緊急会議その①
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「何でだよ!?意味がわからねぇ!!」
丘の上の立派な建物から、子供のけたたましい抗議の声が響き渡る。
「何で魔法が使えないエマが魔法学園に、しかも遠く離れた隣の国のどえらい学校に行かなきゃいけないんだよ!?こんなド田舎で育ってきた俺たち農民は、学校さえまともに行ったこと無いんだぞ!?意味わかんねぇよ!!」
「……………そうです。ガルアの言う通りだ。一体何がどうなってそんな暴挙に至ったのです?しかもアステリア魔法学園といえば、私も聞き覚えがある程大陸でも最高峰の学園のはずです。王公貴族関係なく、魔法のスペシャリストだけが集められるという所にエマ一人放り込めと?エマがそこでどういう扱いを受けるのか、誰が考えても火を見るより明らかでしょう!!いくらなんでも、私共もそうやすやすとは受け入れられるものではありません!!」
そう矢継ぎ早に私を援護してくれるのは、幼なじみのガルアと領主様だ。
あの早朝の予想もできようもない大事件からあまりに事が急すぎると、騒ぎを聞き付けたご近所さん達が領主様に知らせてくれたのだ。
状況をのみこめない私達に、まずは話し合いの場が必要だと領主様を始め村長とうちの両親…。
そして村のご意見番の方々と、幼なじみ枠で無理やりガルアも参加して、領主様のお屋敷で騎士様方を交え緊急会議が行われていた。
何より、学がなく、お偉方の事なんてさっぱりわからない自分達には、領主様の存在はありがたいなんてもんじゃない。
人柄といい、正直この国の王様より尊敬している。
領主様がいれば、この奇っ怪な展開をどうにかしてくれるかもしれない。そう思いながら私達は向かいに座る騎士様方に視線を向ける。
たとえ命令に従わないといけないにしても、理由がわからないことには納得がいかない。
こちらだって、こちらの都合があるのだ。しっかり、話は聞かせてもらおうと思う。
「理由…か。確かにそちらの言い分はもっともだと思いますが、我々も上の方からの指示で残念ながら詳細は知らされておりません。聞かされているのは、エマ嬢を特別措置特待生で学園にお迎えするという事でしょうか。国家間の問題で言えば、この国の王からも許可は既に得てあります。書類はこれです。そしてこちらは正式な入学命令通知。マルスの国王陛下からの親書もこちらに」
そう言って、金髪の騎士様は三枚の書類を目の前に広げる。
書類にはどれも流麗な文字がぎっしりと書き詰められ、最後には立派な印が押されている。
紙自体もとても高そうだ。あんな良質の紙、なかなか見たことがない。
領主様はその書類をおもむろに手に取ってじっくりと内容に目を通すと、丁寧に一枚一枚元の場所に戻していく。
読み進めるほど、信じられないとばかりに表情が固くなる領主様の様子に、私を含め、周りの皆の空気も緊張を隠せない。
最後の魔法学園の命令通知書の書類を読み終えると、領主様は困惑したように、顔を手で覆うようにして話し始める。困惑の混じった深いため息が、その深刻さを表していた。
「……………あなた方は正気なのか?ここには、魔法の勉強はしなくていい。ただ魔法学園の土地で、野菜をひたすら作るだけでいいと書いてあるように見えますが……」
「そのようですね。我々もそう伺っております」
「加えて、先程もおっしゃられていましたが、特別措置特待生とありますが…。私の覚え違いでなければ、かの"炎帝"と"白の魔導師"も同列な扱いであったかのように記憶しているのですが……、これは、かの方々と同じ特別措置特待生なのですか……?」
「…………だと思われますね。なぜでしょうね?我々にもさっぱりわかりません。理由を聞くのであれば、アステリア魔法学園の上の方に直接問い合わせてください。正直、私は恐ろしくて聞く気も起きません」
「「 …………………。 」」
いやいやいやいや。
迎えに来ておいてそれはないんじゃないか?
私は領主様の様子と金髪の騎士様の投げやりな対応にかなりの不安を覚える。
私、そんな人たちに正直ついていきたくない……です。