ヘンな連れ
ハズレ依頼を終えた修二は、オヤジの宿屋で酒を飲む。
今日は久しぶりに身体を動かして疲れたので、飲んだらすぐ寝るつもりだ。
普段から身体を動かしていればここまで疲れないのだろうが、まあ、今日は頑張ったので責めないでおこう。
「ゴクゴクゴクゴク・・・・・・・・ッチ」
そんな修二は酒を煽りながら不機嫌そうに舌を鳴らす。
酒の席で不機嫌そうにするのは珍しく、基本酒を飲むときは楽しそうしているのだが、依頼から帰って来てから修二はずっと不機嫌そうに顔を顰めていた。
「ティティティ、酒追加だ。さっさと持ってこい」
「いやらのらぁ~。もっとこの子の傍にいるのらぁ~」
そんな修二とは逆にティティティは上機嫌に修二の隣に座り、ニコニコと笑っていた。
その理由は修二のテーブルの上にいる存在であった。
「ぺちゃぺちゃぺちゃ」
「えへへ、かわいいのらぁ~」
「ぺちゃぺちゃぺちゃ・・みぃ?」
テーブルの上には、オヤジが作った子猫用の離乳食ぽいなにかが置かれており、子猫がそれを食べていた。
我が物顔でテーブルの上で飯を食っているこの子猫は依頼で見つけた野良猫だ。
一応生活魔法で汚れやノミを綺麗に取り除いた後、依頼主の子供に渡したのだが、結局受け取らずに、ご飯の時間だから帰ると言って置いて行ってしまった。
まあ、元々野良だし引き取る気が無いのだから、放置でいいかと思い、そのまま放って宿に帰って来たのだが、なぜかコイツはついてきやがった。
何度追い払っても、意味をなさず、関わるのも面倒で放っておいた。
どうせ、宿に着けばオヤジが追い払ってくれるだろうと思っていたからだ。
なのに、俺の予想に反して、オヤジは普通に子猫を招き入れやがった。
それもなぜか、俺が連れ込んだとか言うのだ。
全く意味がわからねぇよ。
「仕事しろっての、たく。おい、尻尾を揺らすな。毛が飛ぶだろうが!」
「むみぃ!? みぃ! みぃっ!!」
「やめろらぁ! ねこにゃんいじめるらぁ!!」
上機嫌に揺らす尻尾を掴み、酒の肴に毛が入らないようにすると、子猫が離せ~と言わんばかりに、鳴き始めた。
だが、そんな子猫の抗議など耳に入らない修二はツマミを食べる。
「みぃみぃっ!!・・・・・うみゃっ!!」
「いってぇっー!! このクソネコ! 噛むんじゃねぇ!!」
子猫の抗議を受け入れず、いつまでも尻尾を掴み続けると、子猫も怒ったぞと言わんばかりに、修二の指に噛み付き反撃する。
「ねこにゃんダメ! それウンコだからペッしなさい! ペッてしなさい!!」
「誰が汚物だ! チンチクリンのクソガキが舐めたこと抜かしてんじゃね! つかイッテェだろ! いい加減放しやがれ! クソネコ!」
修二は子猫の顎を掴み、無理やり口を開かせようと試みるもうまくいかない。
マジで指を食い千切りに来ているのではないかと思うほどに、顎の力が強かった。
ネギでもその口に突っ込んでやろうか
「三人ともあまり騒いじゃダメよ。他のお客さんに迷惑でしょ?」
「「「!?」」」
騒がしくしている二人と一匹のもとに、追加の酒を持ってきたカルラが現れる。
柔らかく、優しげな声であるが、有無を言わさぬ迫力があり、思わず二人と一匹は動きを止める。
「よ、よう、カルラ。厨房にいたのかよ」
「ええ、今日はお客さんの入りが多いから手伝いにきたのよ。それより、ティティテイ。お仕事しないで何しているの? 今日は忙しくなるって言いったよね?」
「ま、ママ。ちがうらぁよ。ねこにゃんがね。ねこにゃんがコイツにイジメられていたから止めてただけなんらぁ・・・・・ごめんなさい」
未だに修二の指に噛み付いている子猫を指差しながら、いい訳を口にするが、カルラが無言で微笑むと、ティティティは即座に頭を下げ謝罪する。
「ティティティ。お客さんを、それも年上の方をコイツ呼ばわりするのは失礼だと言っているでしょ? ちゃんとお名前か愛称でお呼びしなさい」
「あい・・なのらぁ」
素直に返事はしているが、どうせカルラがいない場所ではいつも通りお前かコイツ呼ばわりしかしないだろうなと思いつつも、修二は下手な横やりを入れることはしない。
下手に関わるとこちらにまで飛び火しかねないからだ。
「ほら、空いたテーブル拭いてきて」
「・・あ~い」
カルラに指示されティティティは渋々席を立つと、テーブルを拭きにいく
チラチラと子猫に視線を向けてくるので、まだまだ子猫と戯れたかったのだろう。
「いつも遊んでくれてありがとうね。だけど、流石にお仕事中に遊ぶのは止めてもらいたいわ」
「おい、いつも言っているが、俺はあのガキとあそ「ガキ?」・・・ティティティと遊んでねぇからな。ヘンな勘違いすんなよ」
カルラは汚い言葉が嫌いと言うより、人の名前を呼ばないことを嫌う。
あだ名や愛称は許容範囲内であるが、世間一般的に悪意のある呼び方や差別用語などを嫌う。
そして改めなければ静かに、そしてしつこくいつまでも怒るので、修二も逆らうことはなく即座に名を呼ぶことにしている。
ぶっちゃけ、オヤジよりカルラを怒らせる方が面倒だ。
見た目はおっとりしているが、中身は蛇だからな。
しつこいったらありゃしねぇ・・・図々しいし。
「つうかよ。カルラ。ティティティがこの子猫気に入ったみてぇだから、引き取ってくれねぇか?」
生き物の世話は面倒。
金がかかるのはどうでもいいが、手間がかかるのはごめんだ。
なので、子猫を気に入っているティティティに押し付けようと愚策した修二であるが、カルラは静かに首を横に振り拒否を示した。
「残念ですが、うちはペットを飼う余裕はないわ。猫ちゃんは抜け毛が酷いですし、お部屋に臭いもつきますからお客様によっては受け入れてもらえません。そもそもその子はシュウジさんに付いて来たのですよね? 引き取っても恐らくシュウジさんの元へ行くと思いますよ?」
「所詮野良だぜ? 飯くれる奴なら誰にでもついていくっての」
何故引っ付いてくるのかわからんが所詮獣。飯をくれる奴が現れれば、そいつの元に行くだろう。
コイツ等は知能よりも本能で動く生き物だからな。
愛情何ぞと言う不確定なモノよりも、食い物と言う形あるモノを渡す人のところに行くだろう。
だから、今はオヤジに懐いているはずだ。
コイツの餌用意したのオヤジだし。
「それなら、シュウジさんがネコちゃんにご飯あげていますから絶対付いていきますね。餌付け完了しているじゃないですか」
「俺じゃねぇよ。オヤジが用意したんだよ」
なんかまた予想とは違う返答が返ってきたぞ。
何で俺が用意したことになってんだ?
「作ったのは夫でも、渡したのは修二さんじゃないですか」
「渡してねぇよ。人の目の前に猫の餌だとかぬかして置くからどかしただけだ」
酒や料理と共に子猫の餌なんぞ置かれれば邪魔と思い、横にどかすのが普通だろ。
「それでもネコちゃんからしたらご飯を用意したようにしか見えませんよ?」
「おい・・まさか、嵌められたのか?」
「さて、どうなのでしょうか? だけど、シュウジさんだって外に放り捨てない程度にはネコちゃんのこと好きですよね?」
「放り捨ててもこの猫無駄にしつけぇからシカトしてるだけだ。追い払っても、追い払ってもついてくるからな。好きとか嫌いとかの感情はねぇよ」
ぞんざいに扱っても追いかけてくるこの子猫の神経がわからん。
普通少しでも威嚇されたり、暴力を振るおうとした瞬間近寄ってこねぇだろ。
「というか、コイツいつまで噛み付いてんだよ。ぶん殴っていいか? マジで邪魔」
「そんな乱暴な事言わないでください。今は甘噛みになっているじゃないですか。きっと甘えたいんですよ。ちょっと撫でてあげれば満足すると思いますよ」
「・・・・・・・」
「そんに嫌そうな顔しなくても・・」
物凄く面倒だというように顔を顰める修二にカルラは困ったように目尻を下げる。
「まあネコちゃんの事を任されても困りますし、そもそも子供達の依頼で探した子猫なら、その子供達の親御さんに相談すべきでは? もしかしたら引き取ってくれるかもしれませんよ?」
「あ? あぁ~、アイツの所か・・・・・はぁ」
依頼を受けた子供の親は兵長だ。
最後のほうは嫌な感じで別れてしまった為、会うのが少し気まずい。
アイツは気にしてはいないと思うが、一日もたたずに顔を合わせるのはなぁ。
そして何より、あれだけ子沢山だと子猫と言えどペットを飼う余裕はないだろう。
聞くだけ無駄だと思うが、また子猫が見かけなくなったらガキ共が騒ぎ出しかねない。
放置すると後々面倒なことになるのも目に見えている。
結局は一度顔を出さなければならないな。
(なんで、こんなことに・・・・クソ、何もかもあの禿のせいだ)
こんな面倒事を押し付けたピカールを祟りながら、修二は酒を煽った。
ちなみに子猫だが、修二に構ってもらえないにも関わらず、勝手に人の指をおもちゃにして一人で遊んでいた。
指の間から顔を出し入れしたり、指を抱きしめて舐めたり噛んだりして遊んでおり、それを見ていた普通の価値観を持つ客達は、頬を緩ませほっこりとしていた。
まあ、修二だけは我関せずと言った感じで、酒を飲み続けていた。
なんとも感性の低い男である。
だが、子猫が遊び疲れて修二の手を抱きかかえるようにしながら寝てしまうと、めんどくさそうにしながらも酒を飲むのを中断し部屋へと連れて行くと、わざわざ寝床を用意しては、そこに寝かせるくらいの優しさは持ち合わせていたようだ。
なんだかんだ言っても、好意を寄せてくる者を邪険にできないようだ。。




