やっと入学 アステリア魔法学園⑤
「……というか、父上は母上のあの張り切り様を見て、複雑だったりしないの?夫としてさ」
ユース様はそう言って、率直な疑問を自分の父親であるヴィード公爵に投げ掛ける。
「もちろん、父上と母上の"ラブフォーエバー伝説"は皆周知の事実だけど……。でも初恋の相手を前に愛する妻のあのテンションの上がり様見ちゃったら、普通一悶着の一つや二つあるもんじゃないのかな?」
すると、ちょうど近くでトルックを配っていたイザベラ様が、手に持っていたトングでスパコーンと勢い良くユース様の頭をはたき倒した。
「何、馬鹿なこと言ってるのよ!!このバカ息子はっ!!この人がそんなちっちゃい事で焼き餅焼く訳が無いでしょう!?生、憎っ、私達は、そんなペラッペラなつながりじゃないから、ご心配なくっ!!」
そう言って、トングを武器に、イザベラ様がハッキリと高らかに宣言する。
……………………というか、彼女の中で何かのスイッチを入れてしまったのだろうか?
彼女の両目がメラメラ…。後ろにはどす黒いオーラが燃え上がって見える気さえする。
ビシリとトングをユース様の目の前に付き出したイザベラ様は、怒り心頭という感じに言葉を続ける。
「い~い?バカ息子!!よぉく聞きなさい。第一にこの人はねぇ……、思い出すだけでも憎たらしいけど、かつて王族だった私と、血肉を撒き散らすくらいえげつなく争った…自他共に認める"炎の君の熱烈ファン"…。誰もがその執着におびえた、"超絶ベビー級マニア"。【王狂いの悪魔公爵】なのよっ!!!!!その時のお互いを、もう嫌というほど見てるんだから、今なんて鼻で笑って片腹痛いくらいよっ!!!!」
「「「えっ……!?」」」
思いもよらないイザベラ様の言葉に、ユース様はもちろん、私もクリス様も驚いて声を上げる。
思わず三人でいっせいに公爵様を見てしまうが………、さすがだ。
公爵様は動じること無く不敵な笑みでドヤ顔だ。
「………………まぁ、この人の場合。炎の君以外に白の君に対しても熱狂的なマニアなんだけどね…。私は炎の君一筋だったけど……、追っかける場所、追っかける場所、全っ部この人が横取り!!邪魔取り!!!良い所取りして………っ!!!!」
「フッフッフッ……。若気のいたりさ。誰だって憧れの存在には近づきたい、気に入られたいって思うものだろう?それに、そのお陰で君と熾烈なバトルを繰り返して、私だけが知る君の魅力に気付く事ができた。私としては、結果オーライ。ハッピーライフ、フォーエバーだ」
私達の視線をものともせず難なくそう言ってのける公爵様は、動じることなくさらりと愛の言葉もぶちかましてくる。
(確かに……、この公爵様なら何かスゴい事をしでかしてそうだよね……)
そう思ったのは、きっと私だけじゃなくクリス様もユース様もきっと同じだったと思う…。
「ほら!!下らないこと話していないで早く食べなさい。エマ様は入学式。クリスはその警備を任されているんだから、おちおちゆっくりできないでしょう?ユースだって、宰相補佐官が何いつまでだらだらしてるの!!はいっ。皆二個ずつね!」
そう言って、イザベラ様はそれぞれの皿に焼きたてのパン。この国で人気大定番の、焼きたてトルックを配ってくれる。
「さぁ、他の皆も遠慮なく食べるのよ~‼」
そう言って、そのまま他の騎士様や使用人の人達にも、手製のトルックをどんどん配っていく。
「……………母上の言う通りだ。母上はまだ時間がかかるだろうし、先に食べてしまおう。初日に遅刻はさすがに痛すぎる」
「そうだね。じゃあ、いただこうか」
クリス様の言葉を皮切りに、私達はイザベラが配り終えるのを待つことなく、先に朝食をいただく事にする。
他の皆もトルックを受けとると、それぞれイザベラ様たちにお礼をのべ、美味しそうに食べ始めていた。
私はその様子を見て、すごいな~……と思いながら、食べる前に手を合わせる。
本当なら、この屋敷の女主人より先に食事をいただくなんて、現実的に考えられない事だと思う。
……しかし他のお屋敷だと考えられない事も、ここではけっこう有りな事も多い。
もう慣れてきてはいるけれど…、公爵邸はこういう風に良い意味でおおらかな部分が多くて、本当に感心してしまっている。
そんなおおらかな気風の中でも、屋敷の使用人の人達は全員とても礼儀正しいし、お客人が来た際は、ビシリと公の対応を臨機応変。さらっとやってのける有能な人達だ。
「……いただきます」
そう言って、私はまずスープを一口飲んで口を潤した後、焼きたてのトルックちぎって口に放り込む。
「お……、美味しい………!!」
思わず、顔がとろけてしまいそうだ。
毎朝思うのだが、イザベラ様が作るトルックも炎帝様の作ったトルックに負けないくらい、味わい深い優しい美味しさがある…。
「うわぁ…。乾燥ネギとムーア鳥の卵のかき玉スープも、本当に美味しいですね。ネギと鳥肉のうまみがスープにしっかりと出てる…。これも作ったのはイザベラ様でしょうか?料理長かな?」
「うん。本当に美味しいね。確かこのスープに入ってるネギっていうのは、エマ嬢のふるさと原産の野菜なんだっけ?本当に良い味だ。しかも卵をスープに入れてふわふわさせてさ。こんな食べ方、美味しすぎて病みつきになりそうだよ」
微笑みながらユース様はゆっくりとそのスープを味わって、なかなかご満悦な様子だ。
ネギもかき玉スープも大層気に入ってもらえたみたいで、私も嬉しくなってくる。
「今、故郷の皆で少しずつ作る量を増やしている野菜の一つなんですよ。ネギは形は細長いスラッとした野菜なんですが、このスープに入ってるのは日持ちするように干して乾燥させた物でなんです。乾燥じゃない生のネギをスープに入れても、とっても甘くて、また違った深い味が出て美味しいですよ」
「へ~。面白いね。エマ嬢が来て以来、他にも色々見たことない野菜や料理を見るようになったけど……、本当に美味しいし、毎回何食べれるか楽しみなんだよね」
そう話すユース様の言葉に、今度は弟のクリス様が口を開く。
「………エマ嬢が持ってきた食材を、そのままうちのシェフ達に全部譲ってくれたからな。このスープの料理方法も、彼女の故郷の食べ方だそうだ。移動している間にも彼女の手作り料理を色々食べさせてもらったが、どれもうまかった」
「ふ〜ん…。い〜ね~。クリスは役得だったじゃないか。こんなに美味しい食材なら、ぜひうちの領でも作って広めて欲しいなぁ。うちの領は土地だけなら無駄にたくさんあるしさ。どう?父上」
「…………………フッ。無論だ。さっそく彼女の故郷と交渉してみよう…。しかし、今の状況からいって、おそらくエマ嬢の学園での評価次第になるとは思うが……」
「…………………ん?」
(私の評価?)
思いもよらないヴィード家家族のとんとん拍子な話の展開に、私は目が点になる。
「もし国から許可が出て何も問題がないようなら、我が家でエマ嬢の作る農園の資金や資材。諸々全て負担してバックアップしよう。これにはその価値がある」
(………う、嘘でしょ!?)
公爵様の言葉が、ズガーンと私の心臓に雷の如く突き抜けた。
(き………、キターーーーーーーーっ!!!??)




