禁じ手
「ッチ、足りなかったか」
あれからも修二は森の中を駆け回りながら、襲い来る魔物を罠にかけ撃退していったが、残念なことに全ての魔物を撃退することは叶わず、一種類の魔物の集団だけ生き残ってしまった。
まあ、本来の襲ってくる数よりもかなり減らすことが出来たので脅威度は減っているので良しとしよう。
今の状態でも俺では討伐など夢のまた夢だが。
「・・・・・仕方ねぇか」
このまま逃げ続けていても、あっちの足の方が速い。
街にかなり近づいているとはいえ、街に着く前に対峙するのも時間の問題だろう。
だから仕方がない。
使いたくない手であったが、四の五の悩んでいる暇はない。
「全ての条件を破棄し新たな条件を設定 半径2キロ圏内で戦闘特化型の冒険者を表示」
そう呟くと、修二の視界の地図が書き換わり、一つだけマークが浮かび上がった。
想像以上に悪い結果に、頭が痛くなるが、まあないよりマシと思うことにする。
「戦力予測 表示されし冒険者は俺を追う魔物の排除が可能か答えよ」
問いに答えるように地図全体が問題なしと言うかのように青色に染まる。
「いい答えだ。ならば目的地変更、その冒険者の元へ頼む。危険なルートは止めてくれよ。相棒」
任せとけと言わんばかりに白い矢印が勢いよく現れ道を示した。
今から修二がやろうとしているのはトレインと言う最低の行い。
今までの様に、追いかけてくる魔物を関係ない魔物に押し付けてきた行為を、今度は人に押し付けるのだ。
押し付けられた人は死ぬ可能性があり、冒険者の世界では同業者殺しと言われる最低の行いだ。
まあ、生き残りを賭けた冒険者の世界ではよくあることで、責められはするが罪には問われない。
魔物が標的を変えることを、責めることなどできはしないのだから。
まぁ、高い賠償金を払うことになるかも知れないが、ただそれだけだ。
俺にとって、この街の冒険者とはそこまで関わりがなく、あちらもなんだかんだと煙たがっているようだからな。
一人や二人死んだところで、心も痛まない。
まあ、依頼を完遂する為には必要な犠牲と思ってもらおう。
何より、このガキを死体で連れて行くよりも、生きたまま連れて行った方がばっちゃんも喜ぶだろうからな。
詳細は話さねぇけど。
「まっ、これも弱肉強食ってことで、諦めて貰うほかねぇわな」
見知らぬ命より、身近な笑顔の方が大事だ。
経緯は墓まで持っていきゃあ、その笑顔が曇ることもないだろと、自分本位の最低な考えの元、修二は目的の人物の元へと駆けだした。
(み~つけた)
しばらく走り続けていると、森を歩く一人の冒険者を視界に捉える。
黒と紫色の皮鎧に身を包んだ小柄な冒険者。
腰と普通の剣を装備し、背中には長剣を装備している。
背中の装備している長剣は身長が低すぎて時々地面を抉っており、まるで子供がお気に入りのオモチャを背負っている様にしか見えない。
能力を疑う訳じゃないが、本当にあの冒険者が追いかけてくる魔物をどうにかできるのかと心配になってしまう。
(まあ、そんなこと今更考えてもしかたねぇか)
押し付けると決めたのだから、死んだら死んだだ。
申し訳ないが利用させてもらおう。
「おい! お前! 魔物が来るぞ! 逃げろ!!」
無理やり臨戦態勢を整えさせるために、修二はワザと声をかける。
忠告したのは後でワザと押し付けたんじゃない。逃げている時に偶然出会ってしまっただけだと言い訳するためだ。
もし助かったならば、謝罪しそれなりの金を支払うつもりだが、それでも許さないバカはどこにでもいる。
ならば、逃げ道を残しておきたいと、なんとも小悪党じみたこすい男であった。
そして修二の声を聞いた小柄の冒険者は足を止め振り返る。
「げぇっ!?」
ただ、その顔を見て修二は心の底から嫌そうな声を発することとなった。
「・・・・・・!?・・・・・・・・人の顔見て第一声がそれって随分と失礼じゃない。切り刻まれたいのかしら?」
そこにいたのは、いつもオヤジの宿屋でからかっているエルフィナであった。
なぜか物凄く驚いた顔した後、すぐにいつものようなしかめっ面になったのが、コイツは間違いなくエルフィナだ。
「なんでチビパイがここにいんだよ!?」
「依頼の帰りに決まってるじゃない。そう言うアンタは・・・なにその姿。全然似合ってないわよ。と言うより、飲んだくれから人攫いのクズに落ちぶれたの? 犯罪者みたいだし斬っていいかしら? 斬っていいわよね? さっき喧嘩売ってたものね?」
抱える子供を見て、そんな事を言うエルフィナだが、本当に頭にきているのはチビパイと言う言葉にだろう。
「おい今は止めろ! つい思ったことが口に出ちまったことは悪いと思っている。(反省はしていないが!)だから今は止めろ! つか、人攫い何ぞ割に合わねぇことするかっての。コイツはクソギルドからクソ依頼を押し付けられて、なんやかんやあってこうなっちまったんだよ!」
「そのなんやかんやが気になるのだけれど、それ以上になんかイラつく事考えたわよね?」
「ハッハッハッハッ! 色々気にすんなっ!それよりエルフィナ・・アイツ等殺せるか? 無理なら逃げるぞ」
つい数秒前まで囮に使う気であったのに、一緒に逃げようとは物凄い掌返しである。
流石に顔見知りの、それも女のガキを囮にするのは目覚めが悪いと思ったようだ。
エルフィナは修二が視線で指す後方の木へと視線を向ける。
そこには五本の長い腕を持つ猿型の魔物が数十匹木々を飛び渡りながら迫ってきていた。
「ゲズバウンダーじゃない。何アンタ、あんなのから逃げ回ってたの?」
「Dランク以上からの魔物は専門外だ。俺はお前みたいに戦闘に特化した能力は持ってないんでね。つか、その口ぶりからすると問題なく殺せるってことでいいか? だったら、後は任せて行っちまっても構わねぇか? かまわねぇよな?」
「そうね。別にあの程度、どうってことないけど・・・・・・・!?」
「ならまかせるべぇっ!?」
問題ないというエルフィナの言葉を聞いて、それなら逃げようと、また掌を返し逃げ出そうとしたのだが、そうなる前に、エルフィナが修二の襟首を掴む。
「げほげほっ、何しやがる! 逃げていいって言っただろ!」
「・・・・許可を出した覚えはないわ。というより、私に任せてアンタが先に帰るとか物凄く気に食わないわ。それに、子供を抱えている理由もちゃんと聞いておきたいし」
「はぁ? 何で俺がそんな面倒な話をせにゃなら「魔物を押し付けに来た報酬よ。嫌ならこっちにも考えがあるけど?」・・・・・チッ」
流石にバレているかと、修二は舌打ちして押し黙る。
エルフィナもバカなガキだから気が付かずに逃げられると思ったのによぉ。
「ならさっさと片付けろ。一匹でもこっちに寄せ付けんなよ。来たら逃げるからな」
そう言いながら、修二は腰に差していた短剣を抜き構える。
戦闘に参加するつもりはなくとも、討ち漏らしが無いとは言えない。
まあ、だからと言ってゲズバウンダーの攻撃を受け流せる技量は修二には無い。
よくて、数発受け止められるくらいだ。
故に修二は意識を研ぎ澄ませ、生き残るために防御の構えを取った。
「心配するだけ無駄ね。あの程度目を瞑っていても殺せるわ・・・・・ふふっ」
エルフィナは修二が短剣を構える姿を見た後に、静かに笑う。
別に修二の構える姿が滑稽であるとか、そう言う意味で笑ったわけではない。
ただ、抱えている子供を降ろせばそれだけで戦う手段が広がるというのに、それを選ばず、己の身を盾にするように構える姿に思わず笑ってしまったのだ。
何の依頼を受けたか知らない。
私に魔物を押し付け、逃げると発した時でさえ、子供を置いていくようなことはしなかった。
無意識なのかもしれないが、子供を守ろうとする修二の行動はエルフィナにとって好ましいモノだった。
(普段の飲んだくれのダメ男からは想像できないくらい真人間になってるじゃない。まるで普通の冒険者だわ・・・・普通の冒険者じゃないわね。普通に雑魚い変な男ね)
悪意無く修二を心の中でバカにしながら、エルフィナは魔物の群れへと掛ける。
迫りくる魔物に対して、エルフィナに恐怖は無く、ただ隠せない笑みを浮かべながら虐殺していった。
ちなみに、先程エルフィナが修二を引き止めたのは、魔物を押し付けられることに腹が立ったことが理由ではない。
あの時、エルフィナに任せて逃げようとした修二に対して、エルフィナは能力を使い、修二と子供の未来を見た。
そして、その時見たのが、全身血まみれになりながら、子供を抱えて何とか街にたどり着く修二の姿だった。
街にたどり着いた修二は、そのまま入り口の兵士達に子供を渡し、そして、そのまま倒れ、死んでいくと言う未来。
故にそんな未来を受け入れることが出来なかったエルフィナは修二を引き止めた。
普段から己の最悪の未来を見るたびにどこからともなく現れては、汚い手段で助けに現れる修二への恩を返すために・・。




