私は良い子
「あ、いいよ、私やっとく。」
「え、まじで。本当に?ありがと、超ごめんー。」
「うん大丈夫だよーバイバーイ。」
「ごめん、今日どうしても別件入っちゃって、夕飯行けなくなっちゃった。超ごめん。」
「あ、いいよ、大丈夫。またね。」
「ありがとー。」
「あ、あのさ、どうしても明後日までにこれが必要なんだよね、なんとかならないかなあ。」
「あ、いいですよ、私、持ってるんで、私物ですけど持ってきましょうか?」
「え、本当に?ありがとう、すごい助かる。」
「いえ。」
「そっか、それは辛かったね。」
「うん、ひとみに相談してよかった、ひとみだけだよこんな話できるの…。」
「そっか、うん、よかった。」
「なんかさ、矢上さんって、超いい人だよね。」
「だよね、めっちゃ気がきく。」
「常に周りのニーズ見えてる。」
「悩みとかもすごい分かってくれるし。」
「分かる、なんかこう、考えてることとか、感じてることとか、ズバッと当ててくるっていうか。」
「それね、ときどきもはや若干怖いっていう。」
「あー、それは否めない。ちょっと見透かされてる感ある。」
「分かる。」
「ずっと一緒にいるのはちょい疲れるかも。」
「私も無理だわ。」
「でもたまに会いたいよね、悩んでる時とか、こう、なんか助言が欲しい時とかね、定期的に?」
「いつも的確なこと言ってくれるもんね、他の人とは違う視点から言ってくれたり。」
「そうそう。」
「それなのに超いい人なんだよね、偉ぶらないし。」
「自分の意見とか押し付けないもんね。」
「こっちの話ちゃんと聞いてくれるもんね。」
「実際、いつも何考えてるんだろ。」
「あー、それわからないかも。何考えてんだろ。日本経済とかかな。むずかしーことよく知ってるし。」
「あ、実は言わないだけで実は結構ダークなこと考えてたりして。」
「いやいや、ないでしょ、ひとみんに限ってそれはない。」
「はは、じょーだんじょーだん、だったらちょっと面白いな、って思っただけ。」
「あはは。確かに。逆に面白いかも。」
「あ、先輩来た。」
「え、やべ、怒られる。戻ろー。」
私、矢上ひとみ、28歳、OL。
みんな私を「良い人」だと言います。
私は良い人になりたいんです。
そのために、全てを犠牲にして来たんです。
それはいけないことですか?
そしたら、世界の全てが、憎くなってしまいました。
私は一体、どうすれば良いですか。
「矢上さーん、これ、ちょっとお願いしてもいい?」
「あ、はい、大丈夫です。」
全人類が憎いです。