炎の魔術師 炎帝ハル・グラヴィス 本名は…、⑦
「ジャガイモと唐辛子…、葉物も…。薬味もあると嬉しいのだが、果実は植えるのか?」
「大丈夫ですよ。その辺りも植えようとは思っていました。果物もご希望があれば育てますよ。まぁ、場所があればなんですが……。最初は一般的に受けの良いラインナップになるかとは思います」
【おお…!それでは兄者のなんちゃって再現料理が、より本物に近い味で食べれるのか…!!それは良い。兄者も嬉しかろうが、我らも楽しみがより増える。なぁ、兄弟】
【そうだなぁ、兄弟。獲物をそのまま食すより、手を加えるとまた違う味が楽しめるとなれば、食す楽しみが断然違ってくるからな!!我らも狩りのしがいがあるというものだ。兄者が存分に腕をふれるよう、我らも久々に大物を狩りに行くか…!!】
それは良い。それは良い。
そう言いながら、背後の巨大な生き物達は、牙をニヤリと覗かせながら、それはたまらない話だとしたり顔だ。
その様子からしても間違いないと思うのだが、彼らはきっと想像もつかないくらい大食漢なのだろう。
(この二匹を食べさせるとなると、いったいどれくらいの量になるのかなぁ…?)
獲ってくる獲物も大きそうだから、主に肉料理になるんだろうけど…。薬味類も色んな種類を用意出来たらきっともっと喜んで貰えるかな…などなど、彼らの様子を見ながら私は思っていた。
まぁ…、学園に行ってみないとどのくらいのスペースでやらせともらえるかは分からないけれど、とりあえず下がりっぱなしだった私のモチベーションの方も、彼らのお陰で徐々に上がりつつあった。
やっぱり、美味しく使って食べてもらえてこその畑仕事。野菜作りである。
それによって、やる気も気力も断然違ってくるのだ。
そして目の前の炎帝様の方はというと…、鬼気迫る感じで何やら先程からブツブツずっと言われている。
どうやら料理のレパートリーが炸裂いているみたいだ。
頭の中で、やりたい事と手順と過程と計画が、次々組み上げられているらしい。
【良かったなぁ、兄者。学園長の小僧から娘の野菜を見せられて、そわそわ落ち着かなかったのは、我らが端から見ててもまる分かりだったからな。娘。同郷の人間には殊更に優しい兄者だが、わざわざここまで手を貸すことは珍しい事だぞ。主が持つ幸運と、自分でこれまでやってきた事に感謝するのだな。兄者自ら国宝級の鍵まで作ってやるとはなぁ…】
【全くだ。ちなみにそのペットなんやらに入っているこの場所の水も、いわゆるこの世界では聖水と言われる物に近いものだ。ただの水と違って、傷は治せなくとも邪気や邪なものは大抵清められる…。まぁ、ぬしの育てる野菜にはこの世の理など関係ないのかもしれぬが、その水を地面にまけば、一時的でもその地の汚れが流されるだろう。多少でも作物の育ちは良くなるはなるだろうて…】
「!?そうなんですか!?」
道中の飲み水にと渡された物のはずだが、私は思わずもらったペットボトルの中の水をじっと見てしまう。
これが聖水に近いもの…?
ただの水にしか見えないけれど、この水にそんな力があるのだろうか。
「……というか、国宝級って………!?それだったら、完全に私が持つべきものではないですよね…?さすがにまずくないですか…」
【心配するな。それは兄者の手製の物だ。兄者が作ったものに他人がどうこう言う権利はない】
【そうだ。そうだ。作りたてだから誰にも認知されておらぬし、何ら問題ない。言わねば誰にも分からぬし、作った本人の兄者がぬしの為に作ったのだから、持っていて当たり前だ。黙って持っていればよい】
私の戸惑いなどよそに、巨大な二匹の様子は飄々としたものだ。
【兄者は基本、人間嫌いで人間不信だ。他人にわざわざ魔法具は作ってやらぬし、他人が易々使えるような次元の魔法具も作らぬ。加えて持ち主以外がその鍵を使えば、腕はふっとび、扉は魔の次元につながる仕様にもなっているぞ。防犯付きだ。他の者には使わせないよう、それだけは気を付ける事だな】
「え、えぇえぇえぇ~…………」
鍵をくれた本人をよそに、親切な巨大な彼の弟達が衝撃的な情報を小ネタで叩き込んでくる。
さっき渡された時はそんな事、一言も言っていなかった気がするが、むしろその情報は最初の方に知っておかなければならない重要項目ではないのかと思う。
【ちなみに兄者は、裁縫も物作りも上手だ】
【いつでも嫁に行ける】
「…………………。へぇ…」
………これは何の情報だろうか。
反応の仕方がわからなくて、とりあえず相づちだけ打ってみる。
もしかすると、彼らは人間の何らかの情報を勘違いして理解している事もあるのかもしれない。
話によっては耳半分に聞いておくのも大事な事なのか。




