子猫を連れて
子猫を拾って? 翌日、修二は早くも後悔していた。
コイツは人が寝ているのに、腹が減ったから飯よこせと言わんばかりに、人の顔に何度もダイブを繰り出してくるのだ。
何度引っぺがしてもやめる気配はなく、最終的には騒がしく鳴き喚く子猫の声を耳にしたティティティが乗り込んできて無理やり起こされることとなった。
どう考えても疫病神だろ。
「うみゃうみゃ!!」
オヤジが用意した飯を食う子猫を横目に、修二はカウンターに突っ伏しながら用意された朝食をモソモソと食べる。
行儀は悪いが、別に誰に咎められることもない。
「マジでコイツどうにかしねぇと俺の睡眠時間が削られる・・・いっそ呪術師に売り払うのもありだな。こんだけ生きが良けりゃいい実験材料になるだろ」
「そんなことしたらぶっ飛ばすかららぁ! ねこにゃんいなくなったら許さないかららぁ!」
「だったらお前が飼い主探してこい。それで万事解決だろうが」
「やっ! それだとねこにゃんどっか行っちゃうもん! だからおまえにねこにゃんを育てる権利をあげるのらぁ! しっかり養うのらぁ!」
「ざけんなバカタレ」
つか、俺はそろそろ街を出てくつもりだ。
めぼしい飲み屋にも行き飽きたし、何よりきな臭くなってきた。
変なのに巻き込まれる前に退散するのが利口というモノ。
まあ、出ていくことをティティティに伝えると、猫に合えなくなるとか、意味の分からんことで騒ぎそうだから伝えるつもりはないが。
「なぁオヤジ。オヤジの知り合いに猫好きの野郎はいねぇか?」
「猫好きはいても、飼う余裕のない奴等ばかりだ。貴族とか富豪くらいしかペットを飼う余裕はないからな。平民の俺達は家族養うので手いっぱい。それより、その猫探していた子供の親の所に行くんだろ? まずはそっちからあたってみて、それから考えればいいじゃないか?」
「どうせそいつも引き取らねぇよ。普通より稼いではいるが、貴族でもねぇのに子供五人もこさえてんだぞ。結構生活ギリギリだろうよ」
「あ~、そりゃあ無理だな。夫婦仲いいのは良い事だが、流石に育てるの大変だろうな」
子育てにはかなり金がかかる。
兵長の給料がどれほど貰っているのか知らないが、流石に五人の子供を育てながらペットを養う程の稼ぎではないだろう。
それを知っていて兵長の子供達も我儘を言わずに、この子猫を家に連れて行かずに持ち寄った餌だけを与えていたのだろう。
「・・・・マジでメンドクセェ」
「ぺろぺろぺろぺろ」
「このクソネコは、テメェの今後を話してるってのに、のんきな野郎だぜ。ふぁ、ふぁぁぁぁぁあぐぅ・・むにゃむにゃ」
食べ終わり毛繕いを始めた子猫に呆れながら、修二はそう呟くと大きな欠伸をした後食事を続ける。
「みゃあああああぐぅ・・むにゃむにゃ」
そして修二の欠伸につられてか、子猫も可愛く口を開けて欠伸をする。
その姿を見て半日もたたずしてこいつ等似すぎていないかと思うオヤジである。
「やっぱ駄目だったじゃねぇか」
「みぃ~」
先程兵長の家に訪れ、子猫を飼えないか聞いてきたところだ。
案の定子供の多い兵長の家ではこれ以上食い扶持を増やす余裕もなく、兵長の奥さんは首を横に振る結果となった。
まあそれはいい、それはいいのだが、何故俺がこいつの飼い主探しを依頼として受けなければならぬのかがわからん。
断ったら断ったで指名依頼するとか言いやがるし、本当に意味がわからん。
指名依頼は断っても依頼主との関係が悪くなるだけだ。
故に強制力などあってないようなもの。
ただ、今のギルドの俺への対応を見ていると断っても確実に強制してくるに決まっている。
それがわかってしまうため、もう修二はどこか諦めていた。
まあ、ギルドを通しての依頼ではないので、受ける気はない。
返事ははぐらかしたが、流石に便利屋程度の軽い気持ちで頼みごとをされる気はさらさらない。
兵長とは面識があったが、ただそれだけのことだ。
親しくもない奴のクソッタレの依頼を受ける気など無い。
その結果、関係が悪くなろうが、指名依頼を発行されようが、どうでもいい。
住みにくくなるなら出ていけばいいだけなのだから。
「そろそろ、ブチギレてもいいかなぁ~。流石の温厚な俺でも、ガチで暴れちゃいそうだ。暴力嫌いだから、経済破綻させることしかできないけどぉ~」
「みゃぁ?? みぃみぃ! みゅみぃ~い!!」
けいざい?? やったれやったれ! よくわかんねぇけどやったれ!! と言うよりに、パタパタと尻尾を振る子猫。
なんとも好戦的な子猫であるが、
「暴れんなバカ。つか、何で肩に乗ってんだ。テメェのその短い足で歩けよ」
「みゅぇ~?」
「すっとぼけた声出しやがってこの野郎」
子猫の言葉などわからない修二は、行き成り暴れ出した子猫を叱りながら歩く。
というか、なんだかんだ言って肩に乗ることを許す修二の姿はどう見ても、子猫を受け入れている様にしか見えない。
本人は絶対否定するだろうが。
「ふぁああああ・・やっぱ寝たりなかったな。帰って寝るか」
昨日の夜は別に遅かったわけじゃないが、どうにも久しぶりに身体を動かしたせいで疲れが溜まっている。
久しぶりに昼寝もいいかもしれない、などと思っていると、子猫も賛成だと言わんばかりに、欠伸をしながら返事をする。
何で人の考えている事がわかんだよと思いながら、宿へ戻ることにする。
久しぶりに昼前から活動したというのになんともだらしない男である。
「うにゃふ~・・に?・・・・フー!」
子猫がいきなりある一点を見つめ威嚇し始めたので、修二は足を止める。
「なんだよ行き成り、うっせぇなぁ」
「フー! フー!!」
修二の声など聞こえておらず、子猫は毛を逆立たせ全身を使って怒りを露わにしていた。
意味のわからない子猫の行動に面倒と思いつつも、肩で暴れられても困ると思い子猫を抱きかかえる。
「フー! フーッ!!」
別に背中などを撫でることはしないので落ち着くわけもないが、子猫の威嚇は時間がたつにつれて激しくなっていった。
短い付き合いだが、普段からのんびりしている子猫の豹変ぶりに、興味が湧いた修二は子猫が威嚇するモノを調べることにした。
「・・・・・・」
手で口元を隠しながら、何度か条件を変更し調べる。
そして、何度目かでこの子猫が何に対して威嚇しているのか、何故これほど威嚇しているのか理解した修二は、眉間にシワを寄せながらため息を吐く。
「・・・・・・・」
メンドクサイ。
口に出さなくとも修二の表情から読み取れた。
「フーッ!! フーッ!!」
子猫の爪が手に突き刺さり、修二の手から血が流れるがそれを怒ることなく、子猫を見下ろす。
そして諦めたように、ため息を吐くと子猫の背中を一度だけ撫で、
「・・落ち着け」
心が凍ってしまうほどの、冷たい声で子猫を嗜めた。
その声に子猫は肩を跳ねらせながら、恐る恐る修二へと視線を向ける。
「み、みぃ・・」
「・・・・・・・」
怯えたような鳴き声を発する子猫に対して修二は何も言わず歩み出す。
「みぃ、みぃみぃ」
修二の手が己の爪で傷つけてしまったことで怒らせてしまったのかと、考えたのかぺちゃぺちゃと傷を舐め、謝罪するように弱弱しい声を上げるも、それでも修二は何の反応を見せずにただ歩み続けた。
そして、いくつかの店で酒とツマミを購入すると、宿屋に向かわず、ある場所へと向かった。




