戯れ
エルフィナと追いかけっこをして街に着く道すがら何度も魔物に襲われたが、その全てをエルフィナが危なげなく処理していった。
なんとも頼もしい限りだが、その力を俺に向けられていたことを考えると素直に喜べない。
いつもとからかうレベルはそう変わらなかったのだが、今日の反撃はあまりにも過激すぎだ。
恐らく、今まで褒められ慣れてないのだろう。
なので恥ずかしさも相まって威力が倍増したと思われる。
恥ずかしさ半分、怒り半分という所か?
うん、怒りマックスよりも恥ずかしさ半分の方がヤバイってことは理解した。
次からは気を付けよう・・・多分。
「しかし、いつになったら入れるんだ? もうさっさと帰って酒飲みてぇんだけど」
「知らないわよ。てか、なんで私まで巻き込まれなきゃいけないのよ。私関係ないじゃない」
無事に街に着いた修二達であるが、なぜか門前で衛兵に止められていた。
事情を話し、依頼で子供を救助してきたと伝えたのだが、街にいれてもらえない。
マジで意味がわからんぞ。
「おい、いったいいつまで待たせるつもりだ。何も問題ねぇだろ」
「いや、すまない。もう少しだけ待ってくれ。今その子の親を呼んでいるから」
「だったらコイツだけ残すからそっちで処理しろよ。つか、わざわざ呼ばねぇでも勝手に家に帰れるだろ」
「ちょっと、それだと報酬貰えないんじゃないの?」
「元々のギルドの依頼は野良猫探しだ。ギルドを通してねぇガキ探しは個人的な依頼だから、依頼者に無事だったって伝えりゃそれでしまいだ」
別に依頼書が発行されている訳でもない。
俺の言葉を信じずに失敗扱いされても、それはそれで別にイイ。ギルドの評価に繋がる訳もないからな。
まあ、ばっちゃんに疑われるとか考えたくないが。
「それがこんなことに巻き込まれてマジでクソッタレな日だぜ」
なんでこんな面倒な依頼に変更されているのか意味がわからん。
おかげで今日の稼ぎは無に等しい。
いや、魔道具だかなんだか色々使ったから、久しぶりの大損だな。
無駄働きさせられた以上に最悪な日だぜ。
はぁ、さっさと帰って酒でも飲まねぇとやってられねぇ。
「あぁ、そうだ。当初の依頼も一応は完遂させとかねぇとな。じゃねぇとギルドのクソ共が文句言って来るかもしれねぇ。面倒だが仕方ねぇか。おいガキ、その猫借りるぞ」
そう言うと、子供から子猫を奪う。
「あっ! 返せよ!」
「別に取って食いやしねぇよ。猫の肉は食えたもんじゃねぇからな」
「食べたことあるような口ぶりね・・気持ち悪い」
首根っこを摘まんで持ち上げる子猫に手を伸ばす男の子であるが、流石に背丈に開きがありすぎて届くことはない。
子供のモノを無理やり奪っているクソ野郎にしか見えない光景である。
というか、今修二が摘まんでいる子猫だが、あれだけ騒がしくしていたの言うのに未だに眠ったままだ。
見つけた時からずっと眠り続けているのだが、コイツには危機感というモノが無いのだろうか。
コイツはこのガキ以上に大物になりそうだな。
そんな事を思いながら、子猫を眺めていると
「うおらぁぁぁぁっ!!」
「ぐぼほっーーー!?」
何かに顔面を蹴られ、吹き飛ばされることとなった。
ちなみに猫も一緒に吹き飛ぶことになったが、一応は無事だ。
一応依頼品? であるため修二が懐に抱えるようにして守ったのだ。
なんだかんだ言って、受けた依頼を完遂するつもりはあり、無駄にプロ意識が備わっていた。
「うわっ、なんだコイツ気持ちわりぃっ!?」
「行き成りドロップキックくらわせといて、何て言い草だ! ざけんなこの山賊野郎!」
「いや、本当に気持ち悪いわよ。なによその顔。森で会った時も思ったけど、それ魔道具か何か?」
「あん?・・・・・・あぁ、なるほど」
エルフィナの言葉に修二は己の顔に触れてみると、顔が変形していることに気が付いた。
今回危険な依頼をこなすために、本気装備であり、装備の中に頭と顔面の皮と一体化し首から上を防御してくれる魔道具を身に着けていた。
恐らくそれが発動しているのだろう。
更には言えば久しぶりに装備されたことが嬉しいのか、この魔道具は顔の形を変えて遊んでいた。
はた目から見たら、別人の顔になっているだろう。
(だからオヤジ達はあの時変な反応だったのか)
今更になって何故二人共可笑しな反応をしていたのか理解した修二は納得する。
納得するが、ならばなぜエルフィナは俺のこの姿を見てすぐに気が付いたのだろうか?
もしかして、ダークエルフには人族には無い感覚器官があるのだろうか?
蛇とか熱源反応わかる器官が備わっているしな・・・うん、エルフィナには能力以外にもそういった力も備わっていそうだ。
「防御はいいから元に戻れ」
修二の目からは見えないが、今の修二の顔は、隻眼の渋いおっさん顔がポリゴンになっていた。
防御といえば固くなる。
どっかの世界のポケット的なモンスターの技に似ているような気がするが気にしてはいけない。
「可笑しな魔道具。というか、まだ顔が可笑しいのだけど。いい加減その可笑しなおっさん顔止めなさいよ」
「おい、可笑しいとか言ってやるな。この魔道具のお気に入りだぞ」
「お気に入りって、まるでそれに意思がある風に言うのね」
「んなもん、見ればわかるだろ。意思はある。だから機嫌損なわれると面倒なんだよ」
「ふ~ん、意思ねぇ」
そうだそうだと、文句を言うように、修二の顔が伸びたり縮んだりする。
いや、厳密に言えば隻眼の渋いおっさんの顔が伸び縮みしているのだが。
「そのウザったい声は・・飲んだくれだな! テメェ飲んだくれだろ! このクソ飲んだくれ! ウチの倅になにしてくれてんじゃい!」
「そういえばこの人その子の親なのね。兵士だったなんて意外。階級は・・・ふーん。兵士長ね。弱くもなければ強くもないわね」
修二にドロップキックをくらわせた山賊、もとい、兵士は助けた男の子の父親であった。
まるで熊のような風貌で兵士の鎧を着ていなければ山賊としか見えないが風貌であるが、兵士長と言う階級でそれなりに偉い人である。
「うるせぇこの山賊! まずは蹴っ飛ばしたこと謝りやがれ!」
「貴様こそ倅泣かしてタダでいられると思うなよ! 犯罪者として捕縛してやろうか! ああ!!」
「あん? ノロマのクソ山賊が誰を捕まえるって? こと逃げに関しちゃあ俺の右に出るもんはいねぇんだよ。ブワ~カ!」
「そんな事しか自慢できないなんて・・・だからアンタは雑魚なのよ」
毒を吐くエルフィナを尻目に、二人は一触即発である。
そんな二人を見て兵士達は慌てて間に入る。
「兵長! その飲んだくれ・・飲んだくれか? まあいい! その飲んだくれだ! その飲んだくれが兵長のお子さん助けてくれた人ですってば! 森から救助してきてくれたクソダメ男ですよ!」
「そんなクソダメ男でも一応は救出してきた功労者です! 状況的に考えて喧嘩売るのは失礼ですよ! こんなどうしようもない奴ですが! 一応は感謝するべきです! 一応はっ!!」
「ああ! なんで感謝すんだ! 森ってどういうことだ! 何でウチの倅がここにいんだ! 外は危ねぇんだぞ! おいクソのクズダメ男! どういうことだ! なんでテメェはクソなんだ! そしてクズなんた! なんでダメ男なんだぁぁっ!」
「いや、話しましたよね! 自分はちゃんと話しましたよね! なのになぜ忘れているんですか! そいつが、まぁクソクズダメ男だとは気が付きませんでしたが、そのダメ男が久しぶりにまともな依頼受けているみたいだからそこは突っ込まないでおきましょうよ! まともな依頼受けている時点で問題起こすとギルドが出張ってくるんで面臭いんですから! だから下手なもめ事はやめてください! ダメ男のせいでギルドとトラブルになりたくないッスよ!! こんなダメ男のせいで!!」
「おいテメェ等、さっきから人のことクソだのダメ男だのと喧嘩売ってんのか? 買ってやろうかその喧嘩? 毎日俺の吐瀉物ここに巻き散らかしてやろうか? 俺の内容物の量、半端ねぇって思い知らされてやろうか?」
「うわっ、やめてよね気持ち悪くなるじゃない。というか、そんなことするならマジでぶち込まれなさいよ。臭い飯食ってる方がアンタにはお似合いだわ。それにアンタみたいなダメ男が仮に無実の罪で捕えられようが、ギルドが動くわけないじゃない。だってアンタゴミだもの」
「おい、エルフィナ。テメェもさっきからウゼェぞ。下の毛も生えてねぇガキが、大人の話にしゃしゃり出てくんじゃねぇ」
「っ!? は、はえてるわよっ! ちゃんと綺麗な銀の毛が生えている・・わ・・・・・・・何言わせるのよっ! このバカッーー!!」
「ゲハッ!? おい! 待てこらっ! テメェが勝手に自爆したんだろがっ! ゴフッ!? ちょ、ちょっと待てや! いや、それはダメだろ! それはマズイだウギャーーーッ!?」
そして毎度のことながら、ちょっとした失言でボコボコにされる修二である。
ぶっちゃけ、禁句か下ネタ関係を口にしなければそうそう痛い目には合わないと思うのだが、彼がそれを学ぶことはないだろう。
「「「ほうほう、やはり下の毛は髪の色と同じ色になるのか。勉強になるなぁ」」」
「アンタ等も記憶消せぇぇぇぇ!!」
「「「ウギャーーーーッ!!」」」
いや、この世界の男共はまともな職業についている兵士であっても基本バカなのかもしれない。
「・・・・・・・」
唯一バカでないのは純粋無垢な幼子であり、今の内に少しはこのバカな大人達を見て利口になってもらいたところだが、
「・・・・・・・・・ぶくぶく」
今世紀最大のエルフィナの尋常ではない殺意にあてられ、純粋な子供は泡吹いて意識を失っていた。
彼にまともな大人になることを求めるのは、無理な願いなのかも知れない。




