趣味は大切に
真夜中に一人の男が歩む。
ゆらゆらと水の上に浮かぶ木の葉のように、その男はフワフワとした足取りで街を歩む。
「う、うえぇぇぇぇぇ」
まあ、少しばかりカッコつけた風に言ってみたが、この男は酔っぱらったただのダメなおっさん・・・ではなくダメな主人公の修二である。
今日は行きつけの酒場で浴びるほど酒を飲み続け、閉店時間と相成った。
そして閉店しても居座ろうとしたのだが、無理やり店から叩き出され、致し方なく宿へ帰る途中である。
所々に吐しゃ物を撒き散らしながら・・。
ぶっちゃけ汚物を撒き散らかしながら歩くなと言いたい。
「おい」
「・・あぁ」
そして、そんな修二の姿を見て良からぬことを考える奴はいくらでもいた。
身なりからして、裕福ではない者達。
薄汚れた服に、ぼさぼさの髪。
街中であると言うのに、殺気を振りまきながら、蛇のように獲物を狙う男達。
彼等は日々自堕落に生きるために、小さな犯罪に手を染める者達。
兵に捕まったとしても死刑などといった重い刑になることはなく、軽い体罰と労働で出てこられる程度の小悪党。
そんな男達がフラフラと夜道を歩く修二に近づき、取り囲む。
「おうてめぇ。殺されたくねぇなら金だしな」
「うあぁ~~??」
一人の男が修二の襟首を掴み脅す。
襟首を掴まれている修二ではあるが、酔っぱらっているので、視界がぼやけ、聴力までも水の中に入っているかのような状態であり、男の声が良く聞こえていなかった。
「聞こえねぇのかよ! 金だよ金! さっさと出しやがれ!」
「もうメンドクセェよ、ひん剥いちまおうぜ」
「ひん剥いたところでアイテム袋とかに金が入ってたら取り出せねぇだろ。くそ、コイツ酒飲み過ぎて脳みそイカレテやがる。時間かかるがぶん殴って正気に戻すか?」
「それしかねぇな。おい、ここじゃ目立つ。さっさと裏に連れてこうぜ」
そういうと修二を裏道に引っ張る。
だが、裏道に引っ張られる途中で
「ウッ・・・が、ガベボエロォォォォォォッ!!」
「「「「ウギャャャャャ!?」」」」
修二の口から勢いよくゲロが吐き出された
吐き出されたゲロはまるで噴水の様に男達の顔面に降り注ぐ。
「め、目がぁぁぁぁぁぁぁ」
「ゲェッ、ぐ、グゼーーッ!?」
「オロロロロロォォッ」
こんな反撃を食らうとは思いもしなかった男達。
というより、ゲロが顔面に狙いすましたかのように飛んで来るとは思わなかった。
故に避けることは叶わずもろにくらってしまった。
目や鼻に入り込みたまらず悶絶する。
中には口の中に汚物が入り込んでしまい、修二と同じように吐いている男もいる。
言葉通りの貰いゲロと言う奴だろう。
「ウベッ・・ヒック・・・ウェアァ~?」
うつろな目になりながら、修二は周りで悶絶する男達に視線を向ける。
そしてその中の一人を捕まえ、顔面を掴み、無理口をこじ開けた。
「あ? なん? や、やめろ! やめてくっ「ウップ・・・オロロロロロロロロロロッ」ゴボゴボゴボゴボッ!!」
酒のせいか普段見せない剛力でもって暴れる男を押さえつけ、そのこじ開けた口の中に大量の汚物を吐き出した。
まるでここに吐けばいいんだよ。
だってここがゴミ箱だもんと言う感じで、遠慮がみられない。
その光景を悶絶していた男達は、目の当たりにし、何をされているのかわからず唖然とする。
ただ身体は正直なのか、それとも危機的状況で本能が恐怖を覚えているのか、無意識に全身が震えていた。、
「い、い、いやぁぁぁあぁぁぁーーーーっ!?」
「ひ、ひぃ! まってくれぇーーー!!」
「やだっ! ヤダーーッ! ゲボノミタクナーイ!!」
「まっ、ゴブッゲェェェ! ウェェェッ、たすけ、アボッ!? ボバババァアアァァァ!!・・・・エァア?・・・ガクッ」
そして、焦点のあっていない修二の視線が向けられたとき、次はお前にご馳走してやろうと言う幻聴が聞こえ、男達は我先にと逃げ出した。
助けてくれと、おいていかないでくれ、とゲロを飲まされながら手を伸ばしていた男は、いつしか耐えられなくなり気絶する。
おいて行かれた男はなんとも可哀想だ。
信じていた仲間に見捨てられ、一人苦しみの中に置き去りにされたのだから。
そしてそんな男には幻聴が聞こえていた。
「大丈夫だよ」と「君は一人じゃないよ」と天使のような優しい声を聞こえていた。
「うえあぁぁ??・・・・・まっっでぇぇぇ~」
「「「イッヤーーーーー!?」」」
そう彼を一人になどしない。
みんな仲良く同じ思いをしてもらうのだから。
それから数分もたたずに、修二をカツアゲしようとしていた男達が全員顔面をモザイクで隠さなければいけなくなったのは言うまでもない。
「ペッ! ふい~、おっもしろかった~」
修二は口の中に残っていた汚物を吐き出すと、何事も無かったかのように周りを見回す。
というより、修二は元々酔っぱらってなどいなかった。
いつも通り酒を大量に飲んではいるが、前後不覚になるほど飲んでいない。
そもそも、夜中に出歩くと言うのに、泥酔状態になる訳もない。
街の夜道は素行の悪い奴等が活発に動き出す時間。
子供でも陽が落ちてからは危ない人が現れることを知っており、家から出ないようにしている。
腕に覚えのある者でない限り、物騒な夜道を歩むことは無い。
まあ、修二はそんな危険な時間だと知っていてもワザと遊びに出かけている。
日頃の鬱憤を晴らすために。
「う~む、しかしリアルさを追求するあまり、まじで吐いた感じで気持ち悪いな。柑橘系の成分をもう少し減らすか?」
そういいながら、懐から七色に光り輝く飴を眺める。
この飴は修二が自作したモノ。
色々な薬草や魔物の素材などを使い、無理やり圧縮魔法で固め、氷魔法で覆ったモノ。
人を死に至らしめる効果はないが、身体を数分数麻痺させる効果はある。
まあ、修二にとってはそんな事に興味ななく、ただこの自作した飴玉を使うと限りなくゲロに近い味と臭いになるので、嫌がらせ兼鬱憤をはらすための遊び道具となっていた。
「さて、そろそろ帰るか。流石にねみぃし」
夜遊びは楽しいが、流石に嫌がらせ用の道具を使い切ってしまった。
今日はここまで、また材料が集まったらまた遊びにこよう! と不吉な事を考えながら、小さく欠伸をしながら、宿へと帰っていった。
余談だが、修二の遊びのおかげで、この街の夜にバカをやらかす小悪党が減っていることを修二が知ることは無かった。




