戯れ後に
「もういいぞ。さっさと失せろ」
「おいテメェ、俺をこんだけ酷い目にあわせといて謝罪もなしか? ふざけんなよ山賊」
顔の原形が無くなるまでエルフィナにぶん殴られ続けた修二はドロップキックをくらわせた兵長に文句を言う。
なぜかエルフィナの攻撃を受けるとき、装備していた魔道具が作動せず、エルフィナの攻撃を全て生身の顔面に食らうこととなった。
まあ、少し考えればエルフィナの能力の一つに命の定着と支配という、物を支配する能力がある。
大方その応用で、意志ある魔道具を支配下に置いたのだろう。
マジでアイツなんなの、化け物過ぎて怖いんだけど・・。
ちなみに救出した男の子はエルフィナの殺気で気絶してしまったので、今は兵士達の宿舎で介抱されている。
「それはこっちのセリフだ。テメェが変なこと言わなきゃ俺達だってこんな目に合わずにすんだんだぞ」
「「「そうだそうだ!!」」」
兵士達の顔面も修二と同じように原形が無くなるまで殴られ腫れ上がっていた。
兵士に手を出せば捕まる可能性もあるのだが、まあ、今回ばかりは年端もいかない少女に下ネタを吐いて怒らせたと言うことで、おとがめなしとなった。
というより、そんな理由で少女を捕まえれば、兵士達の方が市民から非難を受けることになるだろう。
「はっ! こんなチビにいいようにやられてんじゃねぇよ! それでもお国を守る兵士様か? クソ情けねぇってんだよ!!」
そして、せっかく鎮静化した喧嘩がまた勃発する。
「テメェこそチビ助より長く冒険者やってんだろうが! 先輩として手綱握っとけよ!」
「ふざけんな! 成りはチビガキでも中身はオーガだろうが! そんなコエェ奴の手綱なんぞ引けるかっ! チビガキに毎日ボコられる人生なんざ御免だっての! そう言うテメェが握ってみろ!!」
「俺だって御免だ! 握るにしてもグラマラスな姉ちゃんじゃねぇと興が乗らねぇってんだよっ! ツルペタじゃ何の楽しみもねぇだろうが! 眺めても揺れるモンが皆無だろうゴボッ!?」
「あっ・・・・・」
ツルペタ発言に皆無発言。
それを口にしたことによって、兵長はエルフィナの手によって地面に顔面を押し付けるようにぶっ飛ばされることとなった。
その光景を見て、修二は一瞬呆けた顔になるが、
「ギャハハハハハハッ、ざまぁ! マジざまぁ! ウチのチビオーガ怒らせるからだブワ~カ! ギャハハハハッ!!」
無様に倒れる兵長を見て馬鹿笑いを始めた。
まあ、
「アンタももう一遍吹っ飛べぇぇぇっ!!」
「ギャハハハハッ!・・・・はっ?」
エルフィナを散々チビだのオーガなどとバカにしていたので、同じように地面にキスすることになったのは予想どおりだろう。
「アンタ達もこれ以上舐めた口きいたらぶっ飛ばすから気を付けなさいよ! いいわねっ!!」
「「「はっ! 了解であります!! エルフィナさん!!」」」
「ふんっ!!」
そしていい加減付き合うのも馬鹿らしくなったエルフィナは、不機嫌そうに鼻を鳴らし、ドスドスと地面を踏みならしながら、街へと入っていった。
「・・・いってぇ~」
「・・・ヤベェなあの嬢ちゃん」
吹き飛ばされた二人は、仲良く草原で横になりながら空を見上げる。
「流石期待のルーキー。かなりの実力者だな」
「怒らせるとヤベェし、まだ年若いせいですぐに手が出やがるがな」
「まあ、それを差し引いてもこれほどの力。是非と欲しいねぇ」
「やめとけ、やめとけ。手のかかるガキなんざ入れても輪が乱れるだけだ。それにあのガキは人付き合いが下手だからな。スカウトするならもうちっと大人しくなってから誘いな」
「お前が言うなと言いてぇな。まぁ、確かにしつけのなってねぇ子供は面倒だから少し待つか・・・・ちなみに、俺が生きている間にスカウトできそうか?」
「クカカカカッ。長寿共の成長はクソおせぇから、百年くらい気長に待てよ」
「長すぎるわ。流石にそこまで待ってたら死んじまう」
「だな・・・・・短命な人族じゃあ、待つには長いな」
「そうだな・・・・・・・」
流れる雲を見つめながら、不意に二人は口を開くのをやめ、ただ静かに空を眺めた。
しばらくして、修二と兵長の雰囲気が変わる。
「・・・テメェのガキ共が森に行くために使っていた抜け道。あれは十中八九犯罪ギルドが用意した抜け道だろうよ。いままで運よく見つかってねぇからガキ共は殺されなかったが、今後はわからん。近づかねぇようにきつく言っとけ」
「忠告はありがたいが、流石にその憶測はあり得ねぇだろ。犯罪ギルドが用意した抜け道をただの子供が見つけるのは無理だ。しかも使用すれば嫌でも痕跡が残る」
冒険者並みに脳筋で、冒険者以上に殺しに快楽を得るヤバイ集団。
それが犯罪ギルドの者達。
どうしようもない社会のゴミクズが集まっている犯罪者ギルド。
だが、人を殺すことに関してはどのギルドよりも上だ。
犯罪に関する技術、要するに人を殺し、騙し、隠す能力がかなり高い。
そんな奴等が、子供の痕跡を見逃すとは思えない。
「それがあり得るんだよ。テメェのガキ。ああ、森に入ったバカガキのことだが、そのガキが何か隠密に特化した能力持ってやがる」
「は? マジかよっ!?」
思わず声を大にして起き上がろうとする兵長だが、修二はひと睨みしてその動きを止める。
「ガキ抱えながら森の中駆けずり回っていたとき、僅かに俺の気配が薄まっていた。しかも俺の足跡が地面から完全に消えてなくなったのも確認している。流石に、足跡以外の痕跡も消せる能力じゃなさそうだが、今後能力が進化しないとも言いきれねぇ。だから注意深く見守ってやれ。隠密に特化した能力者はどの国も欲する能力の一つだ。下手したら暗殺部隊として無理やり使われるぞ」
どんな能力持ちでも国は放っておかず、その中でも暗殺の類に使える能力者は国以上に、権力争いの絶えない貴族共が躍起になって手に入れようとするだろう。
「能力者を発見した場合、報告の義務がある。報告しなければ下手したら死罪だ。それでも黙っておけって言うのか?」
規則を守る真面目な兵士様のような口ぶりだが、己の子供が国の道具として扱われ、そして 死んでいく未来を想像して、少しばかり兵長の顔色が悪い。
規則を守りたいが、それ以上に子供を守りたい。
だが、もしも一人の子供を守った場合、己の命が亡くなるのは勿論の事、他の家族も巻き込まれて裁かれかねないと思い、兵長は不安に駆られていた。
「秘匿しろと命ずるつもりはねぇし、勝手にしてもらって結構だ。ただ、お前は勘違いしているぞ。発見したのは俺で、報告したのはこの俺だぞ。真面目な兵士長様は日々飲んだくれのクズ野郎の妄言を信じるとは思えねぇし、信じられなくとも誰も責めねぇと思うぜ? 所詮クソでクズのゴミ野郎のダメな男の言葉だからな」
「そうか・・・・そうであってくれるか」
酔っ払いの言葉など誰も信じない。
いま報告している修二が酔っぱらっておらずとも、日頃の暮らしを知る者達が勝手に勘違いするだろう。
酔っ払いが妄言を吐いていると。
その酔っ払いの妄言を信じるのは無理だと民衆は思うだろう。
国が修二と言う存在を知っていても、多くの民衆の前で俺の言葉が妄言であったと気付けなかったことは指摘できない。
それを指摘してしまえば、何処にでもいる酔っ払いの言葉を信じろと言わざる負えなくなるのだから。
「まっ、報告するにしても、最低限能力が使えるようになってからにするこったな。無意識に発動しているうちは無能力と変わりねぇ。それに、ある程度力が使えねぇと碌な目にあわねぇぞ」
隠密と言う能力を欲する貴族は星の数ほどいるが、結局手に入らなければ邪魔の何物でもない。
秘密裏に処理しようとする者が現れても可笑しくはないだろう。
「扱えるまでと言うが、能力を扱うのはかなり難しいのだろう?」
「難しいが、真面目に鍛錬してれば最低でも10年後には扱えるようになるだろうよ。良かったじゃねぇか、一生かけても使えないようなクソヤベェ能力じゃなくて」
得た能力によっては長寿である龍人族や魔人族が一生を費やして扱えないほどの強力な能力も存在する。
人の身でそんな能力を授かっても宝の持ち腐れというモノだろう。
まあ、それはさて今はコイツのガキが気がかりだな。
確かに10年間真面目に能力開花の鍛錬をしていれば使いこなせるようになるだろうが、そこまで秘匿しておけないだろう。
ならば少しでも早く扱えるように、同じ能力者に師事するべき。
人格は勿論の事、国に仕えておらず、ガキを道具として扱わない奴が必要だ。
でなければ、薄汚い貴族共の道具になっちまう。
せっかく拾った命が、使い潰され捨てられることを面白く思わない修二は、鼻の頭を掻く振りをしながら口元を手で覆い隠し、兵長に聞こえぬ小声で能力を使った。
「・・・・・テメェの祖母に相談してみろ。それで解決するかも知れねぇ」
「かあちゃんにか? なんでだよ」
それはお前の祖母が隠密の能力持ちだからであり、その能力を隠しているからだ。
完全に扱えるほどの腕ではないが、それでも一人で鍛錬させるよりいいだろう。
まあ、それを伝える訳にもいかないが。
「授かる能力ってのは運以外にも血が関係してくる。俺の見立てではテメェの血筋に同じような能力を発現させた奴が過去にもいたはずだ。そしてそういう奴等は大抵は何かしらの寝物語として子孫に語り継がせ教訓を作るもんだ」
俺に言えるのはここまで、これ以上はうまく伝えられないと思った修二は子供の話をここで打ち切ることにした。
「話を戻すぞ。ガキ共が使っていた抜け道は犯罪ギルドのクソ共が用意したモノだ。場所は商業地区の城壁に面した空き地のどこかだろう。詳しい場所はガキ共に聞いてそこを封鎖するなり、罠として利用するなり好きにしな」
「おう任せな。一気にクソ共を取っ捕まえてやるよ。それより、街に手引きしたクソ野郎が気になるな。場所が商業地区ってことは商人に扮した奴、もしくは商人が手引きしていると思うか?」
「街に入る時だけなら商人として入ったのかもしれないな。ただ、この街で商人としての活動は無理だ。商業地区を仕切っている古狸共が、テメェの島荒らす馬鹿共を見過ごすほど耄碌したとは思えねぇ」
「なら、それ相応の権力者がを関わっていると考えるべき・・・・・貴族か?」
「断定はできねぇが、そっちの方が可能性ありだ。まっ、そこら辺は勝手にやってくれ」
話は終わりだと言わんばかりに修二は起き上がると、服についた草を払う。
情報提供してやるのは放っておくと無駄に面倒ごとに巻き込まれそうだからだ。
本来ならそれなりの対価を払ってもらわないと話さない情報で、ぶっちゃけ割に合わないが、まぁ国に情報を売るにしても、買いたたかれるのがオチだろうし、俺みたいな能力持ちが自ら接触しに来たとなれば、これ幸いにと囲い込みに来るだろう。
それは、とても面倒である。
「なぁ、お前の方で調べることは「おい」・・」
兵長の問いかけに、今までのような覇気のない瞳からから一転して、真っ暗な闇のように静かで冷たいモノへと変わった。
「クソ犯罪ギルドはイラつくが、俺を一番イラつかせる存在が何か知ってるよな? 知らねぇとかぬかすなよ? あの時代を知るテメェ等が、アイツ等の願いを知るテメェ等が、俺の力を求めるなんてバカな事しねぇよな?」
返答次第では貴様を殺す。
お前の家族も殺す。
この国もこの世界も全てを巻き込んで死んでやる。
そう感じてしまうほど深い憎しみがその目に宿る。
「・・・・・・・・・・」
その瞳を見て兵長は眉間にシワを寄せながら
「すまねぇ。今のは忘れてくれ」
素直に謝罪を口にした。
「・・・・あぁ、聞かなかったことにするぜ。今回の情報提供はただの気まぐれだ。自由でロクデナシの飲んだくれが暇に憂いて口を挟んだだけさ。たったそれだけのことだ」
兵長の謝罪を受け入れた修二は寒気を覚える雰囲気を引っ込め、不機嫌そうな顔になりながらゆっくりと街へと向かう。
「10年以上も前の昔話。そんな言葉で済まされれば楽なのによぉ・・・・・流石に、そうはいかねぇよな。はぁ、ちょっと軽率だったか。俺も平和ボケしたかねぇ」
やっちまったなと反省しながら、兵長はどこか悲しみに満ちた目で修二を見送った。




