はじめまして。私はエマ・ブランドンです①
「ナ…、ナオ様。島が本当に浮いてるんですけど…」
「えぇ。話は本当だったでしょう?学園はちょっとした空中都市なんですよ。魔法建築の中でも、随一の空飛ぶ島です。驚いたでしょう?」
「…………はい。めっちゃファンタジーです」
驚いたなんてもんじゃない。
本当に………、私は何てものを見てるんだろう。
前世の経験も含め(地球)、人生初の空飛ぶ馬車に乗るという未知なる経験に出くわした私は、高所に対する恐怖なんてあっという間にふっとんで、外の景色に釘付けになっていた。
「ちなみに、珍しいのはこの光景もなんですよ?今日は特別に王都に学園が移動してきていますが、いつもは東のウィスティラ平原辺りに浮かんでいるんです。年に数度、特別な行事がある時にだけ見られる光景なんですよ」
「へ、へ~…」
既にろくな言葉さえ出てこない。
本日は晴天…。
清々しい青空とわき立つ白い雲を背景に、ゴゴゴゴゴ…と地響きのように響き渡る風の轟音をまとい、目の前に巨大な島が空に浮かんでいる…。
その下には歴史ある魔法国家、マルスの王都が広がっているのだが…、今まで道中見てきた荒涼とした街々と違い、建物もすごく立派だし、緑もあふれている。
でも……、空に浮かぶ島の緑の量は、そんな比ではなかった。
島の緑は故郷の村とも遜色がないくらい、島からはみ出るほど青々と茂り…、そこには滝も、湖も、小さな小高い山でさえあるように見える。
……………そして何より、とてもとても美しかったのだ。
「見てください。湖の辺りに大きなお城のような建物があるでしょう?あそこがアステリア魔法学園の学舎です。寮もあるので、貴族のように気軽に地上へ行き来できない場合は、住み込みで寮生活をおくります。そして、あそこ。あの地面から所々に突き出している大小の水晶が見えますか?」
「はい。スゴく綺麗ですね……。白くて透明な物もあるけど、うっすら紫に光る水晶もあります」
「そう。あれが空に浮かぶ原動力……、空挺石の元になる水晶です。紫に光る水晶には透明な水晶よりも浮上力を秘める魔力が多く宿っていて、それを圧縮、凝縮させた石があの島を空に浮かせています。島の下の方に強く紫に光るキラキラ光っているのがそうなんですが、そのうちエマ嬢も島の中央にある空挺石の核を見れると思いますよ。確か見学できる時があったはずですが…………」
「へぇ…」
ナオ様解説…。とんでもファンタジー設定に、もぅ、ぐぅの字も出ない。
目の前の未知の現象&島の美しさに呆然とあっけにとられる私は、馬車の向かいに座るナオ様の解説を、最早ぼんやりと聞いてるしかない。
「……エマ嬢の想定通りに、ピンチの際にここから逃げ出すとなれば…、最低限この馬車をひいている天馬か、学舎にいる獣魔のどれかを乗りこなせなければなりませんね。"一流の逃げ足"を磨くのは、きっと我々でも一筋縄にはいかないでしょう。これからの訓練が楽しみですね」
「いや、あの、それはちょっと……」
グフッゲフッゴフッ!!!!
ニコニコとナオ様のツッコミがすかさず横から突き刺さってくるが、………いや。まさか空の上とは想定してなかったし、無茶を言ってくれないで欲しい。
天馬や他の獣魔とか……?
あくまで第二師団の皆の協力で、普通の馬のレクチャーを受け始めた私だ。到底たどり着けるとは思えないレベル。
思わず馬車の下に広がる景色を見下ろしてみるのだが……、建物が小さく見えて、めちゃくちゃ高い。
この高さで落ちたとしたら…、私がどうこう頑張って何とか出来る高さでは絶対に無い。
…………かろうじてピンチを想定して考えたとしても、私が出来る事と言えば…………。
精々あの森や林のどこかに身を隠して、助けを待つのがせいぜいだろう。
(…………………後は、炎帝様からもらった鍵を使って逃げるくらい?)
制服の下に身に付けてきたネックレスの鍵を服の上から確認して、どうかそんな危機は絶対におきませんように…!!と、祈る気持ちで息をのむ。
「……おい、そろそろ到着するからな。多少の揺れは覚悟しておけよ」
コンコンコンと、私がのぞきこむ反対側の馬車の窓を叩いたクリス様が、声をかけて知らせてくれる。
出発前に勃発した私との小騒動で、ナオ様に閉め出しと注意を受けた彼は、隊列を率いるため、他の騎士様同様に単独で天馬を操って空を移動していた。
「…………………………あと……、エマ嬢。さっきは悪かった。屋敷では流石にムキに問い詰めすぎた」
そう言って、クリス様はばつが悪そうな顔をしながら言い残し、前方の隊列に戻って行く。
「このままエマ嬢を送り届けてから、隊は学園の警備に配属になる。とりあえずこのまま、学園の入り口まで乗り入れるぞ!!」
「「「了解~!!!」」」
クリス様の声に、部下である第二師団の騎士達面々が、ゆる~く。
でも威勢の良い声で返事を返す。
「さぁ……、アステリア魔法学園にいよいよ着きますね」




