旅立ち その①
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「クックックックックッ………………。ブフッ!!」
「ク、クリス様。さすがにこれ以上はレディに対して、失礼極まりな………、……ふッ!」
「…………………」
私は今。
絶賛、荷造りの真っ最中である。
必要な道具やら、もろもろの費用。
生活費も全てあちらの国が負担してくれるとの事なので、本当に最低限の荷物だけを用意している。
その間も護衛が必要だということで、自宅で準備している間もこうして騎士様が側についていてくれている訳だが…。
「あの…………。そろそろ笑うのはやめていただけませんか?何かもう、悲しくなってきたんですけど…」
さすがに我慢できなくなって、なおも肩を震わせる騎士様方に苦言を呈してみる。
昨日の一件で、"エママイスター"となった騎士の面々の方々は、事あるごとに私を見ると笑いのツボが暴れだすらしい…。
会う面々、会う度々、もう何度吹き出されたかわからない。
ぶっちゃけ、私自身は限界だ。
既に羞恥心は通り越している。怒りも通り越して、今では正直、若干殺意がわきつつあった…。
さすがにすまないすまないと金髪の騎士様も自分の目尻に浮かぶ涙をぬぐいながら謝ってくれているが、その肩も腹筋もまだプルプルと震えている。
………何がそんなに面白いのか。
心当たりはたくさんありすぎるが、とりあえず。その一際綺麗で美しいかんばせをはったおしてやりたい。
そんな気持ちが芽生えてくる。
「申し訳ありません、エマ嬢。我々も失礼だとはわかっているんですが、どうしても押さえられなくて…。本当に悪気があるわけではないのです。むしろ我々は、エマ嬢の事もこの村の人達の事も大好きになりました。私なんか魔法騎士団を引退したら、この村に移住するのも悪くないなって思うくらいです。ねぇ?クリス様」
そう優しく話しかけてくれたのは、柔らかいくせ毛の短髪黒髪の優しげな騎士様。
線は細いが体躯はしっかりとしていて、なかなか格好良い。
名前をナオ様というらしい。
ナオ・ビフケル様。平民の私にも名前で呼んで良いと許可してくれた。
そして、まだ机に突っ伏してクツクツ震えているこの色気駄々もれの美しい金髪の騎士様は、クリス・ヴィート様。
ナオ様からも様付けされて呼ばれてるし、領主館での話し合いの時を見ても…、この人が一番偉い騎士様だと思ってもいいと思う。