旅立ち その②
「た…確かに、お…おもしろっ、そうだな。ブフッ!その時は、私もぜひ…、ぜひ私も、イノムー退治に参加させて……、もらおうっ。エマ嬢が毎度、突進されて…斜面を転がり落ちる様を…、見てみた…………、」
「……………………」
金髪の騎士様は何とかまともに話そうとしているようだが、ほとんど会話が笑いに埋もれている。さすがの私も我慢の限界だ。
「………………っ、そんなに私のド失敗を見たいんですかっ!?騎士様が見たいのは、私が追っかけられて転がり落ちて、イノムーの糞とか、ベアーリングの糞に顔からダイブしてる様ですよね!?人の不幸は蜜の味ってよく言いますけど、おあいにく様っ!!落ちた先で木にぶつかって、大量のオコボの実が落ちてきて大収穫って時もあったんですから!!!ただ滑り落ちてるだけじゃないんですからっ!!!!!」
「ブフーーーーーーーッ!!!!」
「エ、エマ嬢…!!何か我々が聞いたときより情報がいくつも増えているんですけど、自爆してませんか!?それ…………っ!!」
ナオ様が笑いに落ちながらも、これ以上傷を広げるなとツッコミで忠告してくれるのだが、失うものなど昨日でほぼ失っている…。こうなりゃもうヤケである。
いっそ、この金髪の騎士様は笑い狂えば良い。
荷造りしていたバックの紐をぎゅっと縛り、私は立ち上がってズボンをパンパンとはたく。
「じゃあ、荷造りはだいたい終ったんで、畑に行ってきますね。出発は明後日の予定ですから、それまで私は畑仕事させてもらいます。騎士様方はどうされますか?正直、付き合わせるのは申し訳ないんですが…」
「我々の事はお構い無く。なんならお手伝いさせて下さい。体も動かしたいですし、朝昼晩ごちそうにもなってますしね」
そう言って、ナオ様は、なおもケタケタ笑い続ける金髪の騎士様に視線を向ける。
「クリス様はどうしますか?他の者もいることですし、交代して領主館でお休み頂いても…」
「…………いや、俺も行こう。ここの食材は見たこともないものばかりだからな。興味がある」
そう言って、金髪の騎士様はようやく笑いの発作から復活し、突っ伏していたテーブルから立ち上がる。
「あ〜、エマ嬢には笑わせてもらった。鍛える以外に笑うことがこんなにも腹筋にくるなんて、思いもしなかった。楽しい発見をさせてもらったな」
そう言って、金髪の騎士様に上から柔らかい笑顔を向けられ私は思わず目をすぼめてしまう。
(………私も、まさかこんなに騎士様に笑って頂けると思いませんでしたよ)
内心、少しだけケッ!とどす黒く毒づきながらも、美形は得だなぁ…。と改めて思う。
気だるげなクールビューティな容姿も然り…。
この金髪の騎士様に関しては普段から愛想を好んで振り撒くようには見えないので、余計に笑いかけられると破壊力がある。
あんなに頭に来ていたのに、まぁ、いっかと思わせてしまうスペシャルギャップ美は本当にずるすぎる。
私にもそんな特技、欲しかったなぁ…。
「…………じゃあ、さっそく畑に行きますよ。しばらく村には戻れないようですから、それまでに皆に頼んでおきたいことや確認したいことがたくさんあるんです」
そう言って、私は玄関の方へと歩きだす。
まずはクワを取りに行かなきゃと、やることを頭で整理しつつ、戸を開けて一歩外へと踏み出すと…。
「「ブフゥッ!!!!!!」」
中から出てきたのが私だと認識した瞬間、戸の入り口を警護していた別の騎士様二人が、盛大に吹き出した。
…………………私の苦難はまだまだ続くらしい。