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はじめまして。私はエマ・ブランドンです⑥






◇◇◇◇◇◇◇◇◇






一方……。ホールの客席の方からは、今までで前例の無いアステリア魔法学園の入学式の様相に、戸惑いのざわめきが充満していた。





しかも、そんな中でいきなり名前を呼ばれ、壇上に上がったのは、特に何の特徴も持ち合わせない普通の田舎娘。優秀で貴族特有のきらびやかなオーラを放つ学生も多くいる中、その普通さが逆に悪目立ちするのも無理はない。




「…………なぁ、あの女の子、誰だろう…?見た事あるか?」




ホールのあちこちで、壇上に上がった見知らぬ学生の姿に疑問の声が上がり始めていた。




「う~ん…。いいや。あんな女の子、初等部も中等部でも見た事ないよ。学生代表の挨拶となれば、大抵名門貴族の子女子息や、主席合格あたりなんだと思うけど……、とりあえず、エマ・ブランドンなんて聞いた事ないな。この学園に入りそうな人間は、それなりに名の知られた人間が多いもんだけど…、他国からの入学生か?」




「もしかすると、噂の特別措置特待生ってあの子の事ではなくて…?ほら、皆、公にはなってないけど噂してる……」




「え!?例の、ザ・化け物……!?あの茶色い髪した三つ編みの女の子が……?」




次々上がる憶測の声は止まらない…。

通常は貴族は貴族同士。一般入学生は一般入学生同士で話す風潮が多いとも聞いていたが、今は身分や立場も関係なく、ザワザワと皆が言葉を交わし合って、ステージで紹介された私に向かいホール中の皆の視線が集中していた。




(どうか、うまく切り抜けられますように……!)





私はわずかに震える手を無視して、用意した挨拶文の渾身の一行目を読み始めた。





「………暖かな日の光りに恵まれ、今日、このアステリア魔法学園の門をくぐり、新入生としてこの場に立てた事を心から感謝申し上げます。マルスの国王両殿下、そしてはるばる足をお運びくださった国賓、貴賓の皆様に、新入生を代表して厚く御礼申し上げます…」




…………………若干声が震えるのは仕方がない。

だが、即席に作り上げたとはいえ、まずまずな切り出しではないだろうか?




前世でつちかった記憶をフル回転で必死に掘り起こし、それとなく入学式を乗りきれるような文章を書き連ねて作った事もあって、ズバリ無難な挨拶文だと思う。




クリス様とエレノア副学園長…。

二人に相談した結果、私は表立って"特別措置特待生"とは公表しない事になっているので、"植物魔法を僅かに扱う、将来植物の研究員を目指す一般学生"という立ち位置の演出を狙っている。




うやむやに隠すより、いっそ最初に大っぴらに顔を出して、"私は一般学生ですよ~"…と、煙にまいておこうという作戦だ。




エレノア副学園長の魔法のおかげで、拡声器も何もないのに、私の声はホールの隅々まで余す事なく届けられていく。




「………私は魔法と原生している植物を研究し、安定した食料供給を実現すべく知識を学ぶ為、一般学生枠としてこの学園への入学が許されました。幼い頃から専門的な魔法の研鑽を積んできた訳ではないので大変な事もあるかもしれませんが、先生方、先輩方。そして共に学ぶ学友の皆様から、たくさん吸収して学べていけたらと思っています。至らない事がありましたら、ご指導頂けると幸いです」




(……………………………………、うん)




若干、内容に不安材料は無いとは言えないが、なかなか順調ではないだろうか?



頭は相変わらず真っ白だが、私はひたすら挨拶文を淡々と読み上げる事だけに集中する。




ちなみに…………………、あと30分くらいこれで時間稼ぎする予定なのだが……、




こんな内容で本当にもつのだろうか?恐怖でしかない。






ふと、警備に当たっていた第二師団の騎士様達が、焦るような素振りをしているのが目に入った。




(……ん?)




よく見ると、ホールの脇の方で、ナオ様とクリス様も、青ざめて何かをジェスチャーで訴えかけてきている。




気がつけば……、わずかなざわめきに満ちていたホールが、いつの間にか息苦しいくらい静まり返った空間に様変わりしていた。




ホールの壇上で、なおも無難な挨拶文を読み上げ続けていた私なのだが……、エレノア副学園長のひきつった声で、さすがに事の異常さに気がつく。




「ブ、ブランドン嬢。………後ろ…」




「?………後ろ…?」




副学園長の声に促され、私が言われるまま後ろを振り返ると…………………、目の前の視界が、真っ白い何かに埋め尽くされていた。




白いもふもふコートの帽子を真深くかぶったそれは、目元を覆う金色の装飾の仮面を着けて……、



気配も一切感じさせず、白い幽霊の様に静かにこちらを頭上から覗きこんでいた。







「……………………………………………………君、誰?」







白いもふもふ金の仮面幽霊が、至近距離で私の真上から問いかけてきた。




「………………………………………君は、誰かな……?」





(……………………いや。むしろ、私の方がそれを聞きたい)





いきなりの事でフリーズ。かつ硬直する頭の中で、思わずそんな事を考えてしまう。






「…………………………名前は?」




「………え、……………エマ・……ブランドン……です…けど…」




「エマ・ブランドン…………?君………、魂の色と形が普通と違うね……………。珍しい…………」




「た、魂………?」




「……………………うん。もしかして……………………君、前世持ちだったりする………………?」





「ひぇっ…!?」




あ……、これ、絶対にアカンやつだ……!!!

本能的に悟った私は、無意識に胸の炎帝からもらった鍵に手をのばしていた。




もう、頭の中に入学式の事なんて残っていない。




逃げないと……………っ!!!!





神経を張り巡らせ、瞬時に鍵をさせる場所を必死にさがすが、ホールの中央に丸く位置しているこのステージの上で、扉なんてすぐ近くにあるわけない。




少なくとも、全力疾走でホールの出口まで走らなければ……。





「………………ねぇ………。教えてくれないかな………………?君には…………、生まれる前の記憶……………………、あったりするのかな……?」








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