炎の魔術師 炎帝ハル・グラヴィス 本名は…、①
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「……茶菓子だ。まぁ、大したものはないが食べると良い」
「あ…、ありがとうございます」
先程の何とも言えない衝撃的な出会いから間もなく…。
話をするなら場所を変えようと言われ、私は彼の居住スペースらしき場所に案内されていた。
さっきのあの場所から歩いて数分の場所だ。
歩いていくと、森の木々の中にぽっかりと開けたスペースが目の前にとび出てきて、広場の真ん中には大きくて立派な切り株のテーブル。そしてその周りに、丸太の可愛らしい椅子がぐるりと等間隔に置かれていた。
開けたスペースの脇の方には、趣のある釜戸と調理場所らしき広めの机…。アンティーク調の食器棚も用意されている。
木陰がある気持ち良さそうな場所にはハンモックが木にくくられていて、その脇の小さなテーブルには、たくさんの分厚い本が重ねられていた。
所々に小さな草花も可愛らしく咲いていて、日当たりもいいし、上を見上げれば木々に縁どられた丸い青空…。
葉っぱが風に擦れる音と、鳥の鳴き声。そして滝の音…。
(こ、ここは………、天国…………!??)
"憩いと癒しの秘密基地"。
その"最終究極形"といったような場所に案内され、羨ましすぎる…!!と内心私がジェラシーにかられてしまったことは…………、
どうかここだけの秘密にしておいてほしい。
丸太の椅子に案内され、カチャリ、カチャリと、切り株のテーブルの上に、お洒落なティーカップ。
そして美味しそうなお菓子が置かれる…。
その時出された品の良い赤い花柄のティーカップにも驚かされたけれど……、
私は今。それよりも目の前に置かれた"お茶菓子"に気がとられて仕方がなかった。
(これは………。"芋羊羮"………………)
(どっからどう見ても…………"芋羊羮"だよね………???)
「………本当なら緑茶を出したいんだがな…。代用にラマ茶だ。その茶菓子にもなかなか合うと思う。遠慮なく食べてみるといい」
そうして給士を終えた男は、盆を片付け、テーブルの向かいの席に座ってゆったりと自分のお茶を飲み始めた。
男の後ろには、例の二匹の巨大な黒い生き物がお行儀良く座っているのだが、その大きな瞳で興味津々、こちらをじっと見つめてきている。
圧……。圧が半端ない。気まずい…!!!
「あ、あの……」
私は意を決して男に声をかける。
「……何だ。何か苦手なものがあったか?」
「い、いえいえいえ。それはないです。というか、あの…」
話しかけたのは私の方なのに、男に視線を向けられ、こっちの方が思わず焦ってしまう。
何というか……、本当にクリス様といいナオ様といい、この人もズバリ"美し過ぎる"のだ。
まとうオーラもスゴいけど、男らしく綺麗に整った顔立ちと、黒髪からのぞき見える炎の様な深紅の瞳が綺麗で圧倒的に色っぽい…。
視線を向けられると、燃えるようなその深い瞳の色に、のみ込まれそうな感覚に陥るのだ。
(か、勘弁して貰えないだろうか…。田舎者には、その視線だけでもキツすぎる…)
「こ、こっ、これっ!!芋羊羮……………。ですよね………」
グフゲフゴホッ…。
美形耐性の無さに、思わず口が勝手に聞きたい事とは別の事を口走ってしまっていた。
とっさに絞り出して、出てきた問いは芋羊羮……。
しかし、そんなトンチンカンな私の質問にも目の前の美形は気を悪くせずに答えてくれる。
「あぁ…。一応…芋羊羮だ。だが材料がこちらでは充分に用意できないせいで、あくまで芋をふかして固めて似せて作ってあるだけのな。芋もさつまいもに似たローム芋で代用してあるから、”ローム芋の芋羊羮みたいなもの”と言うのが正しいかもしれない。今の味に至るまで大分長かったんだが…………」
男の言葉を聞いて、私はへ〜…、と感心させられる。
まじまじと"芋羊羮みたいなもの"を改めて見てみるが、芋羊羮まんまの見た目だと思う。
むしろ完璧な見た目だと言っても良いかもしれない……。
一方、男の方はまじまじと羊羮を観察する私を見て、心なしか少しそわそわ照れ臭そうな気がするのだが、………………気のせいか?
「わざわざあちらの味を再現させるなんて、クオリティーがすごいです。見た目はもうばっちり芋羊羮ですよ。……それに私、和菓子が苦手な物が多いんですが、芋のお菓子なら食べやすくて嬉しいです。お言葉に甘えていただきますね」
そう言って、私はフォークを使って芋羊羮を一口分に切り分けて、それを口へと運んだ。
「…………お、美味しいっ!!!!」




