危険度アップ
能力を使って依頼の子猫を探していると、店からばっちゃんが出てきた。
俺が何をしているか明確にはわかっていないが、何かしらの能力持ちであり、力を使ってくることは予想しているだろう
そして、その能力を使っている間は近づいて欲しくないことも理解しており、俺が戻るまで近づいてこない。
そんな気遣いのできるばっちゃんがなぜ邪魔をしに来たのかと思い、視線を向けると、ばっちゃんの表情はいつものような朗らかな感じではなく、少しばかりすまなそうに、そしてどこか悲しそうな顔をしていた。
「どうした? なんかあったのか?」
「・・・のぉ、坊や。今からちと良くない話をするのじゃが、決して子供等を怒らんといてくれるかの? ババの方からよーく言い聞かせるよって」
「・・・・その言葉だけで物凄い面倒ごとの予感がするのだが」
スンゲェ面倒ごとが起こりそうだと、修二は顔を顰める、
そんな修二の表情の変化にお婆さんはなお一層すまなそうに目尻を下げる。
「・・・・・・そんな顔すんなよ。別にばっちゃんが悪いわけじゃねぇんだろ。たく、いいよ。何話すのか知らねぇけど、怒らねぇよ」
飲んだくれでどうしようもない俺をバカにしない数少ない変わり者。
人がいいのか、性格が朗らかすぎるのか、それとも呼び名通り俺をしょうもない子供と思っているかわからないが、それでも邪険にしたくない人だ。
そんな人が頭を下げかねない勢いであるのだから、受け入れないなどと言えるわけもない。
ダメ男でもそれくらいの良心は残っている。
「んで、話ってなに? ガキ共を怒るなってことは、依頼に関係ある話なんだろ。いったいどんな面倒ごとなんだよ」
「それはの、あの子等野良猫を探しておると言っておったよの?」
「あぁ、白黒の虎模様の尻尾の膨らんだ子猫だろ? 目玉青い?」
現に今探している所だ。
まあ、その内容で街中を探しているが未だに見つからない。
だから探索範囲をもう少し広げてみようとしていた。
「それがのぉ。どうやらあの子等と子猫が遊んでいた場所は・・・・外のようじゃ」
「外?・・・まさか街の・・塀の外か?」
空き地で遊んでいたとか言っていただろ。
嘘だったのかよ。
「うむ、その通りじゃ。なんでも外へ出入できる抜け道を見つけたとかで、そこを通って森で遊んでいたそうじゃ」
「おいおい」
街は高い塀に囲まれてんだぞ。
更に言えば新米の兵士やギルドで雇った高齢の元冒険者達が巡回しているはずだ。
他にも定期的に壁の点検もされている。
なのに抜け道があるって、それはそれでかなりマズイぞ。
ここの領主は無駄に高い税金徴収しておいて一番大事な仕事がおろそかになってるってことじゃねぇか。
つか、依頼を受けてる馬鹿共は何してんだ。
テメェが受けた依頼で不備をだすんじゃねぇよ。
と文句が浮かぶが、それはそれとして、今は何よりもガキ共は外が危険だと教わらなかったのかと叱りつけたくなる。
街の外は平原が広がってはいるが、目と鼻の先に森がある。
その森の中は魔物のテリトリー。
幸い森の奥地に行かない限りそこまで危険な魔物の領域に足を踏み入れることは無いが、それでも弱いが群れを成す魔物もおり、危険なのは変わりない。
数匹のゴブリンが普通に徘徊している世界だ。
子供だけで訪れていい場所じゃない。
ゴブリンはガキでも倒せる雑魚。
そう言われているが、それは戦闘の技術を持ち殺す覚悟を持った子供に限っての話だ。
刃物を持ったことも、血を見たこともない子供が対峙した場合、たとえ10人いたとしても一匹のゴブリンに喰い殺される。
生きるか死ぬかの世界で、殺す気もない弱小生物がいくら群れていてもただの餌でしかない。
「そして、いつものように外で遊んでおったのじゃが、子猫が森の奥へと駈け出し、いなくなってしまったとのことじゃ」
「・・・・・・・・」
その言葉だけで、依頼達成に必要な子猫は森の中にいることがわかり、修二は心底面倒そうに顔を顰める。
「そして、その子猫が戻らぬことを心配したあの子達の兄が一人森の奥に入っていったそうじゃ」
「おいおいおいおい」
お婆さんのその言葉を聞いて修二は頭を抱える。
「あまりにアホすぎるんだが。何アイツ等、テメェの兄弟目の前で食い殺されねぇと森の中がどんだけヤベェのか理解できねぇの? 一度死に目に会わねぇとわからねぇ感じなの?」
「子供とは好奇心で動いてしまうものなのじゃよ。仕方のない事なのじゃよ。それよりも、探せそうかい?」
「探せる探せない以前に、いったい森に入ってどれだけ時間がたってると思ってだよ。あのガキ共がギルドに訪れて、ここで茶飲んでいる間に、軽く一時間はたってるぞ。ガキ一人が一時間以上も森の中彷徨っていられるほど甘くねぇ。ばっちゃんもそれがわかってて、辛そうな顔してんだろ」
子供が森の中に入っていったのが、数分前の話であればお婆さんも慌てふためいて救助を依頼しただろう。
それをしないと言うことは、生存はもはや絶望的と考えているのだ。
森の中、それも奥へと駆けて行った。
ベテラン冒険者でも場合によっては帰って来られない。
それだけ強く凶暴な魔物が蔓延っているのだ。
今頃非力な子供など骨も残らず食い尽くされていることだろう。
「・・・どうにか骨の一本でも見つけてやれないかい? 死してなお家族の元へ帰れないのはあまりにも不憫じゃよ」
「いや、骨って・・はぁ~」
あめぇよ。ばっちゃん。流石にあめぇよ。などと思いながらも、決して口にすることなく、修二は深くため息だけを吐き出した。
「・・・・わ~たよ。ダメ元で探してきてやる。ただその前にその行方不明のガキの情報が必要だ。すまねぇがばっちゃん。またガキ共との仲介頼めるか? 俺じゃあ、アイツ等だんまりだろうからな」
「!? ええ、ええ、いくらでもやりますよ。ありがとうねぇ」
「はぁ~、ホントになぁ~。たく、面倒たらありゃしねぇ。言っとくけどこれ依頼にしとくからな。報酬は美味い茶と菓子だ。今度食いにくるから、ちゃんと用意しといてよ」
断られても致し方なく、当初の依頼と違い過ぎるため断っても責められることも無ければ、ギルド側に苦情を申し立ててもいいレベルだ。
子供からの依頼であるという認識で、碌に調べもせずに修二に有無を言わさず受けさせた。
どんな理由があろうとも、依頼の調査を怠り、子供からの言葉だけを信じ不確定なまま依頼書を作成したのだ。
責を追求することは簡単だろう。
やり方によってはピカールを降格処分し、数人のギルド職員の減給を求めることも出来るだろう。
勿論それなりの金も貰えるだろう・・・まぁ、面倒だからやらんけど。
(しかし連続こんなハズレ依頼を受けることになるとは・・・ほんと最近のギルド大丈夫かよ)
まあ、金は貰いに行くけどな。
今度はもうちょっと貰えるといいけど。などと思いながら、お婆さんと修二は店に戻っていった。




