クラス分けと濃ゆいクラスメート やっぱり私は畑がいい①
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『ふふふっ。相変わらず不思議な子…。貴方に会えるのを、私。とっても楽しみにしていたのよ…??』
月明かりの美しいアステリア魔法学園の西にある廃塔…。
その上に、白い美しい女性が夜風に髪をなびかせ綺麗に微笑んでいた。
白いワンピースに、白いショール。
向こうの景色が透けて見える美しい肌と体をふわりと風のなびくままに任せながら、彼女は外界の景色を楽しそうに眺めている。
『……………貴方の周りはとっても賑やかね。色とりどりの不思議な仲間にも見守られて…。そしてとてもとても心地いい……。きっと……貴方は色んな変化をもたらしてくれる予感がするの』
そう……、意味深に一人つぶやく美しい女性の背後に、音もさせずに同じ白く透けた人影が数名現れ、
一昔前の執事やメイドといった風貌の召使い達が、お嬢様…。と、頭を垂れて彼女にかしづいている。
『お嬢様…。数名…、我らが屍人形に入り、学園内にいつでも介入できる様準備しておきますか……?』
片眼鏡の奥から青い仄暗い目を光らせ、老執事が礼をとったまま静かに問いかける。
『ううん…。大丈夫よ。炎帝の坊やが小間使いのメチルを処罰してしまったようだし…、彼が警戒してガードしてるみたいだから…。あまり事を荒らげたくないわ。メチルは無事なの…?あれから霊体姿も見てないけど……』
『…………四方探しておりますが、なかなかこちらに帰る事が出来ない状況の様です。魂の契りは消えずに感じられますゆえ、何処かに捕らえられていると思われますが……。メチルのしぶとさであれば、いつかは戻って来るでしょう』
『………相変わらずに、執事はスパルタなのね……。ふふっ。ほどほどに無理そうならば、みんなで助けに行ってあげましょうね』
そう言って微笑みながら、少し黄色みがかった長く美しいプラチナブロンドの髪をふわりとかきあげ立ち上がると……。
女性はその美しい背中に、バサァ!と白い羽根をはやしてみせた。
そして純白の両翼を広げ、音もなくそのまま廃塔から飛び降りる。
彼女の向かうその先は、空でもなく、何処かでもなく、空飛ぶ異動空挺の地下深く…。
地の底まで降りた地下空間。
広い広い…、白くて寒い、時の止った彼の空間だ。
そして…。白い雪の積もった小高い丘の上に、彼は決まって日がなぼんやり佇んでいるのだ。
音もさせずに女性が静かに雪の上に降り立つと、彼は振り返りもしないくせに、いつだって彼女の存在に一瞬で気がつく。
「………………お帰り。………ゾラ………。散歩は………、楽しかった……?」
『ただいま。えぇ。とっても興味深かったわ。あの子が来ただけで、どうしてかしら……??とっても夜の景色が美しかったの。月も、星も、風もきれい…。すごく清々しかった…』
「………………そう……。君が嬉しそうなの……は、………本当に、久しぶりだ……。俺も………、今日は、久々に………懐かしい面々にも会った…………。相変わらず………彼らだけは……、変わらない……」
『そうね。私達以外……、当時から残ってる者はほとんどいないものね。生きてる人間なら尚更…。魂さえも私達の知らない……、どこか遠くに行ってしまうもの。憎々しい顔も中には覚えているけれど、彼らは、いったい何処に行ってしまったのかしらね………?』
そう……、会話を重ねながらも、実はこの会話は彼女だけの一方通行。
相手には、実は彼女の声は一切聞こえていない。
それでも……。彼は驚異の執念的感覚で、彼女の胸の奥の僅かな自我の揺れを読み取り、この無謀な会話を成り立たせているのだ。
「……………今日。………君も……、さっき言って……いたけど………。面白い…………女の子が……、来ていたんだ。……………不思議と、来た瞬間………分かった。…………とても………、素朴で、可愛らしくて…………。そして…あれは………、輪廻の理を………越えて来てる……」
そう言うと、彼はゆっくりと手を伸ばし、目の前に置かれた白い棺に眠る《彼女の本体》である"屍体"の頬を優しく包み込んだ。
真っ白なかぐわしい花々に囲まれて横たわる彼女の屍は、美しくありながらも、つぎはぎだらけで皮膚の縫い跡が目立ち……。《死の神の呪い》が呪詛として黒い革ベルトに込められ、何重にも彼女の口元を塞ぎ固めているので、霊体の姿になって屍体を抜け出した状態でも、二人が互いに話す事を禁じているのだ。
それも、永遠に……。
しかし、それでも目の前の男は決して諦めようとはしないのだ。
「……………もうすぐ………、もしかしたら、今度こそ………。君を元通りに………、できる方法が……、見つけられる……かもしれない………。城の………みんなの………、事も。今度こそ…………、守るよ………」
そう言って、もう何度繰り返されただろう誓いを、彼は何度だって再び口にする。
頑なに、頑なに、頑なに…。
彼の時間は、もう500年以上も前から止まったままだ。
(……………それでも、《終わりが無いもの》はこの世に存在しないのよ…?良い意味でも、悪い意味でもね)
彼女は、本当に仕方ない人ね…。と呟きながら、そのまま彼の背中に寄り添うように近くに座り込む。
(その時になって、またヘタれてたら今度こそ承知しないんだから……。女の勘は存外当たるのよ……?)
そして地上では夜が明け…、また新しい一日が今日も刻まれていく。
女性は明けていく空に思いを馳せながら…、
学園に訪れた新しい風の気配に、そっと静かに微笑んでいた。




