神砕
「いやーモノヒト、俺も散々修行してパワーアップ帰って来たけどお前はお前でスッゲェ成長したんだな。」
夏人さんが俺の肩をポンポン叩きながら言う。
その余りにも緊張感の無い声と表情に俺は戸惑った。
「へ?あ、あの……?」
「神様に喧嘩売れるなら一人前だ。兄貴分としては鼻が高いぜ。」
動揺している俺の肩から手を離し、スッと前に歩みでる。
「さてと、神様と戦うのは初めてじゃあ無いが……ゼウスか。神様のボスの力はどんなものかな~?」
一瞬耳を疑った。
確かに夏人さんの力は常軌を逸している。
事実、先程も大天使メタトロンを軽くあしらっていた。
しかし今度ばかりは相手が悪い。
何しろ神様の中の神様、大神ゼウスである。
しかし……しかし俺の脇を通り過ぎた時の夏人さんの表情は、全く恐怖していなかったのだ。
むしろ余裕すら感じた。
「ん?聞き違いで無ければお前、私と戦うつもりか?」
夏人さんがニヤリと笑を浮かべる。
「お前今『馬鹿な人間だ』と思ったろ。
今まで俺がぶっ飛ばしてきた天使や悪魔も全員そんな顔してたぜ?」
「私をそこいらの雑魚悪魔と一括りにするとは……やはり人間とは愚かな生き物だな。身の程を知るが良い」
「御託はもう良いよ神様ぁ、さっさとやろうぜ?」
ゼウスから慈悲の笑が消える。
「蛮族め……。では望み通り消し炭にしてやろう!」
言うや否やゼウスが雷霆を振り下ろす。
凄まじい威力の雷の塊が目にも止まらぬ速度でこちらに迫る…と言うか俺には速すぎて認識すら出来ていない。
しかし……
バチバチバチバッチーンッッッ!!!
何と夏人さんは雷霆を両手で受け止め、挙句の果てには……
「うりゃああああっ!!」
気合いの叫びを上げ雲散霧消させた。
「な!?マジか!?」
思わず驚嘆の声を上げる俺。
ゼウスの顔もあからさまに驚愕している。
次の瞬間、今度は夏人さんの姿が俺の視界から消えた。
恐らく認識出来ない速度で移動したのだ。
そして
バギィッッ!!
耳を劈くような轟音がしたかと思った瞬間、ゼウスの身体が大地に叩きつけられバウンドした。
「ぐあっ!!」
バギィバギィッッッ!
苦悶の表情で唸るゼウスの身体が今度は斜め上の方に吹き飛ばされる。
目を凝らすと、今度は微かに……ほんの一瞬だけ夏人さんの姿が確認出来た。
先程も今も恐らく夏人さんがゼウスを蹴り飛ばしていたのだ。
ドカッ!バギィ!ドガガッッッ!!
空中をクの時に成りながら右へ左へピンボールの様に吹き飛ばされるゼウス。
合間合間に見える夏人さん(……の影程度しか見えないが)。
あの人マジでそろそろ人間じゃ無いな。
数10回景気の良いダメージ音が聞こえたあたりで俺の4~5メートル先の地面にゼウスが落下してきた。
「ぐはっ……!!に、人間風情が何故この様な力を……!?!?お……おのれっ!こうなったらラグナロクに備え蓄えていた私の真の力を見せてやるわ!!」
ワナワナ震えながらブツブツ喋っていたゼウスは一瞬だけ目を瞑ったかと思うと一気に神力を解放した。
額に第三の目が開眼し、背中から巨大な2重の光輪が現れさらにその光輪から光る6本の板の様なエネルギー体が右上、左上、右、左、右下、左下にそれぞれ突き出ている。
さらに元々筋骨隆々だった身体は何故か金色に輝きオーラも今までの清らかな白色から金ピカに変わっている。
「どうだ下賎な人間よ!これが神の中の神!父神ゼウスのハイパーモードだ!!さあ逝くぞ人間のッッッ……??!!」
「勝手にベラベラ喋ってんじゃねぇよクソジジイ!」
金ピカな人の台詞が全部終わる前に高速移動してきた夏人さんの鉄拳が、その腹にめり込んだ。
「ぐふぅ!!」
あー……これは……痛い。
「そいじゃあそちらさんもネタ切れみたいだしそろそろトドメを刺してやる。」
そういうと夏人さんは右腕を前に翳す。
程なく溢れる凄まじいエネルギー。
そして腕に浮かび上がる【overload】の文字。
それを見た瞬間、父神ゼウスが震え上がった。
「な!?ば、バカな!?その力は伝説の神竜族のモノ!!な、何故人間如きが!?」
何か毎度毎度思うけど、悪魔も神様もみんなアレを見ると水戸黄門の印籠をみた悪代官みたいなリアクションとるなぁ。
どうでも良いけどね。
「ごちゃごちゃうるせぇ!ぶっ飛びやがれ!」
「いや、ちょ!まっ!ヒィッッッ!!」
マヌケな悲鳴を上げて逃げようとしたゼウスの顔面に夏人さんの【overload】ナックルが容赦なく炸裂した。
「いぎゃあああああああっ!!!」
もう神の威厳もへったくれもない。
……痛いもんね、あのパンチ。
……経験者は語る。
ゼウスは微かに避けようとした事で真っ直ぐぶっ飛ばされず、キリモミしながら宙を舞い……そして……。
そして……おい、ちょっと待て。
「あ、いっけね~。」
間の抜けた夏人さんの声が聞こえたのと、俺にゼウスがぶっ飛ばされて激突したのは、ほぼ同じタイミングだった。




