優雅な休日
つこさん。様(https://mypage.syosetu.com/1539309/)が主催された飲み書き祭りで書いた短編です。
お題:ふんどし、優雅な休日、焦がし醤油、酩酊の過ち、夏の思い出、おかさねべヰく、コッペパン、囲碁
から「優雅な休日」が選ばれて、そのお題で1000文字短編を書いたものになります。
蝉の声で目が覚めた。頭が痛い。
隣には裸の女。
畳の上には酒瓶が散乱しており、記憶がないことからも昨晩の酩酊ぶりがよくわかる。
彼女を起こさないように布団から出ると、ふんどしを締めて台所へ向かい水をもらう。
さて、昨日の見世開きの前に買っていた生卵を使おうか。
まずは土鍋を拝借。だし汁を少量入れて火にかける。
煮立てる間に卵白を泡立て。
角が立ったら卵黄を追加してさらに泡立てていく。
だし汁が沸騰したのを確認したら手早く投入。
ふたをしてしばらく蒸したら、鍋肌に醤油を垂らして一丁あがり。
「たまごふわふわ」
土鍋を持って部屋に戻ると、すでに彼女は目を覚ましていた。
「あら、もうてっきりかえらはったのかと思いましたのに」
「ちょっといいものが手に入ったんだ。少し分けてやろうと思ってな」
そう言いながら、土鍋のふたを開ける。
「まあ、たまごふわふわ。わっち、大好物でありんす。朝からたまごふわふわを作っていただけるなんて、今日は良い休日になりそうでござんすね」
「それから、これだ」
わしは昨日仕入れたあるものを取り出す。
「鰹節みたいでありんすね? けど匂いが全然しんせんなぁ」
「これは異人がコメの代わりに食べられている「くぅぺぱん」なるものらしいぞ。
だがこれは硬くて味もなくてな。このままだととても食えたもんじゃない。
だからな、それを、こうするのだ」
くぅぺぱんをわき差しで二つに分けると、そこにたまごふわふわを挟み込む。
「どうだ。わしが考案した「おかさねべヰく」だ。
ちと熱いが、硬かったくぅぺぱんがしっとりとして食いやすくなったうえ、たまごふわふわの味わいも楽しめる、一石二鳥の料理だろう。くってみい」
わしは彼女におかさねべヰくを差し出す。
「大変珍しい料理で光栄でありんす。では、いただくざんす。箸は使わないんでありんすな?」
彼女は口を大きく開けてぱんを口に入れる。
「ふむふむ、やっぱり食べにくいんでありんすなぁ。やっぱり粥と汁の朝餉の方が好きでありんすが、とても珍しいものを食べているのはわかるざんす。どうして急にわっちにこんなものをくれたでありんすか?」
「そうだな、わしはこんなにも珍しい朝餉をあげたんだから、お返しが欲しくてな。今度はお前が好きだと言ってる朝餉を作ってもらおうと思ってな」
「また見世に来て、言ってくださればいつでも用意するでござんすよ」
「そうじゃなくてな、出来れば今後はわしの家で、わしのために朝餉を作ってはくれないか」
「それって……」
「ああ、身請けさせてほしい。金は用意した。異人との商売がうまくいっていてな、秀甫様のところで囲碁を習ってるおすかぁと共に近いうちに日本を出るんだ。お前にも一緒に来てほしい」
「主さん、なんてことでありんしょう。昨日飲みすぎて、まだ夢の中というわけではないざんすか? わっちをもらってくれるなら、たとえ地獄だってお供するでありんす」
「そういってくれてほっとしたよ。すぐに忙しくなるけど、せめて今日一日は、二人で優雅な休日を楽しむことにしよう」
彼女は主人とドイツに渡ったとき、主人が婚約のためにくれた食べ物が、欧州ではサンドイッチと呼ばれて普及しつつあることを知ることになるのだった。
お読みいただきましてありがとうございました!