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炎の魔術師 炎帝ハル・グラヴィス 本名は…、⑨



その後……。炎帝様は静かにお茶を飲むだけで、それ以上その事について語るつもりは無いようだった。





そうなんですね。とか、気をつけます。なんて言いながら、口数の無くなったその時間と空間をしのいでみたりもするけれども…、




結局は大人しくティーカップや芋羊羮に手をのばす事に落ち着く…。





私にしてみれば意地でも食い下がって詳しい事情を確認した方が良いのだろうけど…、物憂げに目の前で考え込む炎帝様の雰囲気に、何となくそれははばかられた。





私がお茶を飲み終えてカップをテーブルに置くと、その様子を見計らった炎帝様は、元いた場所まで送ろうと言って立ち上がる。





彼が右手を軽くふいっと振ると、広場の右奥に置かれていた戸棚がひとりでにパカッと開いて、茶菓子に出されていた残りと思われる、皿に乗った芋羊羮が宙に浮かび上がった。





そして皿から芋羊羮だけがフワフワ浮かびながらこちらに移動して来るのだが、羊羮はその間にも笹のような葉にくるりと包まれ、朱色の紐できゅっと蝶々結びに綺麗に括られる。





極めつけに洒落た淡い藤色の風呂敷も飛んできて、羊羮の包みををふわりと包みあげるのだが…、





私の前に届く頃には、周りに咲いていた可愛らしい草花も一輪、ちょこんと結び目の所に添えられていた。





(か、可愛いっ……!!!!)





ふわふわ飛んできた羊羮の包みを両手で受け取り、その可愛らしくて趣味の良いセンスに、炎帝様の計り知れない潜在能力を見た気がして………、

自他共に認める女子力皆無の私は、立つ瀬もなくて恐れおののく…。




片手でやってのけた魔法も不思議で興味深かったけれど…、こっちの方が断然衝撃的だ。





(こんな綺麗なもの、私が受け取っても良いのだろうか………!?)





「……今あるのはその分だけだが、持っていって食べるといい。あと、お前の方は他にも聞きたい事があるだろうが、まずこちらの世界を一通り知ってからの話だ。学園長の坊主には不都合無いよう話しておくから、お前は他の生徒と同様に全ての授業を受けろ。座学もだが、実技も見れるだけ見ておいた方がいい…。分かったな?」




「えっ!?」




いきなり思ってもいなかった想定外の話を切り出され、私は耳を疑う。




「で、でも私、野菜だけ作りにいくって話じゃ…」




「……………魔法が成り立つ世界で、その一面の何も知らずにどう生きていくつもりだ。身を守るにしても現状を正しく把握するにも、何も知りませんでしたで何が判断できる?……お前の生前の記憶と、田舎はずれの知識で全てを乗りきれると思うのか」




「い、いや……、それは確かに、ごもっともですけど……」





「だったら有無を言わずに授業を受けろ。畑ばっかり耕していないで、寝る間も惜しんで勉強するんだ」





「え、えぇぇぇぇ…………?」






拒否権の無い決定事項に、私はあんぐり口を開ける。




勉強は元よりするつもりではあったけれど、まさかの課題の追加でハードルを一気にあげられ、最早驚きしかない。




………………文字も怪しいのに、魔法の授業なんて受けても理解できるのだろうか??




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