緊急会議その③
「………生きている?」
私は村長の言葉に耳を疑う。
「冗談でしょう?だって、さっき村長は五百年前の話って…、いやいやいやいや。ないないないない!」
人生五十年。
医療の発達していない私達の村の平均年齢はそんな感じだ。
なのに…。
「ないないないない。やっぱりないないないない」
そんなミイラ、いてたまるか。
私は村長の言葉を全否定する。
………しかし、村長はゆっくりと私を諭すように話始める。
「……なぜ、そう言い切れるのじゃ?エマ。隣の国は、我々の想像も及ばない未知の力を許され、それを操る者達の国じゃぞ…?それにさっき、領主の話にも出てきていたじゃろう?白の魔導師と炎帝と。隣の国で白と炎と言えば、あの二人の事を示すのじゃ。そして、特別措置特待生とは魔法学園に在籍する彼らの今の立ち位置じゃな。彼らを繋ぎ止めるため、国が魔法学園に用意した特別な枠組み…。あらゆる贅沢が許され、権限と自由、そしてそれらは王でさえ手出しが難しいという…」
その話を聞いて、私は目を見開く。
「…………。えー…。それはつまり、本当に五百年前のど偉い魔法使いの王様が今も生きていて…、それが例の魔法学園に在籍していて、特別措置特待生になってて、…………そんな規格外の特別な枠の話が、今何故か私に来ている………?」
村長から聞いたばかりの話を口でたどたどしく整理してみたものの、次から次へもたらされる現実離れした情報にいよいよ私もめまいがしてきた。
よくはわからない…。
事の詳細は、今もよくわからない。
でも、さすがの私も、村長が何が言いたいかは何となく察せた。
不安になって、思わず隣の両親の顔をみる。
二人の顔が真っ青だ。
私達の話を聞いていたご意見番の方々も、顔が土気色になっている。
やばい。やばすぎる…。
ガルアなんかには任せてられない。
そう悟ったエマを含め村人サイドは、この後。領主様の制止も聞かず、決死の反対運動に打って出る。
いかに、エマがごく普通の田舎娘か。
生まれて育ってから事細かな詳細まで、両親、友人、知人、隣人。
ありとあらゆる角度から村人総出で騎士達に語り尽くして、訴えかけた。
おかげで夕方になる頃には騎士達全員が、"エママイスター"と言っても良いほどエマを知り尽くすはめとなっていた。
それが結果的に、エマの初恋や、おねしょをしていたちっちゃい頃の苦い話。
嘘をついておしりをたたかれ、怒って森にたてこもろうとしたら迷って二日間村人総出で大捜索をしたことなど…。
結果。
知られたくない話も全部知られ、必要ないキズを負い、大切な何かを失いまくった彼女が結局それらで得られたものがあったのかと聞かれたら……、
正直、そっと目を背けるしかないと思う…。