炎の魔術師 炎帝ハル・グラヴィス 本名は…、⑩
「……受けた方が良い授業は俺がリストアップしておく。ウイルス・デトロスキーとハイネ・ベンツナーの授業も必須だろう。魔法薬学も魔法自然学も扱う素材が魔に属しているだけで、何ら学ぶ内容の質に損はない…。お前を今護衛しているはどこの隊だ?」
「え…!?あぁ…。クリス様が団長の、第二師団の皆さんです。皆さんとても良い方々で…」
「第二師団のクリスといえば、現王…。確か王弟の一人息子だったな。……まぁ、人選としては悪くはないのか」
「……ん?………おう…?」
「ヴィート公爵家が後見につくなら、文句はないな…。さぁ、行くぞ」
「は…!?いゃ、今、王とか言いました!?王弟!?一人息子って…!!?」
「黙っていろ。転移する」
そう言って、炎帝様は勢いよく右手で前方を振り払うと、辺りに炎を帯びた激しい気流が吹きすさんだ。
そして今度はその手を上に向かって勢いよく振り上げたかと思うと、火の渦と共にそこはもう、全く別の景色が広がっていた。
(あ、足先に地面の感覚が全くない……)
それもそのはず…。
一瞬で転移したその先は、私が元いた荒れ地…。第二師団の隊列のすぐ上の空だった。
荒れ地を離れたのはお昼辺りだった気がするけれど、周りは既に暗くなり始めていて…、星が綺麗な夕闇の中だ。
空からは真っ黒な大地に、ぽっかりと第二師団の灯りが浮き出て見えていた。
そして隊を離れた所に、ポツ、ポツ、と点のような松明の火が、荒れ地の闇の中に広範囲にいくつも散らばって見えている。
………それが私を探す第二師団の人達の灯りだとすぐにわかって、私は自分の軽率さとバカさ加減に一気に胸が押し潰されそうな感覚におちいり、思わず何かに頭を打ち付けたくなってくる。
すぐ帰ってくるつもりだったのに、ここまで迷惑をかけてしまって……、考えが甘すぎたのだ。
私は目の前の現実に、申し訳なさでどう彼らに詫びるべきか、それだけで頭がいっぱいになる。
その間にも炎の渦は周りをぐるぐる激しく吹きすさびながら、ゆっくりと私達を地上へと下ろしていく。
「団っ長ぉーーーーっ!!!!頭上に火の玉出現ーっ!!!人影が一緒に降りてきますーっ!!!!」
「んっ!?あれ、嬢ちゃんじゃないかっ!?火の玉の中に嬢ちゃんがいるぞっ!?男と一緒だ!!」
騎士様方が私と炎帝様に気付いてそれぞれ声をあげる中、
最後の方に私の名前を呼んだ声は、隊を離れる直前に話をしていた自称色男のルッソさんだ。
「エーーーマーーー嬢ーーーーーーーーーーっ!!!!!」
隊の荷馬車の方から、ガッシャガシャ、ガッシャガシャと、必死な様子で走ってくる姿が見える。
「何でそんな所にいるんだーーーーーーっ!!!!心っ配したんだぞーーーーーーーーっ!!!!」
半泣き混じりの力一杯の叫び声に、どれだけルッソさんが心配して探してくれていたかが伝わってくる。
きっと……、物凄く怒られたりもしたはずだ。
私ももう、泣きそうだ。
「ルッソさーーーーーん!!ごめんなさーーーいっ!!!すぐ戻るつもりだったのっ!!!心配かけてっ、ごめんなさーーーーーーーいっ!!!」
だんだん近くなる距離に、私は力一杯空の上から声を張り上げた。
走り集まってくる騎士の人達の中に、クリス様とナオ様の姿も見えた。
険しい顔で腰にかけていた剣に手をまわしていたクリス様の動きが、何かの拍子にいきなりビキリと止まった。
綺麗なスカイブルーの瞳が大きく見開かれ、彼の驚いても美しい顔が、ゆらゆらと松明の灯りに照らし出されている…。
ナオ様の方も、何か思いがけないものを見たかのように、呆けた表情でぽかぁんとこちらを見上げていた。
「………魔法の一発二発、反射的に打ってくると思っていたんだが……。今の魔法騎士達は、えらく平和主義なようだ」
そう言って、炎帝様はパチンと指をならすと、空に浮かぶ私達の足元に、綺麗な緑色の魔方陣が広がった。
すると、どういう仕組だろうか。
炎帝様の言葉が…………、頭の中に直接響くように聞こえるようになったのだ…………!!
『お前達……。黙って聞け』
彼が話し始めた途端…。
私もびっくりで思わず炎帝様を見返してしまったが、騎士の皆さん方もいったい何事かと騒然としている。
『……いいか。エマ・ブランドン嬢は、今この時より我…、"炎帝"ハル・グラヴィスの庇護下に置く。必ず無事に学園まで送り届けろ。………でなくば、王都もろとも国全てを焼き尽くしてやる。平民、貴族、王族…、例外は一切無しだ。分かったな』
(ーーーーーーーーっ!!!?)




