表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ロストしたら俺のモノ-酒飲み自由人のダメ男生活-  作者: タヌキ汁
第一章 日常生活と非日常編
10/232

エルフィナの日常


 エルフィナは神に愛された愛し子である。

 エルフィナの容姿はダークエルフ族の中でも整っており、その身に宿る膨大な魔力を知覚出来れば全てのエルフ族は彼女こそ神の愛し子だと認知するだろう。

 そして、魔力以外にも彼女には強力な能力が四つも備わっていた。

 無限に物を保管できる能力と、生命なき物に命を与え意思を持った物を支配し操る能力。

 この二つの能力だけでも誰もがうらやむ力だというのに、神は彼女をさらに寵愛する。


 それは時読みの瞳と極限感覚と呼ばれる能力。

 時読みの瞳はその目に写し取った者達の時を先読む力。

 数秒後の世界は勿論の事、最大で1時間後の世界を垣間見ることができ、尚且つ自身が対象であれば、その日一日起こるであろう未来を見ることができた。


 そしてもう一つの極限感覚とは、任意で時の流れを緩やかにする。

 別に時の流れを緩やかにしたからと言って自由に動けるようになるわけではないが、それでも一秒と言う時の中、己がどう動くべきなのか、何をすべきなのか、はたまた明日着て行く服や、今日何を食べようかなどと思考できるほどの時間を得ることができる。

 要するに死が迫ったときに見る走馬燈のような時間を操ることができるのだ。

 そんな四つの能力だけでも最強に位置する存在であり、戦う訓練をせずとも彼女が負けることなどそうそうありはしない。


 だが、そんな力を与えられたエルフィナは根が真面目なのか、力に溺れず、日々技を磨き、知識を蓄え、ひたすら上を目指し駆け続けた。

 故にまだ16という若さにもかかわらず、冒険者になって僅か一年という短い時間で、一流の域であるBランク冒険者に上り詰めることができたのだ。

 人々はそんな強くも美しく努力家の彼女を称えてこう呼んだ。銀の戦天使と



 そして、銀の戦天使ことエルフィナであるが、今はその美しさが霞むほど冷めた目をしていた。

 その原因は・・まあ、エルフィナを怒らせる奴が誰かは予想できるだろう。


「ねぇ、アンタ何してくれてんの? マジでぶち殺されたいの?」

「いやいやいやいや、悪かったと思うが、流石にこれは仕方ねぇだろ! 生理現象だもんよ! ワザとじゃねぇもんよ!」


 無数の剣を浮かばせながら、その剣の矛先は全て修二に向けられていた。


「しょうがなくねぇ? ムズムズしたんだからしょうがなくねぇ? 誰だってムズッとしたら出しちまうのはしょうがなくねぇ?」

「だからって私に向かってする事無いでしょ。ねぇ、正直に言いなさいよ。狙ってやったんだって、日頃の鬱憤を晴らすいい機会だと思ったんだって、白状しなさいよ」

「はっはっはっ! この程度で鬱憤はらせる訳ねぇだろ。やるならもっとひどい目に合わせてやるわ! このクソチ・・・・はい、黙ります」


 首に数本の剣が押し込まれたため、修二は罵倒を飲み込んだ。

 というか何故この二人は、というかエルフィナが怒っているのかと言うと、彼女の持っていた物というか、その持っている料理が原因であった。

 特に代わり映えしないいつもの朝食。

 ただ寝て過ごすだけの宿屋であるはずが、ここの宿はそんじょそこらの飯屋よりうまい料理を出す宿屋であった。

 ウエイトレスはおらず、自分で料理を運び、食べ終えれば食器をオヤジの所まで持っていく手間がある。

 この世界では珍しくセルフ化された食堂である。

 料理をわざわざ己で運ぶのも、片付けるのも面倒だと客は思うが、味のわりにリーズナブルな値段のおかげで客が減ることは無かった。

 なので、エルフィナは朝からオヤジの飯を楽しみにしていたのだが、あろうことかその朝食に向かって修二が唾を飛ばしてきたのだ。

 別に故意ではない。

 本当に鼻がむずむずして、くしゃみをしただけだ。

 それも本人はカウンターを汚さないようにと、オヤジに唾が飛ばないようにと後ろを向き、尚且つ汚すのであれば、床だけの方がいいだろうと気遣っての行動であった。

 ただタイミング悪く、料理を持ったエルフィナが通りかかり、その料理にぶちまけてしまっただけのことだ。

 本当に悪気など無かったのだ。


「大体何でアンタがこんな朝早くに起きてるのよ! いつも昼まで寝てるじゃない!」


 夜遅くまで酒を飲み、昼になってやっと起きだすダメ男であることをエルフィナ知っていた。


「んなもん仕事に行くために決まってんだろ」

「・・・はっ!」

「鼻で笑いやがった!? 今のどこに笑う要素があったんだゴラァ!」


 人をバカにした笑いに掴みかかろうとした修二だが、宙に浮かぶ剣が怖くてそれができず、まるで虚勢を張る犬のように喚く。

 その情けない姿に、エルフィナはバカにしたような笑みを浮かべる。


「いや、笑われても仕方ないだろ。仕事に行くとか、お前熱でもあるんじゃないか?」

「おぉう!? オヤジまで酷くねぇ? 俺だって真面目に働こうとする意欲が欠片ほどだが残ってんだぜ?」


 朝からギャーギャーと騒がしくする二人の傍に、この宿のオヤジが厨房から顔を出した。


「その欠片に驚いてんだろ」

「おおおぅ!? オヤジ辛辣すぎねぇ!?」

「当然の反応ね。アンタはクソして寝るだけの社会のゴミなのだから」


 口からクソなどと言う汚い言葉が出てしまい、少し恥ずかしいと思うエルフィナであるが、その羞恥心を隠す様に心底バカにしたような笑みを浮かべる。

 口は悪いが、どこか乙女のエルフィナである。


「テメェはもうちっと言葉選べや! このぺちゃ・・・・へい、なんでもねぇです」


 学習しない修二は何度も禁句を口にしようとしたが、そのたびに剣が喉元に突きつけられる。

 いや、ちょっと刃先が突き刺さり、一筋の血が流れている。

 恐らく次禁句を口にしたら、問答無用で剣が突き刺さるだろう。


「ほらエルフィナ。新しいのに変えてやっから、それよこしな。手間取らせた分、デザートにカットフルーツつけてやっから」

「流石オヤジさん。どこぞのゴミクズとは違って気の利くいい男ね」


 ホントここの店主は気が利く。

 顔は少し怖いが、このダメ男とは比べ物にならないほど人が出来ている。


「小さき者よ。そのゴミクズってのは誰のこと言ってんだ? 答えよ。小さき者よ」


 その言葉を発した修二へと視線を向けると、そのクソッタレの人物はある一点を見つめながら、発していることに気付いた。


「・・・ねぇ、アンタどこを見ながら小さき者とか言ってるわけ? ねぇ、マジで殺されたいの? 死なないとわからないわけ?」


 なに人の胸見てんだこらぁ! テメェええ加減にせぇやっ! とどこかヤクザじみた叫びを心の中で発しながら、エルフィナは殺意をぶつけるも、


「別にどこも見てないです~。いつもと変わらないです~。それともなにか気になるんですか~? 未来無き悲しき小さきも・の・よ~。ぷふー!!」


 エルフィナの殺気に気が付きながらも、修二は煽ることを止めない。

 禁句ではないのだから問題ない。

 禁句に近い言葉ではあるが、ギリ問題ないだろうし、流石に宿屋で殺傷沙汰にはならないだろうと判断し煽っているのだ。

 料理にくしゃみをして汚してしまったことをギャーギャー騒いでいただけなのに、最終的には互いに煽り合う。

 なんとも幼稚な事である。

 そして、大抵こうなると、最後には


「ふんぎゃゃゃゃっ!?」


 エルフィナの手によってタコ殴りにあう。

 エルフィナも自重して殺傷沙汰はしないが、暴力沙汰にはする。

 血を流し、宿を汚すようなことはしないが、剣の柄でタコ殴りにするのは今に始まったことではない。


 骨が折れず青単ができる程度で、地味に痛みが残るようにしつつ、次に生意気な態度を取らせないように顔面を重点的に攻撃しては恐怖を刻む。

 故に修二は情けなく悲鳴を上げ、そのまま力なくカウンターに突っ伏したのは当然の結果えあった。


「ふん!」


 その無様な姿を見て、いい気味と言わんばかりに鼻を鳴らすとエルフィナはオヤジさんから新しい料理を受け取りテーブルへと歩いて行く。


「・・・・・・・」


 ホント朝から最悪!と思いながらも、少しやり過ぎたかしらと、心配になり盗み見るように修二に視線を向ける。

 ぴくぴくと死にかけの虫のようで、やっぱりやり過ぎたのかと心配になるも、オヤジさんが先程、修二が汚した朝食を責任もって食えと言うと、任せろと言わんばかりに即座に起き上がり、料理を食べ始めていた。

 その光景に安堵しながらも、何でもないように起き上がる姿を見てもう少し痛めつけてやればよかったと、なんとも言えない気持ちのままエルフィナも食事をとるのだった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ