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闇落ち砕きの利己主義者(エゴイスト)  作者: コミネカズキ
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断罪

その姿は、まるで荒野を駆け抜ける1匹の黒豹の様だった。

風を孕み疾駆する黒豹は、ターゲットを見つけると雷の如き速さで距離を詰め、相手が殆どその姿すら視認する間もなく殴り倒し、或いは蹴り倒した。


ターゲットは主にヤクザとは違ういわゆる生産性の無いチンピラやチーマー、酔って大声を出したり騒いだりしているクズ、など……とにかく他者に暴力を意味もなく、或いは些細なことで振るいそうな風貌をしているヤツらだ。


ある時は裏路地でカツアゲをしている不良の後頭部を蹴り飛ばし、またある時は通りすがりの女性に絡むチャラいスカウトの溝を肘でエグり、病院送りになるほどのダメージを与えると素早くその場を離れ再びターゲットを探した。

これで今日は何人に制裁を与えただろうか?

しかしまだだ。

まだまだだ。

黒豹の如きその女性の想い人を襲った奴は、恐らく見つかる事は無いだろう。

……ならば、その可能性の有る人間をこの街から全員排除してしまえばいい。

この街は三つの駅に囲まれている。

いわゆる繁華街もその駅周辺に密集している。

つまり、その三駅周辺の害悪を一掃してしまえば、自然と彼の仇を打った事になる。


走っていると派手な格好をして音楽をかけながら公園に群がる若者の集団を見つけた。

どうやらボードの練習をしているらしい。


……ああいうヤツらかも知れない。

翔に一方的に暴力を振るい未来を奪った馬鹿共は……。


刹那、彼女の瞳が闇色に染まる。

人間離れした脚力で群れの中に飛び込むとボードに乗っていた緑色の服の男を蹴り飛ばし、その蹴った反動で付近にいた金髪の男の顎を右拳で突き上げた。

吹き飛ばされた男は泡を吹いて気絶し、金髪は脳震盪で倒れ込む。



「あと……3人……。」


馬鹿うるさい音楽とは裏腹に、屯していた男達が凍り付く。

突然目の前に現れた女?は黒い闇のような湯気を出し、ゆらりゆらりと近づいてくる。


「ひっ!?」


1人が後ずさった瞬間、女は男の視界から超高速で消えた。


「え?……あれ?」


「おい!後ろ!?」


消えた女は戸惑う短髪の男の背後にぬるりと現れると首元に手刀を叩きこんだ。


「ヴゲェ……!?」


さらに一気に距離を詰めてもう一人のスキンヘッドの男の股間を蹴りあげる。

泡を吹き倒れる2人の男達。


「さて、あと一人……か。」


「な……何なんだお前は!?お、俺達が何をしたって言うんだ!?」


恐怖しながらも目の前で繰り広げられる不条理に精神ギリギリで抗う最後の一人。


「深夜の公園での騒音。集団で溜まることによる他者への圧力。……お前達みたいなやつはきっと平気で暴力も振るうに違いない。」


女……名栗花子(なぐりはなこ)から発せられた声の口調は、もはや19歳の女性のそれでは無かった。


「故に……私がお前達を断罪する。この街から暴力が無くなるその日まで断罪し続ける。」

正に電光石火の踏み込みで男に殴りかかった花子の拳は、しかしギリギリで男の脇を掠めそれた。

いや、そらされた。


「め、めちゃくちゃ言わないで下さい!暴力を無くすために貴方が暴力を奮ってちゃ支離滅裂だ!」


そう、あろう事かこの俺によってそらされたのだ。




一週間前、闇堕ち砕きのサポートの依頼を夏人さんから受けた俺は、まずとある発明家の家に案内された。


「モノヒト、依頼を引き受けてくれたのは正直助かったぜ。……で、今回の依頼をこなす上でお前に足りないものをここで用意する。」


「俺に足りないもの……ですか?」


川越の観光名所、蔵づくりの町並みのメインストリートから少し外れた奥にあるその家の庭先で、俺は不審な顔をしながら聞き返した。


「まあ、それは中で説明する。でもその前にまずはコレを持て。」


そう言うと夏人さんは俺に黒くて長くて軽い棒を手渡してきた。


「ん、あれこれ……菓子屋横丁に売ってるやつじゃないですか?」


蔵造りの町並みの一画には菓子屋横丁というエリアがあり、様々な菓子や漬け物、得体の知れないオモチャや岩塩の塊など様々な土産物が売られている。

中でも大人気なのが長いふ菓子だ。

某北海道の大人気旅番組でも今や全国区となったあの人気俳優に紹介されている。


「そう、ふ菓子だ。これから会う奴な、ふ菓子に限らず兎に角駄菓子に目が無いんだ。それを渡せば多分力を貸してくれる。」


「はあ。」


「んじゃあ中に入るぞ。」


促されるまま中に入ると、そこには現実離れした空間が広がっていた。

訳の分からない機械や装置、様々なフラスコとビーカー、足の踏み場もないくらいのコード類が床に所狭しと散らばっている。


「何だここ!?」


思わず出た俺の声を掻き消すように別の声がした。


「ようこそ超科学施設【時の方舟】へ!……おや?拳龍氏君じゃないか?珍しい。」


「ご無沙汰です、教授。」


教授と呼ばれたその人は、異常なほど小柄で目鼻立ちがクッキリとした老人だった。

が、外国人だろうか?


「モノヒト、こちらは邪邪教授。いわゆるマッドサイエンティストだ。」


「あ、はい。……え!?マッドサイエンティスト??」


「フハハ!褒め言葉だな!!」


「さすが教授!」


何が流石なのか全くわからない。


「ちなみに邪邪教授と言うのは本当の名前じゃない。教授の本名は誰も知らないんだ。」


いや、興味ない。全く興味ない。


「ところで、今日はどうした拳龍氏君?」


「実は教授にお力添え頂きたい案件が有りまして……。こいつ、筆谷者人の肉体を改造して欲しいんです。」


「……は?……は!?!?」


ん?間違いでなければ今俺の体を改造するとか聴こえたんだが?

意味が解らない。


「ほうほう人体改造か。トキメクワードでは有る……が!タダでというわけにはいかないぞ?」


「勿論です。謝礼はこちらで。」


そう言うと夏人さんは俺の手からふ菓子をもぎ取って教授に渡した。

……一旦俺に持たせた意味、無くない?


「なるほどほうほう。ほうほうなるほど……よし、引き受けた!」


あ、意外と敷居低い。

……いやいや。


「いや人体改造って何ですか!?え!?メカ的なアレですか!?」


「フハハハハ!若いな!人体改造といっても色々有るのだよ!?」


「い、色々?」


「今回の改造方法は〜〜……」


……タメ、長いな。

無駄に長い。


「超科学トレーニングだ!!!」


意気揚々と言ってのけた邪邪教授の顔が、心なしか若干若返った様に見えた。

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