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精霊獣スイギョクと精霊獣スバル

「申し訳ございませんでしたぁ!!」


「とりあえず頭を上げましょうグスタフさん。この子もぐっすり寝ていますし、多分土下座の意味も分からないですから」


「それじゃ俺の気が済まねえ!何としてもこの不敬を罰してもらわなきゃこの先俺は生きていけねえ!その精霊獣様ができねえならナオユキ様、あんたが俺を罰してくれ!!」


「罰するとか僕はそんな偉そうな立場じゃないですから。それよりもこのままじゃ話が進みませんし、そっちの方がグスタフさんも不本意でしょうから一旦座りましょう。あと様付けはやめてください」


「ぐ、確かにナオユキの言う通りだ。俺ごときのためにスイギョク様とナオユキの貴重な時間を使わせるわけにもいかねえ」


 またもや死を覚悟した土下座を敢行し続けるグスタフを何とか宥めて鎮守の森の精霊獣スイギョクとの会話を再開する直征。


「スイギョク様、ちょっと聞く機会を逸してしまって今更なんですが、僕の言葉、わかるんですか?」


「なんじゃ、まだ知らんかったのか。この世界には言葉という意味での言語は存在せんのじゃよ」


「・・・え!?でもこうして会話をして話も通じているじゃないですか?」


「そこじゃ、互いに意味は通じておるが、ワシとお主は同じ言語を喋っとるわけではないのじゃ。確かに互いに意思を伝えようと声を出してはおるが、それをお主の脳に届けておるのはこの世界に満ちておるマナなのじゃよ」


「マナが、意思を伝える、ですか?」


 スイギョクの話を要約すると、この世界の源ともいうべき万能のエネルギーで、生物に通常有り得ない進化を促したり、魔法と呼ばれる数々の奇跡を起こしたり、熟練の剣士がただの鉄の剣に自分の体の中のマナを纏わせて大きな岩を両断したりとその可能性は無限に広がっていて、膨大なマナの集合体である精霊獣でも未知の部分があるらしい。その中の一つに全く別の生物とでも知能さえあれば会話が可能になる不思議な力が生まれた時から備わっているということらしい。


「まあ疑問はいくらでもあるじゃろうが、今のところは便利な機能程度の認識でよいじゃろう。詳しく知りたければヒトの街にでも行って調べてみた方がナオユキ殿には理解しやすかろう」


「わかりました。えっと、とりあえず今は聞くべきことから聞いていきたいと思います、スイギョク様」


「スイギョク、と呼んでくだされナオユキ殿。神使というのはある意味でこの世界の理から外れた存在じゃが、それでも精霊獣よりは格上じゃよ。とはいえナオユキ殿は堅苦しいのがお嫌いと見えるのでせめて対等な話し方で接しさせてもらいたいのじゃ。おそらく他の精霊獣も同じことを言うであろうの」


 そう直征に言いかけたスイギョクの顔が、なぜか直征には微笑んでくれているように見えた。


「お気遣いありがとうございますスイギョクさん。ならそうさせてもらいますね。では最初の質問なんですが、そもそも精霊獣というのはどういった存在なんですか?」


「必要とことで言うのは難しいが、あえて言うならばこの世界の土地土地を治める神の眷属じゃよ。この世界の生き物の中で特に万物の始まりである『マナ』を多く保有する者が、神に対して絶対服従の契約を結び大地のマナの流れである龍脈と結びつくことで精霊獣は生まれるのじゃ。」


「人間社会でいうところの領主みたいなものですか?」


「少し違うかの。この世界にも領主や群れの長はおるが、あくまでそれは種族ごとの取りまとめ役にすぎん。精霊獣はあくまで土地の管理者であって俗世のことには基本的に不干渉を貫いておる。ただし、土地を荒廃させたり精霊獣に害を及ぼそうとするものは身を滅ぼすことになるがの。そしてそのような土地や精霊獣を支配しようという輩は、愚かにも歴史の中で幾度も出てきては消えて行っておるは事実じゃよ」


「それは、天罰とかのことですか?」


「あれはまさに神の御業、ワシらに到底及びもつかん奇跡じゃよ。ハッハッハ、そのような不敬、神使にしか言えぬセリフじゃのう」


「す、すみません。そういうつもりで言ったわけじゃ・・・」


「よいのじゃよ、この世界を曇りなき眼で見つめる、それもまた神使の役目なのじゃから。そなたはそなたの思うがままにすればよいのじゃよ。それを阻めるものは少なくともこの下界には誰もおらんしのう」


「ありがとうございますスイギョクさん。その言葉肝に銘じます。ところでその精霊獣という存在は世界中にいるものなのですか?」


「そう思ってもらって差し支えないが厳密には違う。ナオユキ殿が旅を続けていけば何れ話くらいは聞くかもしれんが、ワシらの上にはこの世界の要たる龍神脈を守護する神獣という方々がおられる。最もその姿を見た者は精霊獣を含めて誰もおらんから伝説上の存在じゃがな。一説には下界の獣から選ばれる精霊獣と違って神のおわす天界か遣わされたとも云われておる。だがワシは龍脈を通じてあの方々の存在を感じておるから疑ったことは一度のないがの。じゃが神使であるナオユキ殿ならもしかしたら会えるかもしれん。まあ記憶の片隅にでもとどめておけばよいじゃろう」


「それはなんとも夢のある話ですね。旅のついでに探してみるのも面白そうです」


「この世界には精霊獣が支配していることもあって、未だ人族が踏み入れない未踏、禁足区域が多く点在しておる。興味があるならそこを重点的に探してみるとよいじゃろう」


「ありがとうございます、そうしてみます」


 話に一区切りついたところで薬草茶に口をつけた直征は精霊獣の話の下りの中で違和感を覚えた。


 ところでスイギョクさん、今の話で気になったことが・・・」


「わかっておるよ。その子狼のことじゃろう」


「はい、精霊獣というのは土地と結びつくことで初めて成れるのですよね?ならこの子もこの鎮守の森と結びついているんですか?」


「違う、一つの土地につき精霊獣は一体じゃ。精霊獣の眷属ならともかく、少なくともワシは複数の精霊獣が同じ土地にいたことなど聞いた事はない」


「なら違う土地からやって来たということですか?」


「それはなくもないが、極めて低い可能性じゃのう。精霊獣は土地の龍脈と結びつくことで強大な力を手にするが、それと同時に龍脈からのマナの供給なしには生きていけぬという制約も存在する。少しの間なら土地を離れることもできなくはないが、急を要する事態でもない限り精霊獣が土地の外に出ることはあり得んな」


「じゃあスイギョクさんはどうしてこの子を精霊獣だと?」


 どう見ても精霊獣の条件を満たしていないと感じた直征の素朴な疑問にスイギョクはうむ、とうなずいて直征の目を見つめた後、ゆっくりと話し始めた。


「さっきも言ったがの、精霊獣は龍脈を通じてこの世界そのものと繋がっておる。そして神獣様を含めた全ての神の眷属は、龍脈を通じて互いの存在を感じ取ることができる。ここまで言えばわかるかもしれんが、その狼の幼子は間違いなく龍脈と繋がっておる。ただそれだけかとナオユキ殿は思われるかもしれんが、神の許しなしに龍脈と繋がることは不可能なのじゃ。じゃから原因がわからずとも、その子が精霊獣であるということは断言できるのじゃよ」


 スイギョクがそこまで語ったその時、直征の膝の上で寝ていた子狼が目を開いて小さくあくびをした後、直征の体にすり寄り始めた。直征がその可愛らしい様子に目を細めながら背中を撫でていると、グスタフが物珍しそうに声を掛けてきた。


「しっかしその小さな狼の子供が精霊獣様とはねえ。俺はてっきり精霊獣様と言うのは山のようにデカい巨体の方ばっかりだと思ってたぜ」


「小童よ、その認識は決して間違いではないぞ。膨大なマナをその身に溜めるうちに体が大きくなっていくことは精霊獣に限らずこの世界の獣ならば自然なことじゃよ。ただし、元々の霊格の高い一部の獣はマナを体内に収めきれる素養を持っているらしく体の変化が起きにくい個体もおる。おそらくその子狼もその例外の内の一つなのじゃろう。ナオユキ殿、その子狼をこちらに連れてきてはくれんか?近くで見せてもらえばもっと多くのことが分かるかもしれん」


「あ、はい。わかりました」


 そう答えた直征が子狼を抱いてがスイギョクの元へ連れて行くと、スイギョクはその細長い顔だけを近づけて子狼をじっと見つめたり鼻をスンスン鳴らして匂いを嗅いだりした。子狼の方はというと少しは嫌がる素振りを見せるかと思ったが、直征に抱いてもらっているだけで満足らしく、スイギョクの顔が近づいている間も終始大人しくしていた。

 しばらくして子狼のことを調べ終わった様子のスイギョクは直征に戻るように促した後、少し困惑した様子で話し始めた。


「ふうむ、元々正体の知れん奴じゃったが、調べたら調べたで余計分からんようになったわい」


「じゃあスイギョクさん、この子のことは何も分からなかったんですか?」


「いや、そうではないのじゃ。そもそもワシは子狼のマナの流れを調べたのじゃが、調べ自体は滞りなく終了したし、マナの流れも辿ることができた。じゃが肝心のマナの流れが今まで見たこともないようなおかしな動きをしておるのじゃ」


「具体的に言うとどういうことですか?」


「うむ、その子狼のマナは膨大で流れ自体は掴みやすかったのじゃが、どういうわけかナオユキ殿が持ってきたその珍妙な金属の物体に流れ込んだ後、さっぱり流れが途絶えてしまったのじゃよ。ワシも精霊獣として永くこの地をの龍脈を守護してきたが、マナの流れを掴めなかったのはこれが初めてじゃよ」


「なんだかスケールの大きな話でピンときませんが、それはこの子が危険な状態ってことなんですか?」


「ちょっと大げさに言ってしもうたが心配はいらんと思う。その子のマナの流れは順調そのものじゃからその点については太鼓判を押そう」


「そうなんですね。安心しました」


「ワシとしてはマナがどういう流れを辿っているのか確かめたいところじゃが、ナオユキ殿が神使であることを考慮すると神の御業である可能性が高いからのう。所詮ワシごときの力では及びもつかん奇跡なのじゃろうて。それよりもこのことはナオユキ殿にとって重要な一つの事実を指示しておる。何かわかるかの?」


 子狼の件が片付いたところで、直征はスイギョクから突然クイズを出されて一瞬考えを巡らせたが、すぐに先ほどのスイギョクの話の一つに行き当たった。


「スイギョクさん、精霊獣の使命は結びついた龍脈のある土地を守ることといいましたよね?そしてこの子狼は精霊獣だとも」


「うむ、間違いなく言ったぞ」


「この二つの事実を合わせて考えると一つの結論しか思い浮かびません。つまりこの子は僕の自転車を守るために生まれた精霊獣だということですね」


「惜しいのう、八割方正解じゃがそれでは不十分じゃよ。忘れたか、元々その自転車とやらはイナリ神様がナオユキ殿を守るために加護を授けたのであろう。ならば子狼の役目も自転車と共にお主を守ることにあるのではないか?」


「え!?そうなんですか!?というかスイギョクさんに僕のことを話したことはないはずですがどうして?」


「お主のようなイレギュラーが自分のテリトリーに侵入すれば動向を知りたがるのは当然じゃろう。昨夜のナオユキ殿たち三人のセイラン村での会話は聞かせてもらっておる。まあ普段はこの森に住む者たちの自主性を尊重しとるからそんなことはせんがの」


「なるほど、それでですか。それにしても僕と僕の自転車を守る精霊獣ですか、なんだか大袈裟な気もしますけど」


「いや、そうとも言えんじゃろう。霊格の高い獣というのはマナの集まるスポットに引き付けられる習性がある。大量のマナが流れていることのわかったナオユキ殿の自転車はそ奴らにとって格好の獲物に見えるじゃろうの。神の加護を授けられたナオユキ殿を襲うものは滅多におらんじゃろうが、恐れを知らぬバカというものはどこにでも湧いて(わいて)出るものじゃ。その時にお主を守る手段が多いことには越したことはないと思うぞ」


「そう言われればそんな気もしますけど、どう見ても生まれたばかりって感じののこの子が凶暴な魔獣と戦うんですか?いくら何でも無茶というか酷いというか」


「ほっほっほ、ワシら精霊獣にとって時間というのは有って無いような物でのう、その子ががそのような姿をしているのは今の状況に相応しいと本能で直感しておるからじゃよ」


「つまり自分自身、または守護対象の僕と自転車に危機が迫ればその場に相応しい姿に変化するってことですか?」


「そういうことじゃ」


(この子が魔獣と戦うのか、なんだか想像もつかないけどな)


 それがこの子の役目か、とひとまず納得した直征は、ふと目の前の巨大なオオアリクイの精霊獣のことが気になった。


「そういえば、スイギョクさんや他の方にも精霊獣としての役目ってあるんですか?」


「いや大抵の精霊獣は守護しておる土地の安定にのみ気を配る程度じゃ。具体的には生息している動植物の均衡を守ったり水の流れの管理などが挙げられるのう。後はたまにやってくる跳ねっ返りの魔獣をあしらうくらいじゃよ」


「へぇ、なんだか悠々自適の生活って感じですね」


「じゃがワシの役目は他の精霊獣とは少々異なる。ナオユキ殿が聞いてきた時は鋭い質問じゃと内心驚いたぞ」


「え、そうだったんですか?ただ気になっただけで、そんなに深い意味はなかったんですけど」


「その直感が時に自らの命を救うこともある。大事にしなされ。さて、他の精霊獣にはないワシだけの役目じゃが、その理由はこの森の外にある」


「外って言ったら、死の大地ですか?」


「その通りじゃ。すでに村長と小童から話を聞いておるようじゃが、死の大地に命の息吹が絶えておる原因は彼の地の覇者、デスアントの存在がある。奴らがあれ以上テリトリーを広げられぬのはここにワシがおるからじゃよ」


「死の大地自体は非常に広大なのじゃが、三方を海に囲まれておって、もしも強引に海を渡ろうとすれば海中を縄張りとする精霊獣やその眷属に悉く(ことごとく)食い尽くされることになる。そして唯一の陸路をこの鎮守の森が塞いでおるのじゃよ」


「なるほど、オオアリクイはアリにとって天敵ですよね・・・もし、この森がなかったらこの森の先の陸地はどうなってしまうんですか?」


「控えめに言って地獄、順当にいけばこの大陸の破滅といったところじゃろう」


「そ、そこまで!?」


「実際にはこの大陸の話だけでは済むまいて。大陸の全てを食い尽くしてデスアントが爆発的に増殖すれば、陸地は埋め尽くされ海へと次々と溢れ出す恐れがある。そうなれば最早海の精霊獣でもすべてのデスアントを食い尽くすことができずに他の大陸への侵入を許すことになるじゃろう。まさに世界の破滅じゃ」


 あの小さなアリが無数に増えて世界中を列を成して闊歩する姿を想像して直征は背筋が冷たくなった。同時に目の前の精霊獣がどれだけの大きな責任を背負っているのかを考えると尊敬の念がふつふつと湧いてきた。


「つまりここは世界を守る最初にして最後の盾ということですね。すごいですスイギョクさん!そんな方に出会えて本当に光栄です!」


「な、なんじゃいきなり。褒めても何も出んぞ。・・・もう一杯薬草茶はいかがかの?気に入ったなら土産に茶葉を分けてやろうかの?」




 それからしばらくの間、スイギョクから改めてこの世界に来た経緯を聞かれた直征は薬草茶や一緒に出された見たこともないフルーツを味わいながらココノエとの出会いの一部始終を語った。当然その場にはグスタフもいたのだが、時々緊張の面持ちで薬草茶に口を付ける以外は一言どころか微動だにしなかった。一方もう一体の精霊獣である子狼は、度々直征に向かってかまって欲しそうなつぶらな瞳で懸命に尻尾を振っては、体中を撫でられたりマッサージされて終始ご機嫌だった。

 直征の話を聞きながらそんな主従の様子を眺めていたスイギョクは、直征の話が一段落したタイミングでにおもむろに話題を変えた。


「そういえばナオユキ殿、その子に名前は付けてやらんのか?」


「名前、ですか?」


「いつまでもこの子やら子狼では可哀そうかろう。旅に連れていくとなればやはりお主しか名付け親はおらんじゃろうが」


 直征とスイギョクの会話を理解しているのか、子狼が尻尾をこれまで以上に振り回して興奮しだした。


「なんだ、お前も名前を付けてほしいのか?そうだな・・・・・・スバルっていうのはどうかな?いくつもの星が煌めいているような毛並みを持っているからスバル。気に入ったかな?」


 先ほどまでのテンションがマックスだと思われた子狼、スバルは直征の膝から転げ落ちそうなほど興奮しながらしがみ付いてきた。


「あははは、くすぐったいよ。でも気に入ってもらえたようでうれしいよ。これからよろしくな、スバル」


「クゥーン」


 スバルを拾った当初こそ一緒に連れて行くことに健康面の問題で否定的だった直征だったが、どうせ旅をするなら一人より誰かが一緒にいたほうが楽しいのは間違いないので、新しくできた小さいながらも精霊獣という心強い同行者の存在を心の底から歓迎した。




 その場で少しの間直征とスバルのあいさつ代わりのスキンシップを見守っていたスイギョクは一段落した頃合いを見計らって直征に話しかけてきた。


「よかったのうナオユキ殿。ワシとしても神使にはできる限り便宜を図る立場なものでな、護衛役の精霊獣が同行するのは願ってもないことじゃよ」


「あ、スイギョクさん、お待たせしてしまってすみません」


「よいよい、元々ワシが呼びつけたのじゃし、こちらの用事はすでに済んでおる。ナオユキ殿の疑問も大方解消できたとは思うが、他にワシに聞きたいことやしてほしいことはあるかのう?ここまで足を運んでくれた礼じゃ、何でも言ってくれて構わんぞ」


「そうですね・・・、一つお願いといいますか、許可を頂きたいことがあります。この周辺の光景を記録させてほしいのです」


「なんじゃ、そんなことか。もちろん神使であるナオユキ殿の願いを断る理由はないが、どうやって記録するのじゃ。一口に記録といっても方法は様々じゃろう」


「これを使ってココノエさん、イナリ様に旅の様子を報告してるんですけど」


 そう言ってリュックからスマホを取り出した直征は、スイギョクに断ってからご馳走になっている薬草茶の入ったコップをカメラで撮影してその画像をスイギョクとグスタフに見せた。


「ほう、これはこれは。ワシも長いこと精霊獣をやっとるが、異世界のアイテムを見るのは初めてじゃ。何とも綺麗に見えるものじゃのう」


「なんだこりゃ!?確かにコップはここにあるのに、こっちにも見えやがる。かと言って土魔法で作ったわけでもなさそうだし、訳が分からねえ!!」


 流石に年の功というか、スイギョクは驚きつつも落ち着いた感じで興味深くこちらを見ているのに対し、案の定グスタフの方は鮮明に映し出されたスマホの画像に大騒ぎだった。

 直征の膝の上のスバルもキラキラした目で身を乗り出すようにスマホを見つめていた。


「そうだ、せっかくなので皆さんで記念写真を撮りましょう。プリントアウトする手段がないので写真を渡すことができないのが残念ですけど」


 そう言った直征は簡単にスイギョクとグスタフに写真の仕組みを説明すると、丁度いい撮影位置を見つけるためにスマホのカメラを起動してスイギョクとテーブルの間をうろうろし始めた。


「うむ、よくわからんがこの場の全員をそのコップのように記録を残したいということじゃな。このような経験二度とできるものでもないじゃろうから喜んで協力しよう。こら、小童。鎮守の森の精霊獣としての命じゃ。大人しく観念せい」


「勘弁してくだせえ!神使様と精霊獣お二方と並んで立つなんて罰あたりにも程がある!俺は死ぬにしても天罰でだけは死にたくねえ!」


「ごちゃごちゃ言っとらんでサッサと並ばんか!そんなんじゃからいつまでたってもお主は小童なんじゃ。少しはスバルを見習え!」


 恥も外聞もかなぐり捨てて逃走しようとしたグスタフを、スイギョクがマナの力で地面から生やした草で捕獲して目の前に連れ戻して説得している間に、直征はスイギョクの前に自転車を移動させてカゴの中にスバルを座らせた。一瞬寂しそうな眼を見せたスバルだったが、吠える様子はなく大人しくカゴに収まっていた。


「スイギョクさん、この位置までテーブルを移動させてっもらっていいですか?・・・そう、そこで止めてください。あと高さをこのくらいで・・・ありがとうございます。よし、角度もばっちりだ、タイマーをセットして、みなさーーーん、一瞬ピカッと光りますけど目は瞑らないでくださいねーーー。じゃあ撮りますよーーーーー」


 そう言ってタイマーを作動させた直征は気持ち急いでスイギョクの手前まで移動して置いてあった自転車のハンドルを握ってカメラの方を見た。


「これから僕が言うセリフを復唱してください。行きますよ、はいチーーーズ!!」


 因みにこの後、唯一の一般人であるグスタフが彼の人生で一番の狂乱振りを見せたことは言うまでもない。

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