹の虫が集まったかと思ったら、おもちゃのような小さな扉が置かれていた。

 中を開いてみれば、その先は見知らぬ部屋の中が見えた。

 アディソンの能力、転移の扉。

 扉がある場所ならばどこにでも転移できる能力。

 勿論モノだけの転移も可能だ。

 ただし、転移するには同じ扉が必要で、誰が所持している扉なのか、誰を、何を転移させるのか理解していなければ使えない。

 誰でも自由に転移できる訳ではなく、色々条件があり、使い勝手が悪いが、それでもかなり有用な能力であるのは変わりないだろう。


 修二はその小さな扉を開き、その中に手紙を放り込んでいった。

 虫達に模られたムハナ達の動きが皆一様に手紙を読む姿へと変わる。


「ほう、ほうほうほうほう、なればあれを用意すれば・・いやしかし、この情報だけでは・・・」

「これがあれば捌けるのですね。ですが、どうやってさばけば・・・鍛冶師ギルドと薬師ギルドに協力を・・いえ用意してもこれだけでは・・う~む」

「おお~? むむ~・・・・おぉー!・・お?」


 三人共歓喜したり唸ったりしている。

 と言うか、モーセの感情にあわせて虫達が騒ぎ出すので少し落ち着けと言いたい。

 時々虫達が頭にぶつかってくるのだよ。

 悪意はないが、流石に常時小石をぶつけられている感じでなんとも不快だ。


「これで用はすんだろ。つか、こんなんで呼び出すなよ! まだこっちは準備がおわってねぇってのに! たくよ」

「まて、これは全ての情報ではないのであるな! これでは、動けぬのであるな!」

「これ以上は無理だ。依頼が終わってからにしろ! ああ、それと忠告しておくぞ。それだけの情報で動くと、痛い目に合うからな」

「言われなくとも不完全な情報で動く者はおりませんぬよ」

「だけど~、アディ~は~、ちょこ~~~~とだけ、試した~い、って考えてる~?」

「ははっ、否定はできませんな」


 商人ギルド。ムハナに与えた情報はある大国の気難しい大貴族の婚約情報と、何を渡せばお近づきになれるかの予想目録。

 なお本命である、一族が探している家宝のありかやその取得方法などは記していない。

 今渡した情報の中から品を選べば不興を買うことは無いが、親しい間柄になることもない。


 料理ギルド、アディソンに渡したのは、調理不可能と言われていた毒珍味の解体道具作成方法と調理方法。

 勿論その道具の他にも、必要なモノや生物の名。解体方法などは記していない。

 まあ、解体方法を模索するのが好きそうだから、道具が揃っていなくともアディソンなら根性で答えにたどりつきそうだがな。


 探索ギルドのモーセにはある未発見の遺跡の場所と、その遺跡に入る為の鍵のありか、そして、彼と虫達の夢に繋がるであろう情報を渡した。

 モーセにだけ報酬を渡しているが、それは特に問題ない。

 この中で一番信頼しているのはモーセであり、そんな彼からの願いだ。

 虫達の動きからして抑えらえなくなっていたのは明白である以上、下手に出し惜しみして、苦労を強いる訳にも行くまい。

 というか、自分も全部の情報が貰っていない振りをするとはさすがだな。

 何も言わずともこっちの意図を汲んでくれるのはありがたい。


「お~い、アディソン。扉だしてくれ。帰れねぇよ」

「これ! もうちょい! もうちょい教えるであるな! お主の事だ。どうせこの目録の中に本命など書かれておらぬのであるな!」


 流石商人、勘がいい事で。


「さてな、そればかりは教えられねぇよ。つか、教えた瞬間こっちの依頼をおろそかにするだろお前」

「せぬ! お主の依頼を全力でこなすと誓おうぞ!」

「嘘だな」

「嘘ですね」

「う~そ~」

「う、嘘ではないぞ! ちゃんと依頼はこなすであるな!」


 ムハナが嘘をつくときは、必ず口癖の “あるな” 語尾が無くなる。

 それを知っている修二達はすかさず指摘した。

 まあ、依頼を全力でこなさないだけで、手は貸すことに偽りないだろう。


「アディソン。早くしてくれ、これ以上ムハナの暴走には付き合いきれねぇよ」

「そう言わずに、もう少し開示して頂けると嬉しいのですけどね」

「断るに決まっているだろ」

「まあ、そうですよね。仕方ありません。お楽しみは依頼完遂後ということで」


 アディソンがそう言うと、修二の目の前に扉が現れる。

 先程からずっと修二の背後に扉は存在しているが、それはこの場所に来るための扉であり帰る為の扉ではない。

 もしもその扉で元の場所に戻ろうとしても、戻ることはできず。

 更には、次元のゆがみによって全身塵となって解体された状態で無に変えることとなるだろう。

 何も知らず、己の分をわきまえず失礼な態度を取る者にはもう二度と会うことも、会おうとすることさえも許さない。

 温厚そうに見えて、三人の中で一番危険な価値観を持っているのはアディソンなのかもしれない。

 まあ、アディソンのそういう価値観には共感できるがな。

 殺す殺さないはさておき、邪魔ものになりそうなものはさっさと排除するに限る。

 チャンスがあるなら逃すのは愚か以外の何物でもない。


「おいおいおいおいおい! まて! マジでまつであるな!!」

「誰が待つか・・ああ、アディソン。今年中に一度飯食いに行くから最高の酒用意しておいてくれ。礼はアンタの好きなポラミの開花情報でどうだ? 場合によっては収穫も手伝うぜ?」

「おや、もうそのような年でしたか。えぇ、ではそちらをお代として頂きましょう、収穫のお手伝いは状況によってと言うことで」

「シュ~、いせ~き探索~。暇なときに~、手伝ってほし~ぞ~」

「暇なときがあったらな。それまでモーセも息災でな」

「お~」

「これ! 待つであるな! 時は宝であるな! 必要な荷を用意するにも時がかかるであるな! 故に何が必要であるか言うであるな!」


 約一名騒いでいるが、修二は気にすることなく扉を開き帰っていった。




「やはり聞けなかったであるな。残念であるな・・」


 修二が帰った後、ムハナは渡された紙に視線を落としながらうなだれる。


「それは致し方のない事でしょう。本来依頼を済んでから受け取れるのですから」


 そう言いながらアディソンはせわしなく持っていたコック帽を頭に乗せ、何度も何度も角度を調節していた。


「ム~は、がめつ~い」

「がめつくないであるな。商人として情報をいち早く手に入れようとするのは至極当然であるな」

「それは~、稼ぐため~?」

「そうであるな!」

「がめついですなぁ」

「がめつい~」

「商人として当然であるな! 決してがめついわけではないのであるな!!」


 否定しているが、アディソンとモーセから向けられる視線はどこか冷たかった。

 まあ、虫が人の形を模っているだけなので、冷たい視線など感じることはできないが。


「それよりも、お主達は準備ができているのであるな? 三日後に決行と言うことであるが、準備ができておらぬなどということは無いであるな?」

「私の所はもう街に送ってありますよ。観光とかしているのでしょうね」

「こっちも~、いつでもゴ~! できるよ~。シュウジのまわりに~、いつも何匹かつけてるも~ん。数も申し分なぁ~い。だけど~、ヤス~ナたちがうごいてな~いのが~、もんだいかな~??」

「またあの者達であるな・・・・」


 今回修二が依頼を出したのは別にここにいる三人だけではない。

 他にも仲の良い錬金ギルドや鍛冶ギルドなど多くのギルド長に依頼を出している。

 多くのギルド長に声をかけられる顔の広さを称賛するよりも、動かせるだけの報酬を用意できる修二の情報収集能力に皆感服していた。


「職人と言うのはこれだから困ったものであるな。没頭するのが悪いとは言わぬが、時は守らねばならぬのであるな」

「私も一介の職人でありますからなんとも耳の痛い話ですね。まあ、間に合わぬ時はこちらでお送りします」

「うむ、頼むであるな。後で珍しい食材を送るであるな。勿論代金は彼奴等持ちであるな」

「あまりぼったくらぬようお気を付けてください」

「約束はできぬであるな」

「おぉ~、やっぱり~、ム~はがめつ~い」


 ムハナは違うと否定するが、モーセはケタケタと笑い聞き入れることは無かった。


「それよりもお主等はどんな情報を得たのであるな? 良ければ教えて欲しいのであるな!」

「それはまだお話しできませんね。貴方に話してしまうと必要な物を集めて頂けても大金を支払うことになりますから」

「言わな~い。ム~にはぜ~ったい教えな~い」


 ムハナに話せば確実に不利益を被ることを理解している二人は、首を横に振る。

 というか、数年前ポロリと情報を漏らしてしまったあるギルド長が、三割近く利益を持っていかれたのを知っている為、絶対ムハナには情報を渡す気はなかった。

 怨みを買う程ではないにしても、軽く根に持たれるほどである。

 故に二人はムハナに、甘い顔をすることは無かった。


「さて、そろそろお開きに致しましょう。我々もムハナさんの餌食になりかねませんし」

「うん~、そうする~。ム~、ばいば~い」

「なぜ儂は邪険にされておるのであるな! 意味が分からぬのであるな!!」

「ではまたお会いしましょうムハナさん、モーセさん、お元気で」

「ん~、また~」


 騒ぐムハナをよそに、ムハナとアディソンを模っていた虫はばらけ、そして二人の声は聞こえなくなった。

 モーセは虫を操る能力の他にも、虫を通して声を届ける能力をもっており、今はその通信の能力を切ったのだ。

 大量の虫を自由自在に操れるだけでなく、最速で情報を伝達させるモーセの能力はかなり強力な部類に入る。


「う~、はやくシュ~の、おひま~にならないかな~、いっしょ~に遺跡に行きたいよ~・・・・・えへへっ・・うん、そうだね~。やっと~・・やっと、やっと近づいたね。早く、早く、見つけたいね。だけどその前にシュウジのもう一つのお願いを聞いてあげないとね。そうすれば、もっといいお話が聞けそうだからね? ね?」


 下手すると一人で一国と対峙できる力を持つモーセは、ひとり笑みを浮かべ虫達と対話をする。

 そんなモーセの歓喜に同調するように虫達もなお一層強く羽音を響かせ、そのまま全ての虫達が一瞬にして散漫した。

 後に残ったのは巨大な蜘蛛だけだったのだが、その蜘蛛もゆっくりと地面に沈んでいき、数秒後には何もない荒野が広がっているのだった。




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