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第10話

緑あふれるエルフの秘境、太陽のように燃える火柱がひとつ立っていた。炎の正体は、燃え盛る大木。なぜこんなことになったのか、ぼんやりとした頭で思い起こす。


あの戦い--正確には私達は戦っていないが--の後、キールと共に、元来た道を戻った。あんな阿鼻叫喚の地獄を見たあと。


それでも芸術的な彫刻のようにエルフたちは美しいし、この緑の大地も一流の名画のようと言える。


無傷で帰ってきた私達に、エルフの長は目を丸くした。「よくやってくれました、いますぐ移住しよう」と長は上機嫌に告げる。


大して思いれもない……のかな、エルフ達は大木から瞬く間に出ていき、早々に引き渡して、元いた地に帰る準備を始めた。


「おい、キール。どうやって封印を解くか考えましたか?」


「燃やしていいだろ、これ。別にただでかいだけで、あんたらの御神木ってわけでもないだろ」


長のおじいさん、なぜキールの名前を知っているのだろう。キールは謎が多すぎて、私にはなにもわからなかった。いつ話してくれるのだろう。


キールの言うとおり、木は燃やされたわけだ。轟々と音を立て、熱気を周囲に漂わせながら。この木は、何年生きたのだろう--。


「エミリア、じいさんがお祝いにメシご馳走してくれるってよ」


沈みきった意識は、キールの一言で浮上した。背後からかけられた声に振り向く。揺れる炎を綺麗に写し取る金色の目に、視線を止める。


「え、あ、うん」


歯切れの悪い返事をして。ひとつだけ、聞きたいことがあった。その場から動かない私に、キールは不思議そうに首をかしげた。


「……この旅はさ、これからもあんな風に犠牲が出るの?」


「命の危険があるっていったろ」


炎の音にかき消される程の呟きを、キールは拾ってくれた。そして、めんどくさいそうに吐き捨てる。


「自分が……とかもそうだけど、あと四つの封印を解くまでに、これから何人死ぬの?」


燃え盛る大木を見た時に、先程の戦いが脳裏にちらついた。炎の赤に、血の赤。そして髪の赤。


二つ縛りの毛先が揺れて、視界に赤がちらつく。その度に切ってしまいたくなる衝動に駆られる。


「なぁ、あんたさ……」


ため息混じり。付いてくんな、とか言われるのだろうか。面と向かうと、その体の大きさと威圧感を改めて感じる。じわりと手に汗をかいた。


「洞窟でバーサークを殺した時はそういう風に言わなかっただろ? 今回だって俺たち二人でどうやってダークエルフを追っ払うつもりだった?」


冷たい声が鼓膜を打つ。雷に打たれたような衝撃であった。だって、あれは魔物で、一体で。そう言おうとした時。


命に価値でもつけてるだろう、キールの目がそう語る。声が詰まって、ひゅっと掠れた息が漏れた。


「なにか勘違いしてねぇか? 全員救えると思ってねぇか? したいことは慈善事業じゃねぇんだ、俺がしたいのは……」


キールは何かを言いかけるように、声には出なかったけれど、口をはくと動かした。考えるように、一拍おいて再度口を開く。


「やらなきゃいけねぇことは、魔王を復活させることだ。それで、魔物に統制をもたせる」


ぎゅっと手を前に差し出すと、キールは拳を作った。痛ましいほど、鍛え抜かれた手で。


「犠牲は厭わねえ、それだけだ」吐き捨てるように言うと、背を向けて歩き出す。


わたしは反論も共感もなにもできなくて、そんな自分に嫌気がさした。キールの背中だけをじっと見る。熱で目が乾く、ぽろりと一粒雫が垂れた。


五歩ほど歩いて、キールが思い出したように振り返る。


「あんた、あと封印四つって言っただろ?あれ、三つだぞ」


炎の発する赤を顔に浮かべて、キールは歪に片方の口角を上げた。私にはそれが変に厭らしく見えた。


「ほらいくぞ」って、手を引いてくれたキールの体温が、怖いほど全身に染み回るように伝わってきた。

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