説明
「簡単に説明するぜ。お前には悪魔が取り付いてました。悪魔ってのは人が落ち込んでたり悲しんでたり怒ってたり絶望してたり……まあ要するに負の感情になっている時にその心に付け込んで身体を乗っ取ろうとするゴミカス共です。」
ぶん殴られて回転して吹っ飛んで倒れている俺に、男はさも面倒くさいと言った感じの口調で話しかけてきた。
「で、お前は見事に悪魔に身体を乗っ取られて心もマインドコントロールされて負の感情の赴くままに暴れていました。この乗っ取られたマヌケな状態を【闇堕ち】って言います。業界用語です。」
何処の業界だ?
「で!だ!お前みたいな闇堕ちしたヤツが現れると俺のこの妖怪大辞典……もといハデスのエヴァ……えーと、エヴァなんとか。」
おもむろに例のラノベサイズのボロボロの本を出す男。
「……たしか、ハデスの福音書、だろ?」
「そう!それそれ!ハデスのエヴァンゲリ○ンにその状況が書き記される。」
突っ込まないぞ。
「……状況??」
「はいそうです状況状況。お前がどんな経緯で闇堕ちしたのか〜とか、お前に憑いてる悪魔がどんなヤツ〜とか、取り憑かれた後何をしたか〜とかが、まるっと全部書き記される。」
「……何が言いたいんだ?俺に説教でもするつもりか?」
一瞬俺の言葉が理解できないような表情をする男。
少しして、ああなるほど言った具合で喋り始めた。
「いや別にお前がした事に今さら文句を言うつもりは無ぇよ。それにやらせてたのは悪魔……シャックスだ。」
「……確かに今までの俺ならこんなに大それた事はしなかった。信じられないが悪魔に取り憑かれていたとしか思えない。」
「だろ?」
「だけど……だけど後悔はしていないんだ。俺が黒い玉で制裁を加えてきたクズ共は、本当にカスだ。今もその気持ちは変わらない。」
男は何も言わず気だるげに、適当にこちらを見ている。
なんだかその態度が気に入らなくて俺はさらに言葉を続けた。
「あんたみたいな、人とは違う強い力を持ってる人にはわからないかもしれないけど、真面目に生きているヤツがコイツらクズに傷付けられてる!俺もクズのせいで家も母親も失ったんだ!クズ共に制裁を加えちゃ悪いのかよ!?」
気がつくと興奮しすぎて肩で息をしていた。
そして、またあの日の様に視界が真っ暗に塗りかける。
「だから、油断するなよって!」
パアアアンッ!
思い切り平手打ちをくらい一回転する俺。
それに合わせて再び視界が晴れる。
「さっきシャックスとのリンクはブン殴って切ってやったけど、結局お前のマイナス感情が高まるとまた悪魔に取り憑かれるんだよ。それにシャックスだってブッ殺せだわけじゃねー。悪魔の世界に弾き飛ばしただけだからな。時間が経てば戻ってきてまた取り付く可能性が有る。」
そう言うと男はゴソゴソ懐からアクセサリーの様なモノを取り出した。
「取り敢えず、暫くコレ付けて過ごせ。」
三角の装飾品がついたネックレスを俺に無理やり握らせる。
「シャックスは三角形のものを付けていると近寄ってこない。」
「こんな物で?」
「悪魔の特性ってヤツで大体一つ二つウイークポイント……つまり弱点がある事が多いんだよ。ドラキュラがニンニクとか十字架に弱い〜みたいな感じでな。シャックスは三角形の物の中だと絶対服従する特性があるから、身に付けてるだけでも嫌がって寄って来なくなる。」
俺は言われるがままに首からネックレスをかけた。
装備しないとまたぶん殴られそうだったからだ。
「でもまあ結局そんな物一時凌ぎにしかならないからな。お前自身がお前の心の弱っちい部分と向き合わねーと根本的な解決にならないぜ?」
男はそう言ったが俺は到底そんな気にはなれなかった。
さっきも言ったが、カスに制裁を加えた事になんの後悔も無いのだから。
そんな思考を巡らせていると……
「お、おい君ぃ。助けてくれたのか?あ、有難う。」
小汚い声がした。
「あの化け物は……消えた、のか??」
暴力教師の海沢が起き上がってこちらに向かってくる。
「さ、作田ああぁ!テメーぶっ殺すぞコラああっ!!」
シャックスの力が消えたせいか高田と岸田も起き上がってきた。
「何だか解んねーけとテメーの仕業だってことは解ったぜ!テメー生きて帰れると思うなよ!?」
自分にとっての脅威が消えたのを知ると途端に暴れ出す。
動物かコイツ??
梅沢の方を見ると2人を止めるどころかニヤニヤ笑っている。
こんなカスが教師??
やはりこの世の中はカスばかりだ。
近づいてきた高田が俺の襟首を掴む。
そして首を締め付けながら小汚い声を発した。
「覚悟しろよ、このクソ野郎!ぶっ殺してやる!」
その瞬間、高田の身体が俺から引き剥がされ空高く舞い上がり10回転くらいして落ちた。




