幼い嘘
「・・・・・・・・」
「「「「ひっく、うっく、ひっく」」」」
途中で安酒を買い、飲みながら四人の子供を連れて街を歩く。
子供が全員泣いているので、なんだか俺が虐めているみたいだ。
と言うか、そう見られているのだろう。
街の住民から冷めた目を向けられるし、そこかしこからひそひそと囁かれているし、何度か衛兵に呼び止められるしで、マジで面倒だ。
事情聴取されるたびに、依頼書とギルドカードを見せて追い返しているが、ぶっちゃけこいつ等の依頼などシカトしてバックレたい。
本気でバックレたら後がシエルに何されるかわかったもんじゃないのでしないが。
「くそ、なんで俺がこんな目に・・」
「「「「ビクッ!?」」」」
修二が少し悪態をつくだけで、子供達は肩を跳ねさせながら怯える。
それに気が付いていながら、修二は子供達を慰めるようなことはしない。
そもそもなぜ修二が子供達の依頼を受けているのかと言うと、ほぼ全ての受付嬢と騒ぎを聞きつけたピカールから無理やり押し付けられたからに他ならない。
シエルだけが、今回の依頼を修二に任せるつもりはなく、ギルドが処理するべきだと進言してくれたが、上司であるピカールの意見に覆すことができず渋々ながら修二に今回の依頼を押し付けることを了承した。
面倒だし、報酬はガラクタ(子供達の宝)だし、泣き止まねぇガキ共が依頼の手伝いをするって聞かねぇし、マジで今回のはハズレ依頼だ。
ただの物探しなら面倒はないが、ガキのお守りをしながらの物探し、しかも報酬はガラクタという条件ではやる気など起きようはずもない。
こんなふざけた依頼誰も受けねぇのが当たり前だ。
ギルドはいつから慈善事業するようになったんだよ。
マジでふざけてる。
連続でクソッタレの依頼を押し付けられ、イラつく修二であるが、だからと言って子供にあたる訳にもいかず、酒を煽って無理やり留飲を下げる。
「おい、ガキ共。いつまでもベソかいてんじゃねぇよ。さっさとその“みーま”ってのが何なのか教えろ。いつまでたっても探せねぇだろ」
「ほ、ほんとに、さ、探してくれるの?」
酒を煽り、荒々しい口調であるが、修二の言葉から自分達のお願いを聞いてくれることがわかり、子供達の中でも一番の年長者である男の子が怯えながらも声をかける。
「たりめぇだ。どんなクソッタレな依頼だろうが受けちまったらそりゃあ俺の責任だ。最後までやり切らねぇなんざクソなこと言うかよ。だからさっさと情報よこせ。俺はさっさと酒飲んでグータラしてぇんだよ」
「ぐーたら・・・」
「お酒なら今も飲んでるよね?」
「う、うん」
「あう・・・・ん」
「なんか言ったか?」
「「「「な、なんでもない!!」」」・・・んん!!」
「・・・・・・・・」
「「「「カタカタカタカタッ」」」」
そして、少しばかり不機嫌そうに視線をむけるだけで子供達は怯え押し黙る。
その光景に修二は心底めんどうだと言わんばかりにため息を吐きながら、ある店へと向かった。
「ばっちゃん! 茶くれ!!」
「おんやぁ。いらっしゃい坊や・・・はて? 今日はなんとも可愛いお客さんを連れとるねぇ」
「「「「こ、こんにちは」」」・・・・ん」
毎度拾得物を買い取ってくれる馴染みの道具屋へと訪れた修二は、この店の主であるお婆さんにお茶を要求し、勝手知ったる我が家のようにくつろぎだす。
それをお婆さんは咎めることもせず、言われた通りお茶を差し出した。
「ほれ、坊や達もこちらにきんしゃい。お菓子もだしてあげようねぇ」
可愛らしいお客さんが訪れて嬉しいのか、お婆さんは戸棚から茶菓子を取り出し、子供達の前に置く。
子供達は警戒しながらも、ニコニコと笑うお婆さんに言われるがままに席に座り、差し出されたお菓子に手を伸ばし食べ始めた。
「おいしいかい?」
「う、うん、おいしいよ」
「あまいのすきなの」
「ぼくも、えと、すきだよ」
「ん! うんぅ!!」
「そうかい、そうかい。そりゃあよかったよ」
嬉しそうにもくもくっと食べる子供達の頭を優しく撫で、お婆さんは満足そうに微笑むと、自分も椅子に座り茶を啜る。
「そんで、この子等どうしたんだい? まさか、坊やの子かい?」
「笑えねぇジョークだな。ばっちゃん。俺にガキなんざいねぇよ。そいつらはただの依頼人。モノスゲェ面倒で、面倒くさい依頼人だ」
とんとんとんとん、机を指ではじく。
貧乏ゆすりみたいなもので、流石の修二もも無理や連続でハズレ依頼を押し付けらえたことにイラついてるようだ。
「おやおや、随分とイラついとるねぇ。ババが聞いてあげるから話してごらん」
「・・・おぅ、わりぃ・・ありがとな」
ポワポワとした独特な優しい雰囲気にあてられてか、修二はイラつきながらもことのあらましを話しだした。
ついでに、ここ最近ギルドのイラつく対応の愚痴も聞いてもらう。
お婆さんはそんな修二の言葉を静かに微笑みながらただ話を聞き続けた。
そのおかげで修二のイラつきはだいぶ抑えられることとなった。
まあ、代わりに子供達がビクビクと怖がるようになったが・・。
「なるほどねぇ。坊やも苦労しておるのじゃねぇ」
「苦労と言うより、最近クソ面倒で割の悪い依頼ばっか回されるからな。こちとら身分証代わりに登録しているだけだってのに、人を顎で使いやがる。ギルドの対応には流石の俺も腹を据えかねるぜ」
「ならば、冒険者辞めるかい?」
「この街のギルドが気にいらねぇなら出て行くだけだ。だから冒険者はまだ辞めねぇよ。まぁ、世界中のギルドがこんなクソッタレの生きにくいもんになってるなら、捨てちまうがな。そうならないことを祈りつつ、今まで通りのんべんだらりと生きてくさ」
「そうかい。そうかい。ならば子供達のお願いを聞いておやりなね。現役の冒険者さん」
「言われんでもわ~てるよ。てことでばっちゃん力貸してくれ。このガキ共何を探してほしいのか聞いても怯えて答えやしねぇんだ。流石になんの情報もねぇと探しようがねぇ」
「ほっほっほっ、全く困った坊やじゃよ。どうせ坊やのことじゃから子供達にも、そんな話し方で接しておったのじゃろう? 幼き子にとって見知らぬ大人とはそれだけで怖いものなのじゃ。優しく問いかけてやらんとえかんぞ」
「そんな器用なことができる訳ねぇよ。だからさ。ばっちゃん頼むぜ~。何とかしてくれ~よ~」
「ほっほっほっ、全くしょうがない坊やだねぇ」
手のかかる子だと呆れながら、お婆さんは修二の願い通り子供達に話しかけだした。
その間、修二は何もせずただ、茶と菓子を食べ、時々酒を飲んでまったりとするのだった。
そして、しばらくするとお婆さんは子供達と打ち解け、修二を怖がりながらもお婆さんの背に隠れながら、子供達は修二の質問に答えていく。
「するってぇとなにか? その“みーな”ってのは野良の子猫のことか?」
「う、うん。そうだぞ」
「みーなのしっぽね。とっても膨らんでるの」
「おめめ、きれい・・だよ」
「んん・・ん!」
「・・・そうかよ」
今回の依頼の内容は大体把握できた。
いつもご飯をあげている子猫が姿を現さず、不安になったガキ共が探してほしくて依頼を出した。
(野良猫かよ。飼い猫ならまだしも・・)
「はぁ・・・」
ため息を吐くだけで子供達はビクリと震えお婆さんの後ろに隠れてしまう。
「まさか野良猫の捜索とはねぇ。これは坊やでも手に余るんじゃないかい?」
「面倒なだけで問題ねぇさ。ただ、あまりにくだらない依頼で力が抜けたぞ・・・おいガキ共、そのみーなって野良猫の特徴やらなんやら確認するぞ。子猫の特徴は白黒の虎柄で尻尾が普通の猫より膨らんでいる。性別は雌で瞳は薄い青色。いつも街の空き地で見かけ、お前達はそこで一緒に遊んでいたり、飯食わせていたりした。しかし、今日はその子猫が現れねぇから心配で依頼を出した。あってるか?」
「う、うん」
「そうか・・・ついでにお前達の名前を教えろ」
「ぽ、ポクナ」
「う、ウタナ」
「と、トナト・・こっちは妹のニィナ」
「・・・・ん」
「聞いたことのある名だな・・・もしかしてお前達の父親。この国の兵士だったりしないか?」
コクコクと頷き了承する姿に、マジかよと言いたげに顔を顰める。
修二が想像している男であった場合、少しばかり面倒なことになる。
どう面倒になるのかと言うと・・・まぁ、一言でいうとアイツは親バカだから、そっち方面で面倒になる。
己の子供が大好きで仕方がないバカ父。
酒の席でであったが最後、朝までガキの自慢話に付き合わされる。
好んで関わり合いになりたくない人物の一人である。
「ばっちゃん。少しだけ外で考えてくるから、ガキ共の面倒頼むわ」
まあ、そうはいっても依頼を受けた以上こなさなければならない。
そこら辺は冒険者と名乗っている限り、俺にもプライドというのがある。
クソ報酬のクソ依頼だとしても、手を抜くことはしない。
「あいよ。新しい茶用意しとくからゆっくりしといで」
「おう、ありがとよ」
そう言うと、修二は店の外に出て、店の壁に寄りかかりながら口元を隠し、目を瞑ると、能力を使いだした。
「お、おにいちゃん。だいじょうぶかな」
「わかんないよ。だけど、お願いするしか・・」
「・・・・・・」
「う・・・うぅ」
子供達は修二が出て言った後、不安そうにしながら、互いに手を握る。
「大丈夫じゃよ。あの坊やは探し物を見つけるのがとっても得意なんじゃ。坊やが見つけられると言うとるなら見つけられない物なんてないよ。心配いらないから安心おし」
「えっ・・・・う・・・うん」
「「「・・・・・」」」
不安がる子供達を安心させようとしたお婆さんだが、なぜか子供達は挙動不審である。
行き成り挙動不審になったことに首を傾げるお婆さんだが、話を聞いた限り子供達は意地の悪い冒険者にからかわれたあと。
冒険者である修二を信用しろと言われても難しいだろうと思い、子供達の頭ぞ優しく撫で落ち着かせようとした。
「・・・おや? ウタナちゃんもニィナちゃんも女の子なのに随分とやんちゃさんなんだね。頭に葉っぱがついとるよ」
木の葉が、長い髪のウタナとニィナの髪に絡まっていた。
女の子なのだからもう少しお淑やかにならんといかんよ。などと言いながら微笑み、絡まった葉を取り除いてあげる。
そして
「こりゃあ・・・ミヨウの葉じゃないかい」
お婆さんはその葉を持って唖然とする。
「「「「ッ!?」」」」
そのお婆さんの呟きに子供達は身体を強張らせ、せわしなく視線をあっちこっちに向けた。
「・・・坊や達、何か隠し事しているならババに話してみないかい? ババは怒ったりせんよ」
街に生えているはずの無い植物の葉。
子供達の反応を見て、なんとなく状況を察したお婆さんであるが、努めて冷静に、優しく子供達に問いかけた。
そして、子供達の隠していた話を聞いて、お婆さんの僅かに顔を顰め、すぐに修二を呼びに行くことになった。




