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第1話

無事だろうか、なぜこんなところに。

私--エミリア--は、暗い洞窟を一心不乱に駆けていた。隣を走る男の、闇に溶けきらない金色の目が、脳裏に激しく焼き付いた。


話は、太陽を空のてっぺんにぐいっと戻したところまで遡る。


「キール、キール早くして!」


小走りの私の後ろを悠々とついてくるのは、酒場であった無愛想な男。私のパーティの誘いに意外にも頷いてくれた。


取れない眉間のシワのまま、「キールだ」と名乗った。どこかで聞いたことある名前のような……。まぁ、いいだろう。


「依頼、なくなっちゃうじゃない!」


依頼、とは街の大広場の掲示板に、紙で貼ってあるのだが、まぁ早い者勝ちである。採集や畑荒らしの追っ払いなど、可愛いものから、魔物の討伐など本格的なものまで。もちろん報酬も大きく変わっていく。


掲示板の人混みを、なんとか縫うように進み、さらりと見通すと、ひとつ破いて依頼書を取る。


「ねぇ、キールこれどう?街の外の洞窟まで薬草とってきてだって」


簡単で安全そうな依頼を取ったのは、もちろん魔物が怖いからで。冒険者、名乗るのは簡単である。私は街からでたことがなかった。


「別に俺はそれでもいいが、あんたその格好どうにかしてくれ」


「格好?あんたじゃないわ、エミリアよ」


「きちんとした防具をつけてくれってことだよエミリア。それじゃ会敵したら死ぬぞ」


そう言ってキールはそっぽ向きを向くと、大通りへずんすんと進んでいく。人は多いけれど、厳つい甲冑と長身のお陰で見失わずにすんだ。


少し歩いて、足を止めた店の看板は『武具・防具屋』。有無をいわせぬ勢いでキールがもってきた防具を、店番のおばさんが私には無理やり着せた。


「ねぇ、キール!ダサいよ!重いよ!しかもなんか痛いし!」


「ダサいのはつける側の問題だろ、重いのも痛いのも慣れるよ」


なんとか痛くないようゴソゴソと試行錯誤する私をおいて、キールは行ってしまう。振り返って一言。


「ほら。薬草いくんだろう?」


ずんずんと進んでいく背中を追いかけて、人混みを抜ける。こちらを気にもとめない足取りは、私の小走りでやっとだ。日光を反射する甲冑だけを見ていると、いつの間にか町を出て、草原に出ていた。


「わ、ひろ……」その広大さに、ぼそと呟く。


「初めてじゃねぇんだから」ってキールは笑ったけれど、何を隠そう初めてなのだ。用がなければ町の外など滅多に出ない。


意外とのどかな事に驚きつつ、周囲をキョロキョロと見渡す。平坦な草原に、ひとつ小高い丘のあることに気がついた。あ、なんだろうあれ。頂上に、石碑のようなものが立っている。石碑にしては大きいかな……なんだろう。


「ねぇ、あれなぁに?」


興味本位で、聞いてみる。私の問いかけをちゃんちゃら無視して、キールは口を開いた。


「おい、洞窟あれだろ?」


甲冑がガチャリと音を立て、指さした方向。目を向ける。切り立った崖に穴が空き、大人二人分くらいの高さの、陽の当たらない真っ暗闇。はぁ、この中に入るのか。


手持ちのランタンに火をつけて、薄明かりで進む。昼だというのに、ひやりと肌寒い。


照らした足元に、びっしりと生えた薬草を摘む。いっこ、にこ、と。ポシェットに入れて……。「もう行こっか」そう声をかけようとしたときだった。


「うぁああーーん!!助けて!」


洞窟の奥からの子供の声。二人同時に振り向いて、走り出す。これで話は冒頭に戻るのだ。


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