華を添えよう
統率の取れた国の兵士達。
右と命じれば右へ行き、左を命じれば左へ行く。
よく訓練された兵士達は森の中であっても隊列を乱すことは無い。
その為どうしても歩みが遅くなるが、今回はその歩みが遅いおかげで、行き成り魔物の大群に襲われることはなく、一歩引いた場所から戦況を確認することが出来ていた。
「配置完了しました」
冒険者達が魔物を抑えている間に、兵士達は冒険者達ごと魔物を囲い込むように部隊を広げていた。
「ならば徐々に進軍し、魔物を根絶やしにせよ。邪魔する者は拘束し、場合によっては殺しても構わん」
「了解しました」
そして、自分達の仕事を邪魔するのであれば、冒険者を殺しても良いと、この軍の指揮官は許可をだした。
故意に冒険者や賞金稼ぎ達を害すればそれぞれのギルドとの関係を拗らすことになるのだが、今は泥沼化した戦闘の中。
錯乱した冒険者達が兵を敵と間違え切りかかってきた為、致し方なく排除することになったと言い訳するつもりのようだ。
そして、その言い訳を通すために部隊を展開させた。
鼠一匹逃さぬために、全てを皆殺しにする為に広がっていた。
「汚らしい金の亡者どもめ、貴様等などこの街にいらぬのだよ」
この軍の指揮官が特別冒険者達を毛嫌いしている訳ではない。
ただ不要と思っていた。
自由を愛し、自由を謳歌する為だけに日々を自堕落に生きる存在。
魔物討伐やダンジョンから有用な資源を持ち帰ることをしていても、結局は身体が動き稼げるときだけしか使えない存在。
彼等は稼げなくなれば、生きるために悪事に手を染める犯罪者予備軍でしかなかった。
「大盾を掲げ、槍を構えろ。魔術部隊は魔法で支援せよ」
指揮官の命令に兵士達は足並み揃えて進軍を始め、魔術部隊はそれぞれ土や風魔法の準備を始めた。
魔法の花形とも言われる派手な火魔法を使わないのは、山火事を起こさない為だろう。
山火事など起こしてしまったら、これから実りの秋で得られるであろう食料や冬に向けての薪拾いなども出来なくなり、物価が高騰する。
そうなれば自分達の首を絞めることになり、更には市民からの非難は免れず、何かしらの処分が言い渡されることになるだろう。
物価が高騰している間に減俸などされてはたまったものではない。
故に森を焼かずにそれなりに攻撃力のある魔法を使用することにしたのだ。
もしもここが平地であるならば、魔術部隊は躊躇なく火魔法を使っていた事だろう。
「敵確認しました!」
一人の兵士が指揮官に報告する。
敵と言っても今まさに冒険者達と戦っている魔物達であるのだが、指揮官は気にせず
「挨拶代わりに風魔法でもくらわせてやれ」
冒険者ごと薙ぎ払うことを選択した。
そして、命じられるままに刃の様に鋭い風魔法が放たれた。
それが彼等にとって最悪をもたらすことになるとは知らずに。
「ぐあっ!? 何だクソ!」
「おい兵士共だ! クソ兵士共が俺等ごと魔物を殺しに来てんぞ!」
「ア゛? ふざけたことしやがっ・・・なんか焦げ臭くねぇか?」
「確かに焦げクセェ。つか、燃えてるぞ」
「ああ? 萌えてるって、だれが? お前が俺に?」
「なにキモいこと言ってんだ。そうじゃなくて、アレだアレ。木が燃えてる」
「「「・・・は?」」」
兵士達が風魔法を放った瞬間、一本の木が燃え始めた。
その木は苦しそうに枝をしならせながら暴れる。
普通の木は動くことは無いのだが、今燃えているのは植物系魔物である。
痛みは無くとも、火が己の弱点であり消そうと暴れるのは必然であった。
そしてその行動のせいで他の植物系魔物に火が付き、そしてそいつも暴れ、更に被害は拡大していった。
「や、奴らやりやがった! 兵士共が火魔法ぶっぱなしやがったぞ!」
「ざけんなクソ! おい、俺はもうこんなの関わってられねぇぞ! 割に合わなすぎだ!」
「それよか、この話を広げろ! 俺等を殺そうとしたクソ共の行いを広げて、あのクソ共に制裁を与えてやれ! うまく行けば国から賠償金がたんまり手に入るぞ!」
「ゲハハハハッ! なら魔物なんぞより兵士を殺せ! 包囲突破して街まで逃げるぞ!」
そしてどちらの方が楽に金を稼げるのか判断した冒険者や賞金稼ぎ達は魔物の相手は最小限にしてそれぞれ兵士に襲い掛かり、街へ向かいだした。
兵士達も、冒険者ごと巻き込んで魔物を処理するつもりだったため、向かって来るまでは想定内であったが、それすら越えた状況にさすがに動揺する。
誰かが火魔法を放ったのか、いや放ってなどいない。
森で火魔法を放つ意味、放った後の危険は皆理解している。
ならばこれは我等兵士に罪をかぶせる誰かの策略だと考えた。
だが、それはどうでもいい。
それより今すぐ火を消さなければ自分達にこの責任を押し付けられかねない。
冒険者達は自分達がこの放火の犯人と思っているのだから、どうにか消火し口を封じなければならない。
一人でも逃がせば最悪指揮官の自分は死罪になる。
「一匹も逃すな! 全員殺せ!!」
保身を優先した指揮官は向かって来る冒険者達と、それに引き寄せられるように襲ってくる魔物と対峙することとなった。
冒険者や賞金稼ぎ達は兵士を殺してでも街でここでの出来事を広げ、金を得る為に、兵士は目の前に今も燃え広がる火をどうにかしようと、迫る魔物や冒険者達を殺す為に、魔物はただ己の目に映る人と言う生物を殺し喰らう為に、それぞれ暴れ回った。
なんとも混沌とした戦場ができあがった。
「やっぱ戦場には火がねぇとな。そうじゃねぇと映えねぇよ」
修二は勢いよく燃える木々を眺めながら、紅葉のようだと頭の可笑しなことを考えながら、手に持った松明を木々に投げつけた。
生木は燃えにくく、松明を放ったからと言ってすぐには燃えない。
だが、そこは松の木に似た油を多く含んだ木を選別して燃やしている。
勿論暴れてくれる魔物を選んでいる。
でなければこうも早く燃え広がってくれないからな。
「うにぃ~?」
「流石にヤバくないかって? まあ、流石にこのままだとヤバいだろうな」
魔物の考えなどわからぬが、ああも暴れられればこれ以上手を出さずとも燃え広がるだろう。
そして、暴れたせいでこのままでは、ここら一帯の森は炭と化すだろう。
いや、子孫を残す為に最後の悪あがきをするのはわかるが、何で火を纏った種をまき散らかすのかねぇ。
そんなことしても、子孫は皆仲良く丸焦げで、同種の魔物に迷惑がかかるってのにな。
ホント魔物の思考は読めんわ。
「まっ、どうにかなんだろ。兵士達が消火活動しようと躍起になってるしな。それに、流石の俺もテメェの命惜しさに森を一つダメにするつもりはねぇよ」
そう言うと、修二達はできるだけ火が回ってこない安全な場所へと移動しだした。
言っている事とやっていることが違うだろと子猫は思うが、その疑問は三十分後天候が崩れ、雨が降り出すことで理解することとなった。
確かに今日は雨が降りそうではあったが、それを見越して火をつけたのかと感心する子猫であるが。
どやぁ~
得意げに見下ろしてくる修二の顔を見てその感心もきれいさっぱり消えるのだった。




