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ロストしたら俺のモノ-酒飲み自由人のダメ男生活-  作者: タヌキ汁
第一章 日常生活と非日常編
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イライラエルフィナ


 冒険者エルフィナは最低5つの依頼を一日で完遂する。

 常時討伐依頼は勿論、森の奥でしか取れない希少な薬草などを取ってくる。

 それ故に彼女はギルドにとってなくてはならない存在であり、よく働く冒険者であるためギルドも優遇していた。

 多くの依頼を完遂し市民からの信頼をギルドに集め、多くの素材をギルドに降ろすことで利益をもたらし、見目美しく広告宣伝にもなる便利なエルフィナ。

 そんな彼女をギルドが優遇しないわけもなかった。


「本日もお疲れ様でした。エルフィナ様。どうぞ無理のない冒険を」

「えぇ、ありがとう」


 今日も多くの依頼を完遂し、報酬を貰いギルドを出ようとする。


「おうエルフィナ待ちな」

「・・・・なによ」


 だが、ギルドを出る途中で呼び止められた。

 美少女であるエルフィナがギルドに訪れれば誰かに声を掛けられ、パーティーに誘われたり、少女趣味の変態野郎にナンパされることは日常であった。

 ただ今回はそういう類ではないことを知っているのか、不機嫌そうにしているが、警戒はしていなかった。


「稼いだんなら一杯奢れ」


 ガラガラ声でエルフィナを呼び止めたのは、首に傷を負った男。

 そんな男にエルフィナはメンドウそうな視線を向ける。


「毎度のことながらしつこいわね。ドット。いい加減諦めたら?」


 命令口調で呼び止められたにも関わらず、エルフィナは怒るでもなく、ただ呆れた口調で返す。


「それはこっちのセリフだ。少しは周りの馬鹿共見習って同業者と関わろうとしろよ。いつまでたっても仲間が作れねぇぞ」

「足手纏いにしかならない仲間なんてこっちから願い下げよ。それに、私は貴方達と違ってダンジョンには興味ないの」


 冒険者の稼ぎ方は様々。

 ダンジョンでお宝を探す者、安全な街の依頼を優先する者、そして、エルフィナのように森の奥深くに生息する薬草や魔物を狩る危険な依頼を優先する者とわかれている。

 どの仕事もやらなければならないものではあるが、ギルドとして優先度が高いのは森の奥に住む魔物を狩り、希少な薬草採取してくる仕事だ。

 ダンジョンで金銀財宝得られても、買い取りなどされずにそのまま商業ギルドを通してオークションに降ろされれば冒険者ギルドとしての利益がほとんどでないのだから。


「金ならアンタ等ダンジョン組の方が稼いでいるでしょ。ここは宝石の取れるお宝ダンジョンなんだから」

「そりゃあ偏見だな。確かに宝石は取れるが、それも運がいいごく一部の冒険者だけだ。浅い階層はほとんど取り尽くされて碌に稼げねぇ。下層に降りるにしても魔物が手ごわくなっちまって、採取する時間がとれねぇ。ここは宝石が取れる代わりに魔物殺しても落とす魔石もアイテムもしょぼいしよ」

「なら、鉱夫でもポーターでも何でもいいから人を雇えば? もしくは腕上げなさいよ」

「人一人雇うだけで稼ぎがトントンになっちまう。下手したら赤字だ。腕を上げろと言われても、そう簡単に強くなれねぇよ」


 だから私のような凄腕冒険者を仲間に引き入れたい奴等が多いんでしょ? とエルフィナは視線で訴えかけると、ドットは誤魔化すように頭を掻く。


「何度言われても、ここで仲間を作るのはごめんだわ。女だからと見くびるバカに、下層に降りる実力の無い雑魚ばかり。組んでも意味ないわ」

「またそんな生意気言って。一人じゃできない事もあるんだぜ?」

「だったら一人でもこなせる依頼だけを受けるわ。私は貴方のように仲間が必要と思ったことは一度もないもの」


 話はこれで終わりだと言わんばかりに冷たくあしらうと、エルフィナはギルドを出る。

 エルフィナにとってここの冒険者は信用ならない。

 ドットのような世話焼きの冒険者もいるが、あんなのは一握りだ。

 冒険者に成り立ての頃は、森に住む田舎者のダークエルフ族とバカにされ、肌の黒さや見慣れない銀髪をバカにされ、幼さを侮られ、依頼で困ったときも誰も助けてはくれなかった。

 手を差し伸べてくれた冒険者もいたが、その多くは変態ばかりで、子供でもタダで遊ばせてもらえればいいと思っているのか、何度も襲われた。

 能力を駆使して襲われる未来を回避し、襲われる未来を回避できなければ、返り討ちにできるように罠を仕掛けて頭を使い、金で護衛を雇い、なんとか乗り越えてきた。

 この街に訪れてもそれは変わらず、同じような風貌の冒険者達に何度か襲われる未来を見た結果、エルフィナにとってこの街の男性冒険者の多くは危険人種であると認識していた。


(アイツが別なのがムカつくけど)


 そして、そんな未来を見続けていた頃にあの飲んだくれと出会った。

 いつも酒を飲んでいるダメ男。

 仕事をしないダメ男。

 寝て飲んで遊び歩くだけの社会のゴミ男。

 そんな男なのに、彼の未来を見ても一度たりとも私を襲うなどという未来は見ることがなかった。

 いつも私をからかい、私にぶん殴られるだけのウザイ未来。

 子供じみた仕返ししかせず、もはや無害と言った感じの男。

 もはや男して枯れているのではと思うような男が、そんな男が、いつも私を助けに現れる。

 彼に出会ってから、私が誰かに襲われる未来を見るたびに、どこからともなく現れる。

 襲い掛かる男の顔面にゲロを吐いたり、口にウンコを突っ込んだり、ケツに酒瓶を突っ込んだり、腹ペコの野良犬に男の大事な所を噛み付かせたりと、碌な助け方はしないが、それでも襲われる未来を見るたびに必ず助けに現れる。


(ホント・・なんなのよアイツ)


 初めは能力が誤作動したのかと考えた。

 けれど何度能力を使っても、私が見た未来に間違いはなく、ダメ男に助けられる未来に誤りは無かった。

 それが凄く腹立たしい。

 あんな男に助けられる未来など受け入れられず、違う未来を歩み、襲い掛かる不幸を自力で払いのけた。

 そして、そんな不愉快な未来を、助けられるなんて弱い自分の未来を見たくなくて、私は強くなった。

 強くなる目標は元々持っていたが、あのダメ男のせいでもっと求めるようになった。

 私は一人で生きられるんだ。

 何度も助けられていた未来があったとしても、その未来を歩んでいないのだから無効だ。

 私は一人で大丈夫なんだ。


「・・・・・・もっと強くならなきゃ」


 そう呟きながら薄暗い夜道を歩みながら、エルフィナは己の未来を見る。

 そしてまた垣間見ることになった、嫌な未来。

 また男に襲われる。

 今回の未来は今まで見たような未来よりも過激だ。

 冒険者のような男が数十人宿に押し寄せる。

 このまま宿に帰れば、夜中に忍び込む男達の手によって、オヤジさん達も客も全て皆殺しにされ、私だけが攫われる。

 そして、私だけがどこか暗い牢獄のような場所に連れていかれ、そこで何人もの男達に犯され、意識を朦朧とさせながら何かを囁かれ死んでいく。

 特殊な力を持つ私は村で籠の鳥状態の生活を送っていた。

 そんな生活が嫌で村から出てきてのに、こんな未来ばかり見せられてホント嫌になる。


「はぁ・・・」


 ため息を吐きながら、手持ちの道具を確認し剣に手を添えながら心を氷のように冷たく落とす。

 来るならかかってこい。

 その未来は私がなんの準備も出来ていなかった時の未来だ。

 覆してやる。

 そうエルフィナは覚悟を胸に、力強く踏み出した。


「え?・・・・変わっ・・・た?」


 だが、不意にその足は止まる。

 今見ていた未来にノイズが走り、視界が一瞬ブラックアウトした。

 そして、ゆっくりと真っ暗な世界からいつもの変わらない街並みが映し出され、次に私が見た未来は、最悪の未来ではなく、誰も死なない平凡な日常が映っていた。

 行き成り変わった未来に、困惑しながらも宿屋でその日の夜はなかなか寝付けず、外の騒がしさに苛立ちながら夜がふけっていく光景。

 いらいらしながらも、何事もなく朝日を迎えるまでベッドに横たわりながら寝返りする己の姿がそこにあった。

 全く違う未来に変わった。

 こんなことは生まれて初めての事。

 己の能力に今度こそ不具合が生じたのかと本気で考えたが、今まで頼って来た能力を疑うことはできず、困惑し警戒しつつも、その変わった未来を歩むために、エルフィナは慎重に宿へと向かった。






「・・・・・・」


 宿へとたどり着くと、オヤジさんが疲れたようにため息を吐きながら、入り口に立っていた。

 その隣には修二がバカ笑いしながら酒を煽り、苦々しい顔で宿屋に戻っていく冒険者達を見送っていた。

 冒険者達がどこか悔し気な顔で何も言わずに宿屋に入っていく光景はとても珍しく、可笑しな光景であったのだが、それよりももっと可笑しな光景がエルフィナの目に映っていた。


(あれは・・私が見た・・)


 エルフィナが見つけたのは修二の傍でぐるぐる巻きに拘束された数十人の男達。

 その男達は先ほどの未来視でみた宿を襲う男達だった。

 何故その男達が捕らえられているのか意味がわからず、エルフィナは困惑する。


「おう、帰ったかエルフィナ。今日も遅くまでご苦労だったな」

「ただいまオヤジさん・・ねぇ、その人達は・・なに?」


 困惑する心を押し殺しながら、普段通りを意識しながら問いかける。

 うまく隠せているか自信はない。


「ああ、コイツ等は・・まぁ、なんだ」

「俺の戦利品だぜ! クカカカカカッ!! いやぁ~、儲かった! 儲かった! これだからバカ野郎冒険者をカモにするのはやめられねぇ! 座っているだけで金が舞い込んできやがるっ!!」


 修二の笑い声とその言葉に宿からいくつもの殺気が放たれるが、そんな殺気などどこ吹く風で修二は酒を煽る。

 更に修二はその殺気を向けているであろう相手に「悔しかったら言い返してみろぉ~。お尻ペンペン」となんともガキっぽい挑発をするしまつ。

 殺気が濃密なモノへと変わるが、冒険者達は何も言わず、ただただ面白くなさそうに黙っていた。


「・・・いったい何があったのよ」


 ここまで挑発されれば、沸点の低い冒険者はぶん殴りにくる。

 だが、そんな予兆は全く見られない。

 そのことに疑問を覚え質問すると、オヤジさんは苦笑いを浮かべながら答えてくれた。




 どうやら先日、ギルドの依頼で低ランク冒険者に情報の大切さを教えるため、嫌われ者になる割の合わない依頼を受けたそうだ。

 その依頼で発した言動に腹を据えかねた低ランク冒険者がおり、絡んできたらしい。

 そんな風に絡まれないようにするのがギルドの仕事であり、下手な衝突が生まれないように間に入らなければいけないのだが、ギルドはそれを怠った。

 依頼書に自分達が間に入ることを明言しているにもかかわらず、反故にしたのだ。

 話を聞いて、そんなギルドの怠慢に不満を覚えつつも、修二はその低ランク冒険者に対してへらへらと笑みを浮かべ、金貨1枚と言う大金を見せつける。

 金で許してもらおうとしたのかと、オヤジさんも初めは思ったそうだが、そうではなく、修二は賭けをしないかと提案してきたのだ。


 いかに冒険者同士のいざこざとはいえ、街中で喧嘩をすれば小うるさい衛兵共に捕まり独房行きだ。

 金を払えばすぐに出してもらえるだろうが、そんなのどちらにとっても得にもならない。

 ならばこの金を無理やり奪ってしまえばいいと結論に至るのであれば、俺は更に衛兵に金を積んで俺から金を奪ったお前達を牢獄にぶち込む。

 金の力でお前等全員の人生をぶち壊す。

 そう脅され、低ランク冒険者達は一瞬怯んだが、すぐに怒り狂い出す。

 だが、怒りに任せて暴れる前に修二がまたのらりくらりを話し出した。


 だから賭けをしようと。

 俺に不利である賭けをしよう。

 賭けであるならこの金を奪われても文句は言えない。

 ただの賭け事、遊びなのだからと。


 そして始まったのが、この周辺にいるかもわからない犯罪ギルドの構成員の捕獲。

 修二が構成員たちの居場所を当て、名前を当て、容姿を当て、所持している武器を当てる。

 冒険者達は修二が予想した場所に行き、本当にそこに犯罪者ギルド共がいるのか確かめ、捕らえて修二の話した内容が間違いではないか尋問する。

 もしも、一つでも誤りがあった場合この金を差し出そう。

 更にボーナスとして、俺が予想した場所に犯罪者ギルドの者がいなければ更に金貨を一枚渡そう。

 と条件を追加していった。


 勿論、約束を保護しないように、そして嘘を吐かないように契約の魔法でもって互いを縛った。

 どう考えても修二に不利な内容。

 更に言えば、修二が伝えた場所に行くだけで、金貨が貰えるかもしれない内容。

 その話を聞いていた無関係の冒険者達も参加しようと手を上げるのは至極当然であり、修二も参加者が多い方が面白いと許可することで、宿屋にいる全ての冒険者が参加することとなった。

 そして、結果はご覧の有様で、修二が予想した場所には犯罪者ギルド構成員がおり、伝えた内容には全く誤りがなかった。

 そして条件として口頭では伝えていなかったが、捕まえた犯罪者ギルドの構成員は勝者の者であると契約書に書かれていた為、捕まえて得られる報酬は全て修二のものとなった。

 詐欺だと言われようとも、契約書をちゃんと読まない奴が悪いのだ。


「それで、今はここで衛兵が来るのを待ってる訳だ」

「ふ~ん。それはご苦労様」


 そう素っ気なく答えてみるも、エルフィナの頭の中は混乱しっぱなしだ。

 ギルドでさえ入出困難な犯罪ギルドの個人情報をどうやって得たのか、潜伏場所が何故割りだせたのか、今現在所持している武器さえも把握できたのかわからず困惑する。

 そして、またこいつに、こんな男に助けられた事実が、その未来を無理やり歩まされたことが無性にエルフィナをイラつかせた。


「クカカカッ! ご苦労様だってよ! 別に! 何も! してねぇぇぇぇ~~てのに!! ご苦労様だってよ! 中にいる奴らがタダ働きしただけだってのに俺にご苦労様だってよっ! クハハハハハハッ!!」


 そんなエルフィナの心情など知らぬ修二はただ楽し気に酒を煽る。


「その下品な笑いをやめなさい。耳が腐りそうだわ」

「下品だってよ! どうするよオヤジ! 俺下品だってよ! 今更かよってな!」

「下品とかどうでもいい。それよりマジでお前少し黙れ。流石にうるせぇわ。近所からクレーム来たらどうしてくれる」

「近所からクレープ来るのかよ! いいなそれ! たまには甘いもん食いながら酒も飲みてぇなっ!! オヤジ! 果実水だ! 果実水をもていっ!!」

「話が通じねぇ・・・・・・・・はぁ、コイツ等を引き渡してからな」

「お~~~~うケィッ!」


 全く人の話を聞かず、心底楽し気に空になった杯を振り回し、最後に敬礼のポーズをとる。

 その陽気な姿にやはりエルフィナは面白くなさそうに口を尖らせた。


「どうしたエルフィナ? なんか不機嫌そうだが」

「・・・別に、なんでもないわよ。疲れたからもう寝る、夕食はいらないから」

「?? そうか? ならゆっくり休めよ」

「お子様はおねむのお時間でぇすぅかぁ~?」

「うっさいバカッ!」


 いつものようにおちょくってくる修二に一言文句を言ってからエルフィナは部屋へと戻る。

 そんなエルフィナの言動に、いつものようなキレがないことを感じ取り、マジで何があったのかと心配にするオヤジとは裏腹に、修二は興味なさげに樽の中にある酒に杯をつっこみ酒を掬うと、浴びるように飲み始めた。







「素直じゃねぇガキ」

「なんかいったか?」

「クカカッ! いんや~。さっさと果実酒が飲みてぇな~って言っただけさ~」

「あん? 飲みたかったのは果実水じゃなかったか?」

「さてさて~、どうだったかな~。忘れちったから両方準備してくらはいっ!」

「呂律が回らなくなってきているからな。果実水だけ用意してやる」

「うえぇぇぇぇ~~~・・・・まぁ~すかたねぇか!!」






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