酔っ払いは看病する
「おら、飲んだらさっさと寝ろ」
「やーー! つまんらぁぁぁぁいっ!!」
「知るかハナタレ、いいから寝ろ」
「やーーーーー!! へっくしゅん! ズズズズズッ!!」
いつものように遅めの朝食を取っていると、行き成りオヤジから今夜美味いツマミを用意する代わりにティティティの面倒を見て欲しいと言われた。
どうやら、風邪でダウンしたらしい。
元気だけが取り柄の奴が寝込むとはなんとも珍しい事だと思いつつ、ガキの面倒など御免被ると言って断った。
断ったのだが、風邪を引いた原因が先日買い占めた乳酒が原因だと言われる。
なんでも、飲み終えた樽をティティティが汗だくになりながら片付けていたらしく、片付けが終わっても他の仕事を手伝い続け、次の日には風邪を引いていたらしい。
うん、だから何だと言う話だな。
結局テメェが汗を拭かなかったのが悪いだけだろと、それしか言えんわ。
まあ、俺も無駄に酒を大量購入してきたことは悪いと思うが、だからと言ってティティティが風邪を引いた原因を俺に擦り付けるのはどうかと思うぞ。
うん、俺悪くねぇ。全く悪くねぇ・・・悪くねぇけどオヤジが怖いから依頼を受けたよ。
オヤジは基本いいオヤジだが、家族が関わると怖いオヤジになるからな。
家族愛が強いのか知らぬが、こちらとしてはいい迷惑だ。
「汚ねぇな。たく、動くなよ」
「ん~~~~~」
修二は古い布の切れ端で盛大に鼻から噴き出た鼻水を拭い、ごみ箱に捨てる。
「ん~~~・・・シュウジ! つまんらぁい!」
「お前はそれ以外の言語を忘れたのか? 語学力落ちてんぞ」
「つまんらぁい! つまんらぁい! つまんらぁぁぁぁぁぁい!」
「ああ、もうウルセェぞバカガキ! 静かに寝てろっての!」
「やーーーらぁぁぁぁぁっ!!」
子供特有の甲高い声を発するティティティに、修二はこんな依頼やっぱり受けるんじゃなかったとため息を吐く。
風邪のせいなのか知らないが、どうにも我儘過ぎないか?
「そんで、勇者はムカつく不良共を全員ぶっ飛ばし、気に入った仲間を呼び出して宴会を開きましたとさ。めでたしめでたし」
「・・・シュウジのお話ヘンらぁ! 勇者様大悪党倒してないらぁ! お姫様助けてないらぁ!」
「勇者は書いて字の如く勇気ある者って意味だ。一人でムカつく不良共に喧嘩吹っかけてんだぞ。そりゃあかなり勇気ある行動だろうがよ」
まあ、無謀でバカともいうし、俺だったら確実に逃走を選ぶがな。
一対多数の状況など逃げる以外の選択はねぇ。
逃げて逃げて、罠にかけて中指立てながら逃げ切って、相手が忘れた頃に、しかも幸せ絶頂時に嫌がらせをする。
性癖暴露して家庭環境ぶっ壊して、法的にヤベー内容晒して、社会的地位をひっかきまわしてやるね。
「なんか違うと思うらぁ。なんかその勇者様カッコよくないのらぁ!」
「勇者にカッコよさを求めてんじゃねぇよ。勇者は所詮戦争の道具だ。道具。つか、普通の女は物騒な勇者より無駄に美化された王子に憧れるもんじゃねぇの?」
「お話しの王子様はカッコいいけど、現実の王子様は豚みたいな人ばかりらぁ。現実を知っているが故にせちがらくなるのらぁ」
「・・・お前、時々達観したこと言うよな」
ティティティの言う通り、贅沢な暮らしをしている上流階級の奴等が肥えない訳もない。
流石に豚のように肥えた奴はそうそういないだろうが、それでも基本食って動かない奴が大半を占めているので、平均体重は高く、皆恰幅がよい。
中には兵士に交じって戦闘訓練をこなし、豪遊せずに身体を気遣った食事をとっている貴族もいるだろうが、そんなのはほんの一握りだ。
というか、貴族の世界では痩せすぎていると己の財力が乏しいと思われる傾向にあるので、ふくよかであろうとする。
女性貴族の場合はその価値観にあてはまらないが、男性貴族の場合は丸くなければ侮られかねない。
全く持って貴族の価値観ってのはよくわからんな。
「う~~~、シュウジ~、リンゴ食べたいらぁ~」
「そこにあるだろ。勝手に食えよ」
机の上にリンゴが置かれているのを指差す修二。
丸ごと齧り付けと遠回しに言っているのだが、風邪で弱っている子供に言うことじゃない。
「やーー! うさちゃんがいいらぁー!」
「なにが兎だ。腹に入っちまえば一緒じゃねぇか」
「やぁぁぁらぁぁぁーー。うさちゃん、うさちゃん、うさちゃーーーーん!」
「ああ、うるせぇうるせぇ! いちいち騒ぐなバカタレ! たく、メンドクセェな」
またギャンギャン騒ぎ出したティティティに修二は不機嫌そうにしながらも、リンゴを兎型にカットしていく。
なんだかんだ言って面倒見はいいようだ。
そして、
「おら、できたぞ」
「・・・思ってたのと違うのらぁ」
出来上がったのはリアルな兎。
手も足も尻尾もリアルに再現され、まるで置物のようにカットされたリアル兎がそこにいた。
目もリンゴの種を器用に使い、無駄に完成度が高い。
「何が違うってんだ。どっからどう見ても兎だろうが」
「違うのらぁ! リンゴのうさちゃんはもっとこう・・・あれなのらぁっ!」
ティティティが求めているのは誰でも簡単に作れるもの。
こんな職人芸並みの腕が必要なリアルカットされたウサギなど望んではいなかった。
「何が言いてぇのかわかんねぇな・・・・あぁ、あっちの兎の方か」
「そう! それらぁ!」
あっちが何なのかわかっていないティティティであるが、多分自分が思い描いたものだと思い、頷いた。
その結果
「これ・・なんなのらぁ?」
「何ってどっからどう見てもバライラビットだろ」
熊と鼠と蛇が合体したかのような変な置物が作られた。
ぶっちゃけ兎の要素など、申し訳程度に頭の上に生えているウサ耳だけだ。
なぜかこの魔物を冒険者達の間では兎と呼ぶ。
何故兎と呼ばれているのかは知らし、興味もない。
「ぜぇぇぇったい! これはうさちゃんじゃないらぁ! お前頭沸いているらぁ!!」
「はぁ? ざけんなクソガキ。なかなかのできだろうが」
「なかなかじゃないらぁ! とってもへたくそらぁ!」
下手くそと言う言葉が頭に来たのか、修二の額に怒りマークが浮かぶ。
「ああん? テメェ。誰の作品が下手くそだって? 随分と舐めた口きいてくれるじゃねぇか」
「へたくそはへたくそらぁ!」
「んだとこらっ! 感性の乏しいアホガキが言うじゃねぇか!」
「いくらでも言ってやるらぁ! こんなのうさちゃんじゃないらぁ! シュウジはとっても下手くそらぁ!」
「カッチーン。はぁ~ん、そうかよ。そこまで言うかこの野郎」
職人と言う訳でもなく、職人のプライドを持ち合わせている訳でもないが、手先の器用さにはこれでも自信があった。
それをバカにされ、流石の修二もキレた。
「いいだろう! そこまで言うなら見せてやろうじゃねぇか! 俺様の卓越した技術ってやつをよぉ! 少し待ってろやぁ!!」
「らぁーー! 受けて立つのらぁ!」
そういうと修二は部屋を出て、大量のリンゴを食糧庫から持ってくると次々と兎型に剥いていった。
と言うか、ただの認識の違いであり、ちゃんと話し合えばすむ話なのだが、ヒートアップしている二人は止まることは無く、無駄に完成度の高いリアル兎や魔物の兎ができあがっていった。
「おいオヤジ、なんで俺の飯がリンゴ尽くしなんだよ。スープにまでリンゴ入ってるぞ。リンゴスープじゃねぇか。んでもって何で飲み物が酒じゃなくリンゴジュースなんだ? 流石にこの献立はねぇだろ」
「なんでもなにもお前が勝手に大量のリンゴを剥いたのが原因だろうが。責任取って全部食え」
「・・・確か報酬に美味いツマミをだすとか言ってたよな。ツマミまでリンゴとかだったら承知しねぇぞ」
「ツマミは別で作ってやる。だが、勝手に人の食糧庫に忍び込んで食材を無駄にすんのはダメだ。責任もって食え」
「・・勝手に持ってたのはわりぃとは思ってるが、ちゃんと金払っただろ。しかも倍以上の金をよ。だからあれは俺のリンゴだろ。購入者が捨てていいって言ってんだ。別にいいじゃねぇか」
「シュウジよ。俺は言ったな。食材を無駄にすんのはダメだってよ。いいから食え。じゃねぇと今後一切ツマミは作らねぇぞ」
「・・・・わ~たよ。わ~たから、コエェ顔すんなよ」
「シュウジはバカらぁ」
「おめぇはいいからさっさと飯食って寝ろ! いつまでたっても治んねぇだろうが!」
「ベ~なのらぁ」
「ティティティ。食ったら暖かくして寝ろよ。あんま心配させないでくれ」
「あい。わかった。パパ大好き」
「ああ、パパも大好きだぞ」
「ヤダコイツ等気持ち悪い・・・・・・・・つかぶん殴りてぇ」




