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炎の魔術師 炎帝ハル・グラヴィス 本名は…、⑫







そう頭の中に炎帝の声が響いて、私は手渡された四つ折りの白い紙を、少し緊張しながらも興味津々、恐る恐る中を開いてみた。




(長い名前って、いったいどういう意味だろう…?幼名って…、昔の小さい子が幼い時につけられた名前の事だったよね?つまりここには炎帝様が成人した後の名前が書いてある……?)




炎帝様自身、農民だった的な事を自分で話してたような気がするけど…。気のせいだったろうか?





…………もっとよく歴史を勉強しておけば良かった。





そんな事を考えながら中の文字に目を向けてみると、そこには立派な筆使いで、さらさらと流れるように美しく記された彼の名前が、松明の光ではっきりと照らし出されていた。





「……………、……っ!??!?」





……………………言葉にならなかった。





私は思わず片手で口を押さえ、ぐらりとよろけてしまう。

体勢を崩す私を見て、隣にいたクリス様やナオ様…。

そして騎士の皆さん達が心配して周りに駆け寄って来てくれる。




「どうしたエマ嬢っ!!?その紙は…あの方から渡されたのか!?…………呪い!?中に呪いの言葉でも書かれていたかっ!!?」




「エマ嬢、いいかっ!!それをゆっくりこちらに渡すんだ!!下手するとそれは炎帝の起爆札の可能性もある。まずは落ち着くんだ。落ち着け~、落ち着け~…」




「そうだ~。ゆ〜っくり。渡すときは、ゆ〜っくりだぞ~……」




そう静かに慌てふためく周囲をよそに、副団長のナオ様が冷静に周りを押さえて落ち着かせてくれる。




「皆さん、一定の距離をとって離れていてください。迂闊に近づいてはいけませんよ。私とクリス様で対応します。…エマ嬢。大丈夫ですか?中には何が書かれて…」




「ナオ。お前も距離をとれ。あの方の魔法だったら、ただの防御壁で到底防げる訳がない。今からでも魔方式を組んで、不完全でもいいから最上級をいつでも打てるように備えてろ」




そう言って、クリス様はナオ様を自分の後ろに押し退けて、ゆっくり数歩前に出てくる。




私の方といえば、正直ちょっとだけよろけてしまっただけなのだが、想定外の厳戒体勢に、ただただ驚くしかない。




「いえいえいえいえっ!!全然そんなんじゃないんです!!本当にただのメモで…、書かれていた内容にちょっとだけ驚いてしまっただけなんです。本当に、何でもないんです!!」




「……………………大分よろけたように見えたが」





「な、内容が……、…………………ワンダフル…、…で……?」






………書かれていた物のショックで、まだ頭が真っ白な私は、気がつけばバカ正直に思ったままを口に出してしまっていた。





(………落ち着け。

大丈夫…。まずは一呼吸つくのが先だ)





そう自分に言い訳しながらも、正直パニくるのも仕方がないんじゃないかと思ってしまう。





炎帝様に渡された紙には、私の想像していた時よりも、ずっとずっと立派な雄々しい名前が書かれていたのだ。







【松原 五郎左衛門 春信】








「これ……、絶対に農民の名前じゃないよね………………」









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