炎の魔術師 炎帝ハル・グラヴィス 本名は…、②
美味しすぎて、私は目玉がこぼれ落ちそうになるくらい目を見開いた。
手がすかさず、もう一切れ芋羊羮を口に放り込む。
(何これ!?めちゃくちゃ美味しいよ!!苦手な砂糖の甘ったるさもないし、芋を固めただけでこの美味しさ!!?)
ドンガラガラガラビッシャーン!!!
あまりに衝撃的で、私の中に特大の稲妻がほとばしる。
芋の自然な旨味が美味しすぎて、正直、もし樽があったらそれに入れて山ほど食べたい………………!!!!
私の中に潜む、かつてあちらの世界でつちかわれたおデブの欲望…。それがユラリと目を覚醒してしまうほどの衝撃的美味。
私はうち震える感動と欲望に瞳を潤ませ、これを提供してくれた本人を見つめてしまう。
これを作ったレシピを…、とまでは言えない。
せめて…、せめてこれを作った菓子職人を私に紹介してくれないだろうか。できるなら、お土産で持って帰れる時に故郷の皆に食べさせてあげたい。
「…………、気に入ったのなら土産に持たせてやる。そんな顔で固まるな。飢えた捕食者みたいな顔になっているぞ」
「捕食者!?」
そこまで必死な形相だっただろうか。ハッとして私は慌てて手で顔を覆う。いけない…。目が血走っていたか。
というかそんな事より、
「いやいやいや。そこまで甘えられませんよ。ただ、もし良ければこれを作った方を紹介してもらえないかと思ってしまって…。こんなに美味しい芋羊羮、神がかりすぎてて感動が………」
止まりません。私がそう言葉を続けようとしていると、相手から発せられた言葉は、なんと完全に私の想定外のものだった。
「…………趣味の延長線だぞ。大袈裟過ぎる」
「え?」
心なしか、無愛想に見える男の頬がほんのり桃色になって見えなくもない。
「……それを作ったのは俺だ。他の転生者や運悪く流された異世界人から長年少しずつ作り方を聞いて覚えた。多少俺の手も加えてはいるが……」
「…え!?」
私は思考がうまく回らなくて、目の前の残りわずかな芋羊羮と、向かいに相対して座る黒い軍服の美しい男を何度も見比べてしまう。
「作った?これを…?貴方が……?」
「だからそう言っているだろう。何か不都合でもあるのか」
「……………………天才…!?」
「……………………何だと?」
思わず思った言葉が口から出ていたが、正にこの言葉がぴったりだと思った。むしろ確信に近い。
「これ、完全に趣味の範囲を越えていますよ!?正直前世の世界でだって、ここまで美味しい芋のお菓子食べたことないと思います…。あっちの世界でお店だしたら、間違いなく頂点狙えますよ!!私、断言できますっ!!普段からもお料理を??」
「……ああ。こっちの世界の料理は俺の口には合わなくて、自分の口にするものはだいたい俺自身で作っているが……」
「~っ、すごい!!すご過ぎますよ!!私…、感動してしまいましたっ!!実際に私もずっと前にローム芋を食べたことあるんですが、正直味気なくて…、あまり手が出なかった食材だったんです。それをこんなに美味しく、しかもお菓子にできるなんて…」
「……別に。たいした事はしていない。生きていく中で必然的にそうなったというだけの話だ。それに大ぐらいの大食漢で、味にうるさい愚弟共がうちは二匹もいるからな」
そう言うと、目の前の美しい男は後ろの巨大な二匹の黒い生き物に目を向ける。
「コイツらは獣のくせに、やたらと美食家でな。一度味をしめたら、どこまでも食に関して貪欲で手がかかる…。だからそうこうしているうちに、人の作ったものを食べるより、己で作ったものの方が気楽になってきたというだけだ」
そう言うと、その言葉に反応したのか……、二匹の黒い巨大な生き物はまるでニヤリと笑っているかのように鋭い牙をのぞかせ、口角を上げる。
【娘よ。ハル兄者は肉の焼き加減も最高なのだぞ。今度何か作ってもらうと良い。我ら兄弟でぬしのため、特別旨い魔獣をしとめてきてやろう】
【それはいい!我らの兄者の素晴らしさを、この娘にも見せてやろうではないか!!兄者の作る飯は天下一品なのだ。何が良いだろうか?王角牛か、紫蘇鳥か…】
「………しゃべった!!??」
地を這うように腹の底に響く声が、二匹の巨大な黒い生き物の口から発せられて、私は度肝をぬかされる。
この二匹…、言葉が話せるの!?
「……年月を経て魔力と高い知能を持った幻獣や魔物は、希に人の言語も理解して話すようになる。血統にもよるようだが、コイツらはもうそろそろ600年くらい生きているからな…。コイツらの母親も人のように人語を話していたし、親譲りだろう」
「ろ…600年…?」
何かツッコミ所満載な事を言われた気がするのだけれど、さらりと言われた途方もない年月に、私は気が遠くなってきてしまう。
ご…、ご長寿ですね~………は、コメント的にこの場合当てはまるのだろうか?




