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ロストしたら俺のモノ-酒飲み自由人のダメ男生活-  作者: タヌキ汁
第一章 日常生活と非日常編
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予定よりも最高で最悪な状況


 森に入る前に酒の香りを無くす消臭液を頭からぶっかけ、口からも酒の匂いを漂わせないように薬で対策し、完璧に酒の匂いを消した。

 まあ、臭いが無くなろうとも体内にアルコールが残っているので普段より体温が高くなっているのだが、まあそれは仕方ない、許容範囲と思っておこう。

 森の奥に行くのであれば酒を断っておくべきなのだが、飲んでしまったものは仕方がない。

 諦めるとしよう。


「しかし、最近の俺の運はいいのか、悪いのか」


 そう呟きながら、修二は苦い顔をする。

 その理由は今も能力で右目に映し出されるものがあるモノが原因であった。

 修二の能力で対峙してはいけない危険な魔物の位置と依頼で探している子供の位置を映しだしていた。

 そう、残念というか、運がいいと言うか、依頼の子供はまだ死亡しておらず、なんの因果か未だに生き残っていた。

 恐らく森に入ってから三時間はたっているというのに、魔物に喰われずに生きている。

 もはや奇跡としか思えず、喜ばしい事ではあるのだが、修二にとっては面倒ごとが増えただけで、不運以外のなにものでもなかった。


「はぁ~、悪運強いガキもいたもんだぜ」


 野良子猫探しから、危険な森での遺品を探しに変わり、今度は子供の救助に変わってしまった。

 レベルアップの速度が早すぎて、もはやチートですわ。

 俺に対して優しくないチートですわ。

 ホント、マジで勘弁してほしい。




 魔物との接触を避けつつ修二は子供のいる場所に向かう。

 かなり遠回りすることとなり、予想よりも時間がかかってしまったが、無事目的の場所に到着することができた。

 まだ子供は無事・・・残念とかこれっぽっちも思ってないぞ。

 

 そして、子供がいるであろう場所に視線を向ける。

 無駄に大きく成長した木。

 人の手が入ることなく、運よく大型魔物になぎ倒されることなく成長した大樹を見上げる。

 樹齢百年は優に超えてるだろうに、緑の葉が青々と茂って、枯れていたり、虫食いなどもされていなかった。

 コイツもよほど運がいい大樹なのだな思いつつ、目に映うる矢印が上を指しているので、修二は急いで登っていく。


「ガキの癖してどうやって登ったんだか」


 子供の行動力には驚かされる、などの言葉で済ませられないと思うが、現に子供はこの大樹を登ったのだろう。

 俺の相棒である白い矢印が上を指し示しているのだから。

 そして、矢印が案内する方へと進んでいくと、目的の子供を発見することが出来た。

 できたのだが、


「こいつ寝てやがる・・・・・このガキヤベェな。神経ぶっ飛んでやがる」


 救助対象である子供は、緊張感無く寝こけていた。

 瞼の下も赤くなっていないので、泣き疲れて寝たわけでもないのだろう。

 というか子供の腕の中に、初めの依頼であった野良子猫の特徴と一致する子猫もいる。

 コイツも危機感なく寝こけ、一人と一匹はニヤニヤと口元を緩ませ楽しそうな夢を見ている。

 恐らくここに来るまで怖い目になど一度も会わなかったのだろう・・・そう考えると何故だか、助けたくなくなる。

 人が苦労してきて助けに来てやったというのに、なんだろうな・・・マジでイラつくわ。

 それに、ここまで魔物に合わなかったのだから放っておいても、何事もなく帰ってくるのではないかと考えてしまう。

 やべぇ、マジで置いていこうかな。。


「・・・・・・・ッチ」


 不吉な事を考えた天罰か、矢印が行き成り現れ、警戒しろと言わんばかりに黄色く点滅する。

 魔物が俺と救助対象者の痕跡を発見し、こちらの探し始めたという警告。

 子供の生存を確認してから設定しておいた保険だが、保険は保険のまま使われることなく朽ちて欲しかった。

 などとバカなことを考えながら、更に能力を使い、何の魔物が気付きつつあるのか、調べる。


「・・・・・・おい、ガキ。起きろ」


 それと同時に寝ている子供を起こす。

 眠ったままの方が運ぶのは楽だが、流石に顔も知らない奴に抱きかかえられていたら騒ぎ出すだろう。

 叫び声一つで危険な魔物がワラワラと寄ってくるヤバい森。

 逃走中に行き成り叫ばれてはたまったものではない。

 ならば、意識を覚醒させ、軽く状況を説明した後で騒がれた方がいい。

 その方がこちらとしても遠慮なく対処できる。


「おい、てめぇいい加減起きろ」


 優しく揺すって起こすなど甘いことはせず、子供の足を軽く蹴りながら、乱暴に起こす。


「んん~、いてぇよぉ~」

「痛いじゃねぇ。バカが。いいからさっさと起きろ。逃げるぞ」

「んんん~」


 もう一度足を蹴り無理やり起こす。


「んん~?・・・!? だれだ! お前!!」


 どこか勝気そうで生意気そうな男の子は、見知らぬ大人、修二に怯えながらも鋭く睨みつけて威嚇する。

 年のころは10歳前後、丁度反抗的で生意気になる年頃だろう。


「大声出すんじゃねぇ。魔物に喰われてぇのか?」

「魔物? あっ!」


 男の子は慌てたように口に手を当て周囲を伺う。

 どうやら己の置かれている状況は理解しているようで、懇切丁寧に説明しなくとも良さそうだ。


(だがまぁ、嬉しくねぇ状況になりつつあるな)


 男の子とはいえ、子供の声は甲高く、良く通る。

 そのせいで、こちらの痕跡を見つけ探していたであろう魔物に声が届いてしまった。

 矢印である相棒もヤベー、ヤベーと言わんばかりに黄色く点滅を繰り返している。

 赤色に点滅してないから、まだ余裕はあるか。


「俺はテメェを救助しに来た冒険者だ。街まで連れてってやるから騒ぐな、暴れるな。いうこと聞かねぇならここに置いてく。バカガキのせいで俺まで巻き添えをくらう気はねぇ」

「お、おれはバカでもガキでもないぞっ!」


(あ~あ)


 矢印が赤く染まる。

 先程の叫び声で確実にこちらの場所がバレた。

 映し出される地図には俺達を認識した魔物がわらわらと集まりつつあり、面倒くさいことになってしまった。

 幸いなのは俺達の痕跡を見つけたのは聴力に優れた魔物なのだろう。

 おかげで魔物と俺達の距離はまだかなり遠い位置にある。


「・・・・・っ!?」


 また騒がれても面倒なので、修二は子供の口を手で塞ぎ、木に押し付ける。


「俺は騒ぐなと言ったはずだ。聞く気がねぇならここで死ね。魔物がテメェの声に反応してこっちに向かってんだ」

「!?」


 魔物が迫ってきている事を伝えると、理解したのか子供の顔が一気に青ざめる。


「更に言うと、テメェの匂いが風に乗って鼻のいい魔物共がざわめき出してやがる。クセェお前を連れて行くのは邪魔でしかねぇんだよ。それでも連れて行ってやろうってのに、暴れて騒いで邪魔するってなら、勝手にここで死ね。俺はテメェの遺留品を回収するだけでも依頼は達成できる」

「!! ッ!!」


 ふざけるな。助けろと言いたげに、バタバタと暴れ、置いて行かれる恐怖で目に涙を浮かべながら修二を睨みつける。

 この状況に怯えているくせに、救助しにきた修二には噛み付く。

 ホントこの年頃のガキは生意気で面倒だねぇ。


「テメェが足を踏み入れたのは、人を見捨てることが罪にならねぇそんな場所だ。危険な森の中に入ったガキが生きているなんざ誰も思っちゃいねぇ。それに元々の依頼はお前の遺品を探すことで、救助じゃねぇ。だからお前が死体になっても、こっちは一向に構わねぇんだよ」


 ただ淡々と事実だけを述べる。

 依頼として受けたのは子供の救助ではない以上、本来ならば子供を助ける義務は無い。

 ただこのまま見捨てるのは寝覚めが悪いと思い助けに来ただけだ。

 その善意を踏みにじり、俺の命までも危うくするつもりならば、子供であっても見捨てる。

 正義の味方をお望みなら、死んで神様にでも願うことだな。

 運が良ければ、会わせて貰えるだろうさ。


「お前は知らねぇわけじゃないだろ? 嫌でも聞かされただろ? 魔物の話を、森の危険を、街の外は人ならざる者の世界だと、聞かされただろ?」


 子供に叱るなど面倒なことはしたくはない。

 だが、相手が子供であり、ここにいる大人が俺しかいない以上教えなければならない。


「おかれている状況を理解しろ。ここは人の支配下にある世界じゃねぇ。死臭がそこかしこから漂い、悪意無い純粋に生きたいと願う者達が、暴力で生存を獲得する魔物の世界だ。ただ力ある者が生き残る美しくもクソッタレに生きづらい世界だ」


 人の世の様に醜くない世界。

 腹が減れば同族であろうとも食らい。

 子が欲しければ、力でメスを屈服させ無理やり孕ませる。

 ただそれだけの世界。

 それ故に単純で美しく、弱い俺達にとっては生きづらい世界だ。


「弱い俺達は殺されねぇために、奪われねぇために息を潜めて、声を殺すして逃げるしかねぇ。弱者であることを受け入れろ。逃走のみを考えろ」


 俺の言葉を受け入れる受け入れないは勝手であるし、お節介だと拒否するのであれば好きにすればいい。

 機会は与えるが、子供と言えども己が選んだ道の責任は取って貰う。


「・・・・・・・・」


 そんな修二の意思を感じ取ったのか、子供は暴れるのをやめる。

 どうせ子供だし理解できねぇだろうなと思っていただけに、少し驚きだ。

 まあ、不満そうに睨みつけてくるのをやめていないので、俺の言いたいことを理解したかは知らんが・・。


「まっ、逃げろと言われて受け入れられる訳もねぇわな。男なら魔物をばっさばっさと切り捨てるのを夢見るのが普通だ。だがな、その夢を俺に押し付けるな」


 理想や夢を否定するつもりはないが、残念ながらお前を助けに来たのは俺だ。

 英雄様のように、物語の勇者様の様に万の敵をなぎ倒せる化け物じゃねぇ。


「俺はお前の望む理想の戦士でも騎士でもねぇ。逃げることに特化した、ただの冒険者だ。そして、お前も力の無いただのガキだ」

「・・・・・・・・・」


 声はあげないが、修二の言葉にムカついているのがよくわかる。

 子供はわかりやすいな。


「バカにされてイラつくなら、強くなりな。逃げることしか出来ねぇ状況にイラつくなら、強くなりな。俺の言葉を受け入れられねぇなら、強くなりな。ただ強くなるだけ。ただそれだけでお前の求める理想に手が届く。力を得るだけでお前が望む行動も許される。簡単な話だろ?」


 そういうと、修二は男の子に手を伸ばしゆっくりと引き寄せた。

 手を伸ばした瞬間男の子は顔をこわばらせ、警戒したが、騒ぐことはしなかった。


「さて、楽しいおしゃべりもここまでだ。流石にそろそろ動かねぇと逃げきれねぇ。わかっていると思うが、騒ぐなよ。騒げばそれだけで逃げきれなくなるからな」

「・・・・・・わかった」


 なんとも素直なことだ・・・言葉だけだが。


「おい、服を掴むのはいいが、肉を掴むな。肉を!」

「おっさん冒険者の癖に贅肉だらけだな」

「冒険者の誰もが筋肉マッチョとでも思ってたか? 残念だったな。魔法使いとかは全員この程度の肉体だ」

「どう見てもおっさん魔法使いじゃねぇじゃん」

「そりゃあバリバリの現役って訳でもねぇから仕方ねぇことだ。諦めな」

「・・・・・・・・・」


 冒険者歴は長いが、今はもう危ない依頼を受けないでだらだら生きているだけの冒険者だ。

 現役であっても、現役ではない。

 ベテランであっても名ばかりである。

 そんな冒険者ですけどなにか?


「・・・・頼りないおっさん」

「少なくともションベンクセェガキよりは頼りになるだろうよ」

「誰も漏らしてねぇからな! クセェと思うんだったらおっさんの匂いだからな! 加齢臭の匂いだからな!」

「誰の体臭が加齢臭だ! おっさんであることは認めるが、まだ腐った卵の匂いが発するほど老けてねぇ!」

「嘘だ! ぜってぇクセェ!」

「黙れこのガキ! マジで置いていく・・・・・あっ」


 視界の端に真っ赤に燃え上がった矢印が、あれ見ろと言わんばかりにある方向を指す。

 矢印が差した方から、数十匹ほどの魔物が一直線にこちらに向かってきているのがわかる。

 うん、あれほど騒ぐなとか言っといて、俺も普通に騒いでたわ。

 そりゃあ、嫌でも魔物を呼び寄せることになるわな。

 つか、そろそろ目視できそう。


「な、なぁぼく~。後で迎えに来るから、ここで待っててくれるかな~?」

「行き成りなに? 気持ち悪いんだけ・・・・あれなに」


 ああ、ガキが見ていないモノを見てしまった。

 知らねばこのまま置いて行けたのに・・。


「あちら魔物Aでございます。後方からB、C、Dと続いていますがお気になさらず」

「お気になさらずじゃない! 早く逃げろよ! 死んじゃうだろ!」

「死なない為に餌を置いていきたい件について」

「お、おれを囮にしたら祟ってやるからな!!」

「おおこわ、って、流石にふざけてもいられねぇか。おいガキ、もう黙っていても意味ねぇから騒いでもいいぞ。ただ・・・・・・手は離すなよ」

「!?・・う、うん」


 行き成り纏う空気が変わり、子供は怖がりながらも生きるために修二の服を握った。


「脅威となる魔物を避けつつ、街までの最短逃走経路を表示」


 そう呟くと視界の端にこの森の全体図が表示され、そして修二の望んだ道を示す。

 それを見て修二は苦い顔になると、続けて言葉を発する。


「続いて俺達を追う魔物の情報及び、半径五キロ圏内に生息するランクD以上の魔物を全て表示」


 映し出された地図に次々と情報が映し出される。


「脅威度によって色別しつつ、魔物の狩場、繁殖地、縄張りを表示」


 肉を食べる魔物のマークや、魔物二匹が寄りそうハートのマークなど独特なマークが地図上に反映され、それを見た修二は苦い顔から一転、なんとも楽しそうな笑みを浮かべだした。


「最初の条件、最短距離での逃走を放棄。相棒、道を示す必要はねぇ。周りの魔物の情報だけ送り続けろ」


 了解と言うように、矢印が何度か青く点滅すると、視界から消えた。

 道案内は不要と言うことでいなくなったのだろう。


「さて、年甲斐もなく電車ごっこと行きますか。しゅっぱつしんこ~ってな。クカカッ!」


 今も数多くの魔物が迫ってきているにもかかわらず、修二は緊張感無く木を降り、地図に表示されたある場所にと駆けて行った。




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