炎の魔術師 炎帝ハル・グラヴィス 本名は…、⑥
でも、私はその時ふと思い至った。
………クリス様やナオ様も、ばっちり炎帝様と似たようなことを言っていたではないか…。
生け贄とか、実験の被検体とか、etc、etc…。
聞いた瞬間、この世界怖すぎると震撼したのだけれど、元いた世界の歴史にも、悲しいかな物騒な話はいくらでも出てくるし、どこの世界もそれに関しては同じという事なのだろうか…?
それにしても、どれだけ物騒なんだっ!!今から向かう学園は!!!
想定していた逃げ足くらいで、果たして私は生き残る事は出来るんだろうか……。
「ば、ばれると狙われるんですか…?転生って言っても記憶がある以外に私、特に何にも出来ませんよ?現に野菜作るくらいしか取り柄もないし、周りの普通の人と全然変わらないと思うんですが…」
「お前の表面上を見ればな。だがやってることが既に特異だ。お前は自分が本当に周りと何も変わりがないと思っているのか?…そろそろ自分で気づいている事も多少はあると思うんだが」
「…………えっと…それは…、う、う~ん……」
……それは、私がつい数刻前に知った、この世界の食料事情の事を言っているのだろうか…?
『いったいどういう事なんでしょうね…?』
炎帝様に問われて戸惑う頭に、馬車の中でのナオ様の問いが重なる。
(…………………知らない。)
それしか言えない。
本当にわからないのだ。
私の中の常識のものさしは、"生まれ育った故郷の村"と、生前に持ち合わせていた"当たり前"で成り立っていた。
だから今も私はどう答えるべきなのか、わからないでいる。
私の中で、判断に照らし合わせる情報があまりにも少なすぎるからだ。
まるで先の見えない濃霧の中で尋問を受けているようなもので、苦しくてたまらない。
(つまり、まだまだ勉強不足…って事なんだよね。たぶん……)
「…………………、もし…、私が的外れな行動をして、周りに変な違和感を与えてしまっても、絶対に迂闊なことはしゃべりません。何かあったら、辺境の村独特の固有のもので押しきります」
長い沈黙の末に出した私の答えに、炎帝様は一息ついて持っていたカップをテーブルに置く。
「…それが懸命だろうな。お前が当たり前だと思っている事でも、それが良い意味でも悪い意味でも、何の引き金になって末にどんな結果を招くかわからん。過去に転生者や異世界人を巡って争い事が起こってきたのも事実だ。充分自覚して用心しろ」
「………わかりました。ありがとうございます」
私は炎帝様に向かって、深く頭を下げて礼を言う。
本当にありがたい忠告をしてもらったと思う。
このまま知らないまま学園に行っていたら、いったい私はどんな振る舞いをしていたんだろう?
…………想像しただけで、あまり良い結果でない事だけは何となく察せられる。
「学園では、炎帝様にはお会いできますか?」
「………。あぁ、…。気が向けばいる事もあるだろうが…、何だ?」
「いらした時はぜひ、私が作った野菜を持っていって下さいね。炎帝様はもしかしたら既にご存じかもしれませんが、あいにく私は農作業しか取り柄がなくて…。学園でも魔法が使えないのに、何故かそれだけをするようにと言われているんです。初めは、何でまた魔法も使えない私が……? って思ってたんですが、今ので何となく察せました。炎帝様はお料理お得意みたいですし、学園で野菜が育ったら、良ければとりたい放題畑から持っていって下さい。今回のお礼です」
そう言って、私は再びありがとうございますと炎帝様に向かって頭を下げる。
こんな事でしか感謝の気持ちを表せないけれど、目の前の王様は、話で聞いていたよりずっとずっと優しかった。
………むしろ優しすぎるくらいだと思う。
(彼は、同郷の人達を見つけるたびに、こうやって手を差しのべているのだろうか…?)
何にも知らないで、ある日いきなり違う世界で生きていくことを強いられた人がいたとしたら…、彼の存在は耐え難くありがたいものだと思う。
もしかすると……、炎帝様も過去に苦労されたのかな…?
そんな事を考えながら頭を上げると、ポツリと炎帝様の口から言葉がこぼれた。
「………サツマイモは作るか?」
「ご希望とあらば作りますよ。あと場所を確保して作れるなら、トマトとキュウリとナスとピーマンとキャベツと………」




