本当だったようです
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謎の手紙の一件から、既に三日が経とうとしていた。
炎文字はすぐ様跡形もなく消え去ったので、現実味が全くわかなかった私達家族は、三日前の出来事は全て完全になかったものとして処理する事に決めた。
アハハハハって笑って、よくわからないものはスッパリ忘れる!!これがストレスなく毎日過ごす秘訣である。
ムダなものはムダ!!
どう考えても理解できないものにいつまでも悩んだって、ムダはムダでどこまでもムダなのだ。
悩む暇があったら手と体を動かして畑を耕したり、野菜を収穫していた方がずっとましだ。確実に生産性があるからね。
それに。今はタイミング的も時間の無駄遣いはナンスセンス過ぎた。
………マネー=生産。
私達は長年計画をあたため、構想を練りに練っていた大規模農園の実現にようやくのり出した所だった。
領主様に掛け合って土地と流通ルートを確保してもらい、人を雇ってようやく結果が出始めていた。そんな時だったのだ。
私達の目の前に具現化しつつある未来…。
それは、ザ・ビックマネー!!!
正直寝る間も惜しい…。
私達の野望は着実に構想から実行。具現化の段階まで進みつつあった。
目標は手始めにこのド田舎のド田舎に学校や病院、立派な王都へつながる安全な街道を作ること。
そして人並みの生活がおくれる環境と現金収入のサイクルを生み出すこと。
それはきっとこのド田舎だけじゃない。
世界全体で陥っている、枯れた大地による食料不足にも貢献できるはずの大計画なのである。
「エマいるか!?朝中にキュウリの収穫早いとこしないと、食べ頃を過ぎてお化けキュウリになるぞ!!」
ドンドンドン!と家の扉を叩く音がして、隣の家の幼なじみのガルアの声が聞こえてくる。
「わかってるって。もうちょっと待って!今準備終わるからっ!!」
相変わらず朝から早いな~と思いつつ、作業着をすでにしっかりと着て準備万端だった私は、仕上げとばかりに長い髪を邪魔にならないよう三つ編みにざっくりと結ってしまう。
「よし!行くかっ!!」
気合い万端。今日のお弁当と道具を持って入り口の方に歩き出したその時だった。
外でガルアの慌てた言い争う声が聞こえてきたのは。
けたたましいガルアの暴れる音と、離せー!とか、お前ら誰だー!とか不穏な声が聞こえてくる。
「ガルア?いったい誰と話して……」
「……っ!!!バカエマ!!今すぐ扉を閉めろっ!!!」
様子を見ようと恐る恐る入り口の扉を開けると、ガルアの余裕のない焦った怒鳴り声が響く。たぶんとっさに私を守ろうとして扉を閉めろと言ったのだろうけど…。
そんなこと瞬時に状況を把握できる訳がない。
ましてや、反応はもっとできない。
扉を開けた瞬間、ぐわっと圧倒的な力で扉が外へと引っ張り開けられる。
扉に引っ張られるまま私の目に飛び込んできたのは、朝露に濡れたマントを羽織るきらびやかな騎士達の姿。
視界の脇で暴れて首根っこを押さえられているガルアの姿もあった。
そして何より。見上げた私の視界のほとんどを占拠する、今も強い力で扉を閉めさせてくれないこちらを見下ろす一際美しい金髪の騎士の姿…。
「………あなたが、エマ・ブランドン嬢か?」
そう話しかけてきた見目麗しい騎士は、声も一級品だった。気だるげな様子に金髪が朝露に濡れて無駄に色気が爆発している。
思わず魅入ってしまう透き通るようなスカイブルーの瞳に、スラリと鍛えられた体躯。そして濡れたマントから垣間見えるシックできらびやかな騎士服…。
美しい美丈夫+制服萌えの特典付きという、私の中での非現実。生涯で起こりえない大事件がいきなり目の前で勃発したのだ。
(さ、最強じゃないかっ!!!!)
こんな美丈夫がどうしてこんな家のボロ屋なんかに…!?戸惑いつつ固まる思考に、それでもかんでも何とか言葉をひねり出してみる。
「………………た、確かに私がエマです。何かご用で?」
「エマ嬢。あなた宛に入学命令通知の手紙が届いているはずなんだが、その件で我々が国から派遣されたのだ。あなたを入学式に間に合うようにお連れしろという命令で…。お分かりいただけるか?」
「!?」
目の前の騎士の言葉に、私の中に三日前の不可解な出来事がよみがえった。
手紙。 魔法学園。 入学。
(あれ…?手紙ってあの手紙の事よね…?)
あの時はアハハハハと適当に流してしまったのだが、夢だと冗談だと流せない現実が今、目の前で起きていた。
入学命令通知…。命令…。命令…。命令ぇ…?
…………………どうやら、私は観念するしかないらしい。