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ロストしたら俺のモノ-酒飲み自由人のダメ男生活-  作者: タヌキ汁
第一章 日常生活と非日常編
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料理


 ある昼、修二はルンルン気分でヤギのマークの付いた小樽と、大量の食材を抱えながら歩いていた。

 小樽の中身はある山岳地帯でしか飲めない、メイギーという魔物の乳から作られた乳酒である。

 一般に出回る馬乳酒と比べて、苦みやコクが強すぎて飲み手を選ぶ酒だ。

 酒飲みの間でも好き嫌いが別れる酒で、地域によっては全く人気がなかったりする。

 故に値段の変動が激しい酒であった。

 そして、今回購入したメイギーの乳酒はほとんど叩き売りされていたため、それを見つけた修二が即座に買い占めたのは言うまでもない。

 買い占めたので今抱えている小樽など一部であり、後程宿屋に結構な乳酒が送られてくるようになり、恐らくオヤジからクレームが来るだろうが、本人は全く気にしていない。

 酒性の弱い酒なので、今日中に飲み干すのだから。


「おぉぉい! オヤジーー! 余ってる鍋貸してくれーー!! それと庭の一角貸してくれー!」


 宿に帰ると、厨房にいるオヤジに向かって己の要件を伝える。

 行き成り大声で話しかけられ、下ごしらえに集中していたオヤジの肩が跳ねる。


「刃物扱ってるときにデケェ声出すな! あぶねぇだろが!」

「おおう! わりぃわりぃ! それより、鍋も貸してくれ! できれば二つ貸してくれ! それと庭に釜戸作るぞ! 終わったらちゃんとぶっ壊すから作っていいよな!」


 ウキウキしながら両手いっぱいに食材を抱えている姿を見てオヤジはため息を吐く。


「そりゃあ構わねぇが飯代込みの宿代だぞ? 食わねぇのか?」

「おう! 今日はいいもん手に入ったから飯はいらねっ! 自炊するぜ!」

「はぁ~ん? お前が自炊ねぇ~? 食えるもん作れんのかよ」

「作れるに決まってんだろ。こちとら独り身の一人旅が基本の冒険者様だぜ? そんじょそこらの小料理屋にも引けを取らねぇよ。なんだ? 疑うなら食ってみるか? 俺の野営男料理をよ」

「う~む・・・・・まあご相伴にあずかるか」


 酒好きダメ人間に料理ができるとは思えないが、抱えている食材が何か気になりオヤジは静かに頷いた。

 基本酒しか口にしない修二が自炊すると言うのも見てみたいしな。


「なら庭使わせてもらうぞ!」

「別に厨房使ってもいいんだぞ? 外だと釜戸作るのメンドウだろ」

「チッチッチッ、わかってねぇなぁ~。野営男料理って言ったろ? 家で作っちゃあ楽しみも味も半減しちまうっての。不便を楽しむのも野営男料理の醍醐味だぜ?」


 普段面倒くさがりのダメ男の癖して何言ってんだと思いつつ、反論しても時間の無駄であるので使っていない鍋を修二に渡し、それ以上ツッコムことはしなかった。






 庭の一角に二つの釜戸ができあがる。

 飲んだくれのダメ男であるが、腐ってもベテラン冒険者。

 土魔法で釜戸を作るだけの技能は持ち合わせていた。


「お前って何気に器用だよな。普通土魔法で釜戸なんぞ作れんぞ」

「そう褒めるなよ。照れるじゃねぇか」


 鍋を持ってきたオヤジの誉め言葉に、修二は照れくさそうに鼻を掻く。


「つっても俺が使いこなせるのはせいぜい中級魔法程度だ。まっ、土魔法の適性は高かったらしくて、なんの努力せずにこの程度の魔法は普通に使えたぜ」


 一応、一般的に知られている攻撃魔法とか補助魔法とかも使えるが、使えるだけで戦闘にはあまり役立っていない。

 魔法ってのは集中力が必要だからな。

 常時敵から逃げ続け、ネズミの様に逃げ回りながら撹乱し罠にはめて中指立てながら逃げ切るのが俺のスタイルだ。

 案山子の様に棒立ちになり、魔法で応戦などしていられるか。

 一歩でも遠く一秒でも早く逃げるわ。

 なので魔法は俺の戦闘スタイルと全く相いれない。

 それでも、こんな世界で何が命拾いの結果になるかわからんので、全属性の中級魔法位は扱えるようになっているがな。

 おかげで日常生活が便利でいいわ~。


「努力せずにこれだけ使えるなら、もっと努力しろよ。せっかくの適性が泣いてるぞ。真面目に勉強すりゃあ一流の土魔法使いくらいにはなれるんじゃないか?」

「この年で勉強は勘弁だ。脳みそが爆発しちまう」


 土魔法使いなんぞ人気の無いワースト3位だぞ。

 他の属性魔法と変わらず、土魔法にも有用性があるのだが、どうにも土=農民ってイメージが付いてやがる。

 土魔法を使うのは平民だ。

 汚ねぇ土いじりをする農民が使う魔法だ、などとバカ貴族共が言うもんだから、それに感化された平民出身の魔法使いも同じくバカし、土魔法を学ばないのだ。

 だから土魔法に適性があっても、その道に進む者はあまりいない。

 まあ、俺の場合一芸を極めるつもりも無ければ、極めるほどの努力もしたくなかっただけだが。


「それよか塩を買い忘れた。売ってくれ!」


 懐から銀貨を一枚取り出し渡すが、オヤジはそれを受け取らず、でき上がった釜戸の上に水が入った鍋を置いた。


「いらねぇよ。お前あんま飯食わねぇし、そもそも毎払いの宿代貰い過ぎてんだよ。数か月分の宿代前払いする奴なんざ初めてみたぞ。つかいつまでここにいるつもりだ。金があるなら宿暮らしより、家を借りるか買うかしろよ。そのほうが安上がりだろ?」


 稼いだ金を酒に変えてはいるが、それでも使い切れないほどに金を稼ぐ。

 その為懐が物理的にも重くなることが多々あり、そのたびに重いと文句を言っては宿代の前払いで軽くしている。

 働く気はないが、宝探しは好きな修二は、暇さえ見つければ遊び感覚で稼いでくるのだ。

 何だろう、この男マジでムカつく。


「渡り鳥の独り身冒険者に家なんざ必要ねぇっての。そもそも優秀な冒険者である条件の一つが、すぐにすべて捨てられる身軽さだぜ?」


 下手に家なんざ持ってしまったら、依頼で他国に行かなければいけなくなったときにすぐに動けなくなる。

 家の管理を任せる者を探さなければいけないし、家を処分するにしても手間のかかる申請が必要だ。

 借家も同じように、契約を解除するにしても、家の状態などを確認して、破損が見られればその分の修理費用を払わなければならない。

 そこで、これは元々の傷だとか、元々壊れていたなどの言い合いになれば更に時間がかかる。

 そんな面倒なことになりたくないから、俺は割高であっても宿を利用しているのだ。


「優秀でない冒険者がなにを言ってんだか」

「くかかっ、これでも元優秀な冒険者なんだぜ。その経験から面倒な家持にはなりたくねぇって判断してんのよ。それによ。料理と洗濯は旅してるおかげか苦にならねぇが、部屋の掃除だゴミ出しだってのはやりたく無くてなぁ」

「そう言うわりにお前の部屋は良く片付けられた部屋だと思うぞ。飲み終わった酒瓶とか律儀に一箇所に置いておくじゃないか」

「綺麗に見えるのは物がねぇだけで、ゴミを一箇所に集めるのは職業病さ。殺した魔物は一箇所にまとめても燃やすなり、埋めるなりしねぇと疫病に繋がるからな。まっ、主にダンジョンに行かねぇ、外の魔物退治を優先する冒険者に見られる病だな」

「あぁ~、そういうことか。だからエルフィナもゴミを一箇所にまとめてんのか」


 ダンジョンでは魔物の死体は勝手に消え処理する手間はない。

 魔石やアイテムを落し、それで終わりだ。

 まあ、そのお手軽のおかげで、外の魔物を討伐する冒険者は年々減ってきているが、そんな事、一介の冒険者である修二が心配するだけ無駄だろう。


「・・・・・お前って本当に昔はそれなりに優秀な冒険者だったんだな。そんな面影は皆無だが」

「中々にひでぇな」


 オヤジのちょっとした失礼な言葉に、修二は怒ることは無く釜戸の火を眺めた。


 (そろそろ鍋に食材を投入するか)









 ボトボトとぶつ切りにされた野菜を投入していく修二をオヤジはただ静かに眺める。


(コイツとは大体半年の付き合いだが、どうにも読めねぇな)


 一般的な冒険者なら大抵今の言葉で突っ掛かってくる。

 冒険者の大半は沸点が低い。

 ちょっとした挑発にも、挑発になりえない言葉でも突っ掛かってくるものだ。

 なのに、コイツは何に対しても怒りはしない。

 エルフィナをからかい、ティティティをからかい、人々をからかい、仕返しされればやめろと騒ぎはしても、暴力は振るわない。

 負け犬の遠吠えのように騒ぐだけだ。

 冒険者らしくない変な奴。

 別に冒険者に固執しなくとも金を稼ぐ手段があるのだから、普通にどこかの街に市民として暮らせばいいのにと思ってしまう。


(冒険者何ぞいつまでも続けていても碌な目に合わねぇのによ)


 危険の少ない依頼を受けていても、街の外に出る限り突発的な危険が付き纏う。

 街の中も絶対安全と言う訳ではないが、街の外よりもマシだ。

 魔の巣窟よりも、人の巣窟の方がまだ生きる確率が高いのだから。


「おいオヤジ、どうした? 何ボーとしてんだ?」


 黙り込んでしまったオヤジに、修二は疑問符を浮かべる。

 もしかしたら料理人のプライドが、雑に切り捨てている食材が気にいらないのだろうか?


「なんでもねぇよ。それより塩だったな。今持ってくる」

「おう、すまねぇな。礼は面白野営男飯で返してやるよ」

「面白はいらねぇから、美味い飯で返せ」


 そう言うと、オヤジは厨房に戻っていった。




 ちなみに修二の料理はメイギーの乳酒を使ったシチューモドキであった。

 シチューモドキは、まあ食えなくもない味であったが、今後も食べたいかと聞かれれば、首を横に振るような味だったと言っておこう。

 決して子供が好きな味ではなく、とても野性的な味だったとも記しておく。

 まあ、それはいい。

 それはいいのだが、飯を食っている最中に修二が買い占めた乳酒が大量に届き、宿の庭を埋め尽くさん限りの量にオヤジがブチ切れたのは言うまでもない。


 その日のうちに飲み干したんだからイイじゃねぇか。



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