やっと入学 アステリア魔法学園⑩
「す……、すみません。笑ってしまって」
そう言って、ひとしきり笑いをおさめたナオ様は、彼の体をを隠れ蓑に扉の影に縮こまっていた私にむかって優しく手をさしのべてくれた。
「とりあえず行きましょうか。クリス様の事は大丈夫です。相手の嫌がる様子が分かれば、無理矢理話を聞き出すような方ではありませんし、私も間に入りますから」
そう柔らかく微笑み、人の上に立つ包容力とは正にこれ…!という安心感を放ちながら、自然と私の手を取って立たせてくれる。
(うーん……。吹き出されて、さっきまで笑われてたんだけどな~……)
それは忘れないぞ!と思っても、私がスカートのホコリを払っている間に、さらりと足元あった荷物をルッソさんに頼んで運んでいってしまっていて…………、
まぁ、いっか。と軽く流せてしまえるのは、ナオ様が優しいのがこういう所で自然と伝わってくるからかもしれない。
「さぁ、エマ嬢はあちらの馬車に乗って頂きます。私も同乗させて頂きますが、クリス様にはちょっとクールダウンに外で皆を率いてもらいましょうか。……それにしても、クリス様をかわすのに上手くあの方の名前を盾に出しましたね。面白い反応してませんでしたか?彼」
「見てる余裕なんか無かったですよ。必死すぎて、逃げ出すのに必死でした。でも、たぶん…。かなりひるまれてたと思います」
「まぁ…、そうでしょうね~…。私達でさえ同じ事を言われたら、辞職願いを出してでも関わるのは避けたいと思ってしまうでしょうし…。変な勘繰りしてしまうのも許してあげてください。立場上、私達なんかよりずっとあの方達に接する機会が多いものですから……」
そう何となく言葉を濁そうとしているナオ様の様子を感じて、私はいっそ良い機会かと、思いきって目の前にぶら下がっていた疑問を投げ掛けてみる。
「ナオ様…。クリス様があそこまで炎帝様達に過剰反応するのは、訳があるんですよね?」
すると質問されたナオ様は、わずかに目を見開いて止まった後、少し困った笑い方をした。
「………………ええ。そうですね。でも、知った所でどうこう出来る話ではありませんし、むしろ知って気まずい思いをするかもしれない類いの話になります。知るのは正直オススメはできませんね」
「………………じゃあ、私はこのまま何も知らない方が良いですか?正直、どこにクリス様の地雷が潜んでいるか分からなくて…。炎帝様とは、野菜ができ次第お譲りする約束もしてますし、きっとこれからも会う可能性が……」
「あぁ、なるほど。それでなんですね。暴君と呼ばれるあの方が、あんな風に自ら人と関わるなんて聞いた事もなくて、皆混乱していたんですよ。エマ嬢の故郷の野菜は今まで見た事もないものばかりでしたし、興味を示されたのでしょうか」
「……え!?見た事がない?」
「そうですよ?エマ嬢の故郷の野菜は全て固有のものばかりで、とても貴重なものです。赤の御方が興味を示されても無理はないかと。…まぁ、料理好きとはさすがに知りませんでしたが……」
「へ、へぇ~……」
(初耳だよっ!!)
内心つっこむ。
それに関しての情報は、なるべく早い段階で知りたかったな……と心で涙を流しつつ、やっぱりダメだ。下手な事は言えない。絶対に墓穴ほる……とも再認識もさせられる。
(でも、まさかの野菜自体が珍品だなんて……、根本的に大丈夫なのだろうか?私。大量生産して流通しまくる気満々だったけれど……)
そんな不安が新たに誕生し、歩きながら悩みのるつぼである。
「さぁ、乗ってください。今回の馬車は公爵家の物ですから、旅の時とは違って乗り心地が良いですよ。衝撃緩和の魔法もかかってますし、乗り物酔いも少ないはずです。多少の浮遊感にもバッチリ対応してありますよ」
「ははは~。とうとうこの時が来たか。エマ嬢。高い所苦手だったら、空だけ見てろよ~?下をみてなきゃいつかは着くからな~。空の上で襲撃がない限り落ちる事はないはずだぜ?」
「おいおい、大げさだろ。俺達もついているし大丈夫さ。まぁ、あえて言わせてもらうなら、エマ嬢もそのうち馬でも空を飛べるようにならないとな。ほら、逃げ足を鍛えるために。馬に乗る筋は悪くはないから、鍛えがいが有りそうだよな~」
馬車に着き、立派な青銀の扉を開けられ、ナオ様に中に乗る様促される。
馬車の中は青銀の美しい外装に合わせて、品の良い高級そうな黄土色の座席と、シンプルで明るい内装…。
ちょっとだけ地中海リゾート……という文字が頭の中にかすむ様な、そんな美しい空間が目に飛び込んでくる。
こんな物に乗っていいのか!?と思わず頭が真っ白になりかけるが、直前に聞いたナオ様や騎士様達の不穏な言葉…。それが不自然に耳に引っ掛かって残っていた。
(………………彼らはさっき、何て言ってた?)
「…………………………空を…、飛ぶ?」
周りを見回すと、ようやく心配事で一杯だった私の頭の中に周りの景色が映し出されて、騎士様達の乗る馬や馬車に繋がれている馬が、いつもと違う事に気付かされる。
白も、黒も、茶色の馬にも………………、馬の背中に羽がはえている。
「そうですよ。アステリア魔法学園は空の上に浮かんでいますからね。魔法もしっかりとかけられてますし、外に出なければ落ちませんし。安心して乗っててくださいね」
………………………………ザ・ファンタジー…………。
私はこの日、初めて天馬……。ペガサスなるものを初めて見た。
私がこれらに乗る訓練……?冗談でしょう。
とんでもない所に学園を作ってくれたな。
私は遠い目でフリーズしつつ……………、そんな事を考えていた。




