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ロストしたら俺のモノ-酒飲み自由人のダメ男生活-  作者: タヌキ汁
第一章 日常生活と非日常編
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ダメ男の朝


 この世界に住む人々の朝は早い。

 日が登りきらぬ前に畑へと赴く者や、パンを焼く者、竈に火をつけ鍛冶をする者と皆、日が落ちるまで精力的に働く。

 昼間働く理由はありきたりな理由で、真っ暗な夜では仕事がしづらいのは言うまでもなく、暗闇を照らすための明かり代がバカにならないと言う訳だ。

 故に皆金をかけないために日のあるうちに働くのだ・・・普通は。


「ぐごごごごごごっ・・・がががががぁぁぁっ」


 皆が精力的に働き出している中、修二は宿屋の酒場の入り口で酒樽を抱えながら酔いつぶれていた。

 先日財布を拾ってきたから酒を飲んでいる訳ではなく、それ以上に値打ちある落とし物を回収したからに他ならない。

 地図が案内した先には、中古のブロードソード(銀棒1本と大銀貨5枚相当)とネットーネスネークという魔物の抜け殻(大銀貨1枚と小銀貨3枚相当)が手に入ったからだ。


 この二つの物だけでなかなかの稼ぎになったのだが、能力のおかげもあって、修二は更に良い物を手に入れることができた。

 それは澄んだ緑色のエメラルドの宝石。

 そんな宝石がいくつもついた、ネックレスを手に入れたからに他ならない。

 留め金は壊れているが、宝石には傷はついていない。

 そのゆえ価格はなんと金貨1枚に届く程の大金であった。


 言っておくがこの世界での金貨1枚は日本円で100万ほど。

 宿代(飯付き)三カ月ほどの金を得たのだ。

 ただの飲んだくれのダメ男がそれを拾って舞い上がるなと言うのは土台無理な話であり、次の日から酒におぼれ飲み明かすのは至って常識的結果だったのだろう。


「ぐがががががががっ、ごごごごごごっ」

「掃除の邪魔らぁ! ええ加減におきらぁ!」


 まあ、ダメ男の常識など一般人には当てはまらないので、邪魔扱いされるのは致し方ないことである。

 そして、至極もっともな一般的な常識があるこの店の小さな従業員は、飲んだくれを放置する程優しくはなかった。


「うごっ!?」


 顔面を蹴り飛ばされ、蛙のようにひっくり返る修二。


「いっっっってぇぇぇぇ、なんだよくそ~。朝っぱらから誰だ。クソばっかじゃねぇの~」

「だれがクソらぁ! だれがバカらぁ!! いいからさっさと目えさますらぁ!! んでさっさと出ていきらぁ!」


 ひっくり返る修二を見下ろすエプロン姿の赤髪の幼女。

 偉そうに腕を組み仁王立ちしているが、幼女故に迫力が全くない。


「あぁ? うえあぁ~~~~・・・おう? ティティティじゃねぇか。こんな朝っぱらからなんか用かよ。ふわぁぁぁぁぁぁぁぁ、アデッ!? あったまいってぇ~。おいティティティ。水」

「みず。じゃないのらぁ! お前いいかげんに出てけらぁ! そろそろお客さんがご飯食いに来るのらぁ! お前じゃまなのらぁよ!!」

「あぁもう、大声出すなよ。バカじゃねぇの、頭に響くだろ。まじで~ホントお前バカ~。バカのバカノ馬鹿だぁ~。あぁ~、あったまいてぇよぉ~」

「こんのヤロウッ! いつもいつも人の話聞かねぇのらぁ! こえだめに落とすぞ! こんのやろうっなのらっ!!」

「あぁぁぁ~~~~うぅ~~るぅ~~せぇ~~えぇぇ~~」


 ギャーギャーと騒ぐティティティをよそに、ダメ男である修二は耳を塞ぎながら床に寝転ぶ。

 その姿にティティティの怒りのボルテージが上がっていくが、酔っ払いというか、二日酔いのダメ男がそれに気付くことはない。

 それ故ティティティは修二の顔面をもう一度蹴飛ばそうとした。

 したのだが


「ぐえっ!?」

「あら? こんなところに汚い敷きものがあるわ。オヤジさんの趣味も悪くなったわね」


 ティティティの蹴りが炸裂する前に修二の腹を踏む銀髪のダークエルフの美少女が現れた。

 少女であるためスタイルは残念であるが、彼女の容姿は誰もが惚けてしまうほど愛らしく、成長すれば誰もが手に入れたいと願うほどの女性となることだろう。

 まあ、エルフの成長は遅いので数十年後の話になるが。


「あっ! おはようございますらぁ! えるふぃな! 今日はいつもより早いらぁね!」

「えぇ、今日はいつもより森の奥に行ってくるわ。何か欲しいものがあったら取ってきてあげるわよ」

「本当らぁ!? ら、らぁな! スッピプリアの実がほしいのらぁ!」

「あら、そんなのでいいの? あれとっても酸っぱいわよ。貴方食べられないじゃない」

「いいのらぁ! ママが食べたがっているからあげるのらぁ! さいきんすっぱいのがおいしいっていってるらぁ!」

「最近?・・なるほどそう言うこと。ふふっ、それはおめでとう」

「らぁ? よくわからないけど、ありがとうらぁ!」

「・・・人様の上でなにくっちゃべてんだ。さっさとどけよクソチビ! あぁ、叫んだから頭が・・・」


 修二は趣味の悪い敷物と認識されていた為、エルフィナに踏まれ続けていた。

 いや、踏まれていたというよりグリグリと腹を抉るように踏まれている。

 ある業界ではご褒美だと叫ばれそうだが、生憎ガキに踏まれて歓喜するほど修二は変態では無かった。


「いまチビって聞こえたけど私の事かしら? ねぇ、私の事チビって言った?」

「人族であれば成人する年齢、なれど10歳未満児とさほど変わらねぇクソ背丈じゃねぇか。それをクソチビと言って何がわるいってんだ。つか騒ぐなマジで、頭にクソ響くだろクソチビ・・・ひぃ!? お、おまえ刃物抜くなや! クソあぶねぇだろ! おまえクソの詰まったバカ野郎か、クソチビギィッ!?」

「クソクソと五月蠅い口ね。舌でも切り落とせば少しは静かになるのかしら」


 それは遠回しに殺すつもりだろと文句を言いたかったが、口の中に鋭いレイピアを突っ込まれた修二は言い返せずモゴモゴと口を動かす。

 というか、瞬きする間に修二の周りには数十本の多種多様の武器が浮かび取り囲んでいた。


「おぉ! 流石えるふぃなの能力は凄いのらぁ! 何もない所から武器がでてきたのらぁ! すごいのらぁ!」


 すごいのらぁ! じゃねぇ! 躊躇なく人様に刃物向けてくる異常者を止めろ!

 そんなんだからおめぇもクソチビなんだよ!


「あら、今度はティティティをバカにするの? もう鼠の脳と取り替えた方がいいかしら。そっちの方がまともに会話できそうね」


 おい! 一体全体だれの脳みそが齧歯類並みだ! つか勝手に人の考えを読むなぺちゃぱい! あっ、嘘! いまの冗談っ! だからマジで串刺ししようとするなっ!


「っ! っ!!」

「あらあら、先程までの汚らしい声はどこに行ったのかしら? ねぇ、何か言ってみなさいよ。誰の胸が紙のように薄いですって? ねぇ何か言ってみなさいよ。ねぇねぇねぇねぇ」

「っ!! っっ!?」


 ただ思っただけで、何も言っていないのに、なぜ俺が責められるのか。

 理不尽この上ないと心の中で抗議を口にするもエルフィナに届くことはなく、ましてや届いたとしても受け入れる訳もなかった。

 それとお前の胸は紙以下だ、見栄を張ってんじゃねぇよ! あっ、お前マジで止めろや!? 押し込んでくるな! 剣は食い物じゃねぇぞ!


「エルフィナそいつに構っていては早起きしたい意味がないぞ。さっさと飯食って仕事行け」

「あら、オヤジさんおはよう。今日も美味しそうね。なら暖かいうちに頂かないと損だわ」

「グブフッ!?」


 厨房からエルフィナの朝食を持って現れたのは、この宿の店主。

 店主が用意した朝食を見て、エルフィナは嬉しそうに頬を緩ませると、修二に向けられていた武器は霞のように消し去り、最後は腹を思い切り踏み抜いてから席へと向かった。

 腹を踏まれた修二は腹を抑えながらぴくぴくと死にかけの虫のように寝転がっている。


「早くどくのらぁ! お前とってもじゃまなのらぁ!!」


 確かに酔いつぶれ、食堂の入り口を占拠するように陣取っていたのは修二が悪いのだが、流石にこの対応は金を払っている客にする対する扱いではない。


「シュウジ水だ。それ飲んだら部屋で寝ろ」

「へぇ~~い」


 ただまあ、半年近くお世話になり、それなりに長い付き合いであるため、酷い対応をされても素直に受け入れる修二である。








「・・・・・ぺちゃぱい」

「ア゛ッ?」


 ただまぁ、顔見知りとはいえ、行き成り暴力を振るってきた銀髪のエルフには一言文句を言いたかったようで、最後にぼそりと悪口を言うと修二は部屋へと逃げるのだった

 その後、部屋に立てこもる修二であるが、時を待たずして扉が破壊される音と男の悲鳴が聞こえてきたのは語るまでもないだろう。


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