子猫とお話
「・・・はぁ、おわった」
部屋で何か作業をしていた修二はボソリと一言発し席を立つ。
我が物顔でベッドの上で丸くなり寝ている子猫の傍に来ると、子猫の尻尾を無造作に掴む。
「みゃぎゃっ!?」
尾を掴まれた瞬間子猫は飛び起きるも、修二は気にすることなく尻尾を掴んだまま、先程まで作っていたリング型の魔道具を尻尾に取り付けていく。
合計4本もの銀のリングが尻尾に取り付けられ、子猫の尻尾は重さでベッドに沈むが、リングから淡い銀色の光が放たれひとりでに浮かび上がった。
子猫が尾を揺らせばそれを阻害せぬようにリングも同じ方向へと動く。
「よさそうだな」
魔道具が問題なく動くことを確認した修二は、満足そうに小さく頷くと、子猫の尾を離す。
「みぃぃぃいぃぃぃっ!!」
尻尾を無造作に掴まれた子猫は怒ったように鳴きながら、ペシペシと修二の手に猫パンチを繰り出すも、修二は煩わしそうに振り払うだけで、全く反省の色は見られない。
「お前の能力を補助する魔道具だ。文句あるなら取り上げるぞバカネコ」
「みみみみみみっ!!・・・・・みゃい?」
子猫はこてんと首を傾げ、猫パンチを止める。
「やはり言葉がわかるか。言葉を理解する能力と知能を強化する能力とは、運のいい組み合わせだな。猫の癖にガキ並みの知能があるんだろ?」
「ぶみぃ!? みゅぃ~?」
「誤魔化し方がもはや獣じゃねぇんだよ。まあそれはいい。それより俺がお前の能力を知っている理由は聞くなよ。聞かれても答える気はねぇし、下手に探ろうとするなら容赦なく殺す。死にたくなきゃ無駄な詮索はしないことだ」
「・・・みぃ~」
殺意を交えながら忠告する修二に、子猫は不満げにしながら了承するように鳴く。
「まっ、テメェの情報だけ知られて気分悪いのも理解できる。できるが・・・だからなんだって話だけどな」
「みみゃ!?」
ヒデェ!?と言いたげ鳴く子猫だが、そんな子猫を修二が気にするはずもない。
「んなことより家族の仇を取れるかどうかの方がお前にとって大事だろ」
「みみぃ?」
仇と言う言葉がわからない子猫は首をかしげるが、子猫の意図を汲み取った修二が、テメェの家族を殺した人間を殺す方が大事だろと言い換えると、子猫はフンスと鼻息荒くし肯定する。
なんともわかりやすい奴だ。
流石獣と小馬鹿にしつつも、修二は子猫の前足を手に取り、前足に金のリングを付けた。
「お前の能力は何なのか調べは付いている。そしてお前が扱えていない能力があることも知っている」
「みぃ?」
疑問符を浮かべる子猫であるが、修二は子猫の反応など意に介さず話をつづけた。
「お前の扱えてない能力はかなり強力だ。だが、能力が発現したのはごく最近。産み落とされた赤子が呼吸を理解し、産声を上げたレベルだ」
強力な能力であればあるほど、その力を扱うのに手間取る。
記憶をたどった限り、子猫の能力が発現したのは家族が襲われ、逃げていた時だ。
正確な日付を調べていないが、少なくともほんのひと月前の話であり、流石にそんな短い時間で能力を自在に扱えるわけもない。
「お前は覚えてないかもしれないが、お前の脳は確実に力を使ったことを覚えている。一度使ったことがあれば、その力を使うこともできるはずだ」
手っ取り早い能力を開花させる方法は、初めて力を使った状況と同じ状況にしてやればいい。
絶対ではないが高確率で成功する。
子猫の場合は、家族を失う悲しみと、自分も殺されると言う恐怖、そして弟妹達を助けられない絶望の中に突き落とせばいいだけだ。
手段はあるが、流石に同じ体験をさせるのは酷である。
なのでそんな方法で開花させるつもりはない。
「幸いお前は人並みの知能を持つことのできる能力が発現し、今では身体の一部として使いこなせている。だから、数年真面目に鍛錬すればそれなりに扱えるようになるだろうし、お前の仇も討てるだけの力を得るだろう。だが、流石に数年も待ってやるほど俺はお人好しじゃねぇ」
そう言うと、修二は猫から離れ椅子に腰を下ろした。
「犯罪ギルドなんざあぶく銭程度にしかならねぇし、暇つぶしくらいにしか役に立たねぇ奴等だったが、今回ばかりは事情が変わった。俺の事でわりぃがマジで潰しにいくことにした。三日後の夜にこの街に蔓延るゴミ共を一掃する。勿論お前の家族を殺した野郎も標的の一人だ」
「みぃっ! みみみっ!!」
なら俺も行くと言わんばかりに子猫は跳ねる。
「言っておくが、今のお前は連れて行かねぇぞ」
「み・・・みみぃ?」
修二の言葉に、子猫は困惑しながら、ビシリと石のように固まる。
「お前は人語を理解できるだけのクソよえぇ子猫だろ。人並みに賢くなれる能力しか使えねぇ足手まといなどいらん。お前の仇は俺がついでに取ってやるから、ここでガキと遊んでろ」
「み・・・・・ミギィィィィッ!!」
家族の仇を奪われることに子猫は初めて修二に本気の怒りを向ける。
「威勢だけは認めてやらんでもないが、駄々こねられても連れて行く気はねぇぞ。怒りに任せて暴走されちゃあ敵より厄介だ」
「シャーーーッ!!」
修二の言葉が受け入れられず、子猫は全身の毛を逆立て異を唱える。
言葉はわからずとも、子猫が何を言いたいのか察することができた。
「納得ができねぇのは理解できるが、お荷物抱えてお出かけなんざごめんだ。だからお荷物にならねぇ程度になりな」
「ミィシャーーーッ! シャーぁ~・・みゃ?」
修二の言葉に違和感を覚えた子猫は威嚇を止め、首を傾げる。
「なにアホ面してんだ? 初めにいったろ。今のお前を連れて行く気はねぇって」
「うみゃあ~?? みゅみゃぃ~い」
そうだっけか? そうだったような気がすると言わんばかりに首を傾げ、最終的には覚えとらんと言わんばかりに己の尻尾についた魔道具を叩き出した。
「知能が付いても獣は獣だな。このバカネコ」
「にぃにゃ!? みぃ! みぃみぃ!」
「まあいい、それより扱えてねぇ能力が使えるようになれよ。それが使えりゃお荷物じゃねぇ。仕事仲間として受け入れる。だから気張れ」
「みぇぇぇぇぇ~」
普通に考えて達成できない要求に子猫は不満の声を上げるが、修二が気にするわけもない。
「文句があるなら勝手にしろ。お荷物なんざいらね。この意思を変えるつもりはねぇから、置いていくだけだ。気に食わねぇなら一人でどうにかしな。止めるつもりはねぇからよ・・・ただし」
また文句を言いそうな子猫に対して、修二は静かに、そして逆らうことを許さんと言わんばかりの殺意でもって黙らせる。
「三日後は邪魔するな。もし、邪魔しやがったら俺がお前を殺すからな」
「・・・・・・・みぃ・・・」
内心不満そうにしながらも、あまりの殺気に子猫は了承の声しか出せなかった。
「まっ、それ以外は好きにしていいぞ。ギリギリまで能力開花の鍛錬をするもよし、仇の首を狙うもよし、何もかも忘れてただの野良猫として生きるもよしだ。俺が強要するのは三日後の掃除を邪魔しねぇこと。それ以外はお前の自由だ」
「・・・・・・・・」
何の反応も見せない子猫に修二は一度だけ視線を向けたが、すぐに椅子から立ち上がる。
「もしも能力が使えるようになったら、ここに来い。三日後の昼まで待つ」
それだけの言葉を残い修二は部屋から出て行った。




