やっと入学 アステリア魔法学園⑨
クリス様の鋭い指摘に、「だ、大丈夫ですよ~……」なんて簡単に言い切れない所が痛い。
隠している事があるか否かと聞かれれば…………、確かにがっつりある!!
だけどクリス様といえど、「実は生前の異世界の記憶があるんですよね~」……なんて突拍子も無い話…。黙っておくべきだろう。
散々お世話にもなってるし、クリス様は信頼にたる方だと分かってはいるけれど…。
下手な混乱や、騒ぎに巻き込みたくないのだ。
クリス様には、この国での確固たる地位と血筋と騎士団での仕事と……、今まで積み重ねた日々の生活がある。
(バ、バレて、学園で魔法実験のモルモットにもなりたくないし……)
どうしよう。私はどんな言葉を返せば良いのだ。
頭は真っ白。目の前はホワイトアウト状態だ。
「か…」
「か?」
クリス様は私の言葉を繰り返し、左斜め頭上から冷たい視線が突き刺さる。
厨房に入る時と同じ状態…。私は視線だけを再びグギギギと上げて、クリス様からの至近距離の圧に心臓はドクバクだ。
「……………隠し事なんて、して…ないです……。無いですけど…………………、」
「………無いですけど?」
「き、聞きたい事があったら………………………………、全部炎帝様に確認してください……っ!!」
「!!?」
私は全ての責任を炎帝様に丸投げした。
そのまま全力ダッシュで、一気に駆け出す。
(ご、ごめんなさい。クリス様……………!!)
保身の為、クリス様の鬼門であり、弱点である炎帝様を盾にかざしてしまった自分を、どうか許して欲しい。
走りながら…、昔の少女漫画さながら光る涙を後に残し、部屋に戻った私は自己嫌悪と共に残った荷支度を終わらせた。
そして気まずい空気を恐れながらも時間になってしまい、重い荷物を持って外に向かうと……、入口の外玄関で、騎士様方と準備を進めるナオ様と鉢合わせた。
公爵邸の合宿中、ナオ様も他の騎士様同様に公爵邸に泊まる日もあったのだが、昨日はご実家の子爵家に戻っていたのだ。
「おはようございます。エマ嬢。……………?何かあったんですか?」
「ナ、ナオ様…。良い所に……。クリス様…、もう来られてますか?」
「あちらで荷物の最終の点検をしてますよ。どうしたんです?」
心配したナオ様が近づいて聞いてきてくれるが、クリス様がいるのか気になって私は外に出られない…。
こそ泥さながら、扉に身を隠して外をうかがう私にナオ様は察したのか。
慣れた動作でクリス様のいる方角に立ちふさがり、視界を自分で遮ってこっそりと聞き返してくれる。
「……どうしたんです?エマ嬢。訳を話してください」
「ナ…、ナオ様っ……。実は…………」
目の前の優しさにウルリと視界を歪ませながら、私は厨房であったクリス様との攻防の事を、こっそりとナオ様に伝えた…。
「…………………ブッ!」
……だけど笑われた。
…………何だろう?
この何度も味わった感のあるデジャヴ感は……。
ナオ様は笑いを押さえ込むのに失敗して、なおもハハ…ッ。ククク…と腹を押さえ、しゃがみこんでいる。
「何、二人で楽しそうにしゃがみこんでるんすか?クリス団長が、もう出発するって二人を呼んでますよー?」
隊列の方から、今日もあっけらかんとしたルッソさんの声が、もう行く準備ができた事を教えてくれる。




