二匹の黒竜を従えた青年⑤
そう、クリス様に問われて、とりあえず私は思ったままを口に出してみる。
「えっと、見る感じには……事実?……でしょうか。この国には何かが全く無い様な……。生気みたいな…それが龍脈……?」
「そうだ。龍脈は大地の気の流れ。だから龍脈が枯れれば、それは大地の終わりを意味する」
「……終わり?終わりって……」
「言葉の通りだ。龍脈は、いわば大地の生命力そのものだ。生命力が尽きたり行き渡らなくなれば、その大地は砂漠化。もしくは断裂し、大陸は海の底に沈んでしまう所も出てくるだろう。そしてこの世界の緑は、龍脈の力を取り入れて成長している。龍脈が断たれれば、当然緑は枯れ果てる。つまり"終わり"だ。幻獣も獣も虫達も、生きるもの全て。もちろん俺達人間もな。本当の意味での終わりという意味だ」
「ぜ、全滅じゃないですか……………」
クリス様から告げられて、私は目の前が真っ黒になる。
どうしよう。ますます話が重たくなってしまった。田舎者には到底対処不能な話だ…。
龍脈…。
ものすごく……大事なものなんですね。
完全に、絶対に触っちゃいけない。
どんなものかは見た事ないけれど…………、もし…、もしこれから畑を耕す時、龍脈っぽいものが出てきたとしたら、決して傷つけないようにしよう。
私は固く心に誓う。
でも…………、あれ…? 私は一つの矛盾に思い至る。
「クリス様。一つお聞きしたいんですが、この国の事を話して下さった時、この国?大陸…?の龍脈は"枯れててる"とおっしゃっていませんでしたか?あれ?私の勘違い……だったでしょうか?」
私は疑問に思った事をそのまま口にしてみると、クリス様とナオ様はお互い目を見合わせ、ナオ様の方はためらうような笑みを浮かべる。
「……そうです。この国の龍脈は、今現在も枯れています。そして恐ろしい事に、この国の龍脈は"龍脈のヘソ"とい言って、数多く枝分かれする大地の生命力の中心地なんです。だから正しく言うと、この大地の龍脈は、ほぼ枯れています。いつ…、たった今も大陸に亀裂が入ってもおかしくない状態です。ですから龍脈の力の代替えとして、魔法使いの持つ"魔力"でその力を補い、今現在も絶やす事なく国と大陸中に送り続けているんです。それが今の魔法使い達の"役割"で"義務"になっています」
「ええぇぇぇ!!!!??」
な…、なんて事を聞いてしまったんだ!!!
衝撃の事実に、私は両手で顔をおおいながら自分の迂闊さを呪う。
世界は…、いや、大陸か。すでに何百年も前から滅ぶ寸前だったなんて!!!!
こんな大事実、田舎の一般農民が聞いて良いのだろうか?というか、なぜ私に聞かせた!!?
私はワナワナ震えながら、冷や汗が止まらない…。
「…これは、マルスの国民や大陸の各国の王族しか知らない"超絶"極秘事項だ。迂闊に話すなよ」
で、でしょうねっ!!!!
さらりとクリス様が私に釘をさしてくるが…………
無理です。無理です。無理だってっ!!!!
そんなとてつもない情報、簡単に、田舎者の私に漏らさないでくださいっ!!!
私はもう限界寸前、はち切れる寸前だ。
「さぁ、ここで問題です」
そう言って、ナオ様はにこりと笑いながら、ズビシと私の目の前に人差し指をつき出してくる。
「この大陸全土は、このマルス程ではないですが、ほとんど似たような現状です。
大陸の端まで魔力を巡らせるために、魔法使い達はかなりの圧力をかけて魔力を放っていますから、端の方がむしろこの国より緑が豊かに見える場所もあるでしょう。まだ枯れていない、小さな龍脈のわき出る場所もあるでしょうし…。
ですが、あくまでほんの少し"ましだ"というだけです。私達は国からの指令で他国を訪れた事が何度かありますが、少なくともその例外を今まで一度も知りませんでした。そう。先日、あなたの故郷を訪れるまでは……」
そう言って、ナオ様もクリス様もじっと静かに私の方を見てくる。
「エマ嬢。あなたの故郷の周りにだけなんですよ。あんなに緑があふれていたのは……」
そう告げられた私は、何も言葉を発する事ができなかった。
ただただ呆けた頭で、ガラガラガラ車輪の進む音を馬車の中でぼんやりと聞いているだけだ……。
「これは、いったいどういう意味を持っているのでしょうね……?」




