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闇落ち砕きの利己主義者(エゴイスト)  作者: コミネカズキ
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未来

埼玉県川越市を恐怖のドン底に陥れた大天使メタトロンによる連続殺人事件から2年が経過した。

もっともメタトロン達天使が視認出来ない世間一般的には謎の連続殺人事件として扱われている。

WEBサイト「裁きの部屋」に投稿されていた書き込みが余りにも事件の被害者の死に様に酷似していたことから、サイト管理人である

琴尾津久(ことおしんく)が疑われた時期も有ったが、確かな証拠が一切上がらなかった為うやむやになった。

無理もない。

当の琴尾本人は父神ゼウスの裁きの雷により死んでしまっていたのだから。


川越市連続殺人事件は悪魔や天使を認識している一部の人間以外にとっては実に後味の悪い事件となった。


まあ俺達闇堕ち砕きにとっても、数十人の被害者が出てしまっている時点で決して後味の良いモノでは無いが……。


特に俺にとっては……。


二年前のあの日、夏人さんがoverroadナックルで吹き飛ばしたゼウスはキリモミ状に回転しながら俺に激突し、なんと……悪魔シャックス同様俺の身体にめり込んで抜けなくなり、そして俺と同化してしまったのだ。


あの時の夏人さんの大爆笑と俺の体内にいたシャックスの絶望の悲鳴は今でも忘れられない。


何を試しても抜け出せないゼウスが抜けるのを諦めるのと、そんなゼウスと同居する事になったシャックスを宥め2人の折り合いを付けるのに1ヶ月以上かかった。


改めて闇堕ち砕きのバイトに復帰しようとした俺を夏人さんが連れていったのは、東京の永田町に有る国会議事堂の地下に秘密裏に建造された部屋だった。

そこに居たのは国防大臣を初めとするTVで何となく見た事のある大臣数名と内閣総理大臣、いわゆる国のお偉いさん達だ。


「大臣の皆さん、コイツが先日お話した闇堕ち砕き埼玉支部見習いアルバイトの筆谷者人(ふでたにものひと)です。」


ザワザワザワ


途端に永田町の地下がどよめく。

国家権力の申し子達がたかだか中学生男子にどよめくとか、この国の将来が不安だ。


「そ、その子供の中に……本当に居るのかね?拳龍氏(かんりゅうじ)君?」


声を若干荒らげながら国防大臣が夏人さんに問い掛けた。


「ええ、間違い無いですよ。こいつ、筆谷者人の中には【悪魔シャックス】と【父神ゼウス】が封じ込まれています。しかもジャックスの力に関しては既にコントロール済みです」


ザワザワザワザワ!


再び永田町の地下が騒めき立つ。


「な、ならばゼウスの力はどうなんだね?」


「もちろん!そちらも俺と邪邪教授が全力でサポートして使いこなせるようにしてみせますのでご安心を。」


「そんな事本当に可能なのかね!?あの強大なゼウスの力を操れるとはとても思えんが……」


「あ、あの……!」


空気を読まずに発言した俺に大臣達が非難めいた視線を飛ばす。

いやいやおかしいだろ、俺の話してるのに俺が声出したら睨まれたぞ。


「いやえっと、ですね……。」


視線の圧に思わず躊躇してどもってしまった。


「なんだね!?言いたい事が有るならさっさと言いたまえ!」


え~~!?不条理極まりない。


「モノヒト、何か有るなら遠慮なく言って良いぞ?」


夏人さんが俺の肩を叩く。


「あの、ゼウスとは話し合いが付いてまして……もう力を使える状態何ですが。」


体内に閉じ込められたゼウスには、俺の身体からは恐らく抜けられない事、俺が傷付いたり死んだりするとゼウスも共倒れになる事などをコツコツと説明し、1ヶ月掛けて納得してもらい、共に共存して行く方向で話が付いていた。


「馬鹿な!?こんな子供が……」


何か言いかけていたハゲが居たが俺が掌から放電して見せるとピタリと黙って息を呑んだ。


「おお!モノヒトスゲーな!もうジジイの力を使えるようになったのかよ!」


「納得してもらうのにだいぶ時間掛かりましたけどね。」


ずっと黙って聞いていた内閣総理大臣が不意に立ち上がり宣言した。


「悪魔の力に……神の力を使う少年か。よし、申し分無い!彼を国所属の正式な闇堕ち砕きに任命する!!」


「え?……ええ!?」



こうして俺、筆谷者人は闇堕ち砕きとして正式に国に雇用されたのだった。

今から約二年前の話である。


そして時は経ち……


「さって、今日から俺も高三かぁ。友達百人出来るかな~。」


誰にとも無く話す俺。


「いやいやいや、モノヒト基本ぼっちだから100人とか無理っしょ。てか今まで17年間掛けて友達……ってか知り合い?が数人居るだけなんだから夢見ない方が良いよ~。」


「何を言っている!モノヒトはいつも闇堕ち砕きで忙しいのだ!しかも今まであのクソ忌々しい拳龍氏夏人(かんりゅうじなつひと)のバディとしてこき使われていたのだから友人など寄り付くわけあるまい!」


俺の右肩と左肩で二頭身のヌイグルミが言い争いをしている。

察しが良い方はお気付きだろう。

そう、コイツらは悪魔シャックスと父神ゼウスが具現化した姿だ。

始めのうちは俺の体内で俺の心に語り掛けてくるだけだったのだが、飽きたらしく最近ではこんな感じに自身をディフォルメした人形に模し直接外界と関わっている。

もっとも俺の身体を介さないと強い力は使えないのでせいぜい言い争いをしたりチョコチョコ動いたりするのが関の山だが。


「2人とも何気なく俺の心を抉ってくるのやめてくれない?もし俺がショックで自殺とかしたら2人も一蓮托生なんだからな。」


「……はあ。めんどくせぇ。」


「人間と友人は居らんでも魑魅魍魎や怪物がたくさん寄ってくるから寂しくないであろう?」


なんか……どっと疲れた。


度重なる闇堕ち砕きの仕事と、従来の余り外交的ではない性分が重なった結果、俺は確かに17歳にして未だに友人が居な……い、いやす……少ない。

数少ない友人、と言うか兄貴分の夏人さんとも人手不足が原因で本日からバディが解消され、単独で任務に当たる事になっている。


孤独に苛まれていると聞き覚えのある声が道向こうから聴こえてきた。


「モノヒトく~~ん!」


闇堕ち砕き埼玉支部の事務員、無印(むじるし)さんだ。

物凄く疲れた中年のサラリーマンみたいに見えるが、こう見えてまだ20代である。

事務員も人手不足で東京と神奈川の仕事も兼任しているらしい。

闇堕ち砕きisブラック企業だ笑えない。


「ソロの闇堕ち砕きになったんだってね、おめでとう!これでモノヒト君も1人前だね。」


「あ、はぁ……ありがとうございます。」


「……で、早速なんだけど所沢駅周辺で悪魔に取り憑かれた人が暴れているらしいんだよ。あと朝霞駅の近くで妖怪の目撃情報が多発しててね、調べてほしいんだ。」


「あ、いやでも俺これから始業式なんですけど?」


「大丈夫大丈夫!学校には国から圧力掛けてあるからモノヒト君が多少休んでも単位落としたりはしないよ!問題無い!」


恐るべし国家権力。


「さあさあ今日もお国の為、市民の平和為にレッツラバトルだよ!」


どうやら拒否権は無いらしい。

これは……友達百人どころか知り合い数人も希望薄かもしれない。


「はぁ~~。」


溜息を一つつき、頬を軽くぺチリと叩いて気持ちを切り替える。

[友達100人]より大切な俺の目標、それは夏人さんに追い付く事。

力も心も、いつかあの人みたいにでっかくなりたい。


「闇討ち砕き埼玉支部、筆谷者人!任務了解致しました!直ちに現場に急行致します!」


物語の脇役だった俺が、巻き込まれ、翻弄され、たどり着いたその先は……まるでマンガの主人公の様な波乱万丈な世界。

それでも今はハッキリとココが自分の場所だと思えるから……夏人さんに護られていたイージーモードから1人で闘うハードモードへ、俺は今日……1歩目を踏み出した。


空は今日も真っ黒に曇り、辺りには不快な風が吹く。


最高の闇堕ち砕き日和だ。


[大天使 メタトロン/父神 ゼウス編 完]

これにて、闇堕ち砕きの利己主義者のお話はひとまず完結です。前作に比べ短めになりましたが自分の中では丁度良い長さかな~と。モノヒト君の物語はまだまだ続きそうですが、それはまたいつか機会が有れば……。最後まで読んで頂いた皆様に心から感謝します。


2017年7月 コミネカズキ

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